RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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案の定、今日も兄貴から電話がかかって来る。
今日も出ないつもりでいたのだが、どうしても話したいことがあり電話を取ることにした。
どうせ無視したところで、自責意識が支配するのだから。
出てしまうのが一番楽……では、あるのだけれども。
きっと、夜遥はそれを『良し』とはしてくれないのだろうな。







「あ、今回は出たんだ。もう出ないかと思った」



「出るつもりなんてなかったよ。
 ……ただ、どうしても聞きたいことができた」



「へぇ、兄からの電話を散々無視した挙句、
 聞きたいことがあるなんてどのツラして言ってんの?
 出来損ないからの質問なんて答える義理がどこにもないんだけど?」



「けど、そうだねぇ……
 『今まで兄の電話を無視してすみませんでした。
 俺は月影家の面汚しで両親と兄の顔に泥を塗ったゴミです』

 って土下座してくれたら1つくらい聞いてやってもいいよ」



「お前と違って、俺の貴重な時間を割くんだ。
 相応の質問をしろよ」



「まあ、誠心誠意の謝罪をしたら、の話だけど」



「…………ッ、」




些細な質問だ。別に聞くまでもないような、しょうもない質問。
電話越しだから、真に土下座をしているかどうかなんて分からないだろう。
そもそも、そんなものに応じてまで聞く必要があることかと問われれば、否。



「…………」



「……………………」




あれは、煽っている。
拒否することで沸き立つ忌避感と罪悪感を。




「……い、」



「今まで……兄の電話を無視して、すみませんでした……
 俺は月影家の面汚しで……両親と、兄の顔に……泥を塗った、ゴミです……」




首輪をつけられて、鎖で引っ張られている。
じゃらじゃらと、ありもしない金属音が耳鳴りのように響く。
兄貴の嘲笑が、耳障りだ。




「……ははっ」



本当にやるんだ、気持ち悪。
 プライドとかないの? 意地汚すぎて呆れを通り越すな」



「……。…………それで」



「兄貴は熱出したときって学校休まされてた?」




聞くようなことではない。分かっている。
ただ、疑いもしなかった常識があるということを自覚しただけ。
それを兄貴に聞いたってどうしようもない話なのだけれど。


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[Eno.232] 2025-10-13 14:16:53 No.6922725

「あとはアヤメはおとなしい服の方が似合うよ。
 そういう話じゃないって? そっかあ」

これは惚気。

「風邪でもそうなんだけど、とりあえず熱!
 って感じなんだよな。金曜日のは風邪じゃないんだけど」
「42度からが本番、って親から習ったんだけど、
 3人って42度代出したことある?」

あってたまるか。

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カナ [Eno.24] 2025-10-13 14:29:26 No.6923255

「それは分かる気がする。
 あやめるは奥ゆかしき美人さんだよ……」

首肯。

「ない。
 てか42度って普通に生死の境じゃね」

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クズヤマ [Eno.225] 2025-10-13 14:35:57 No.6923517

「人間のタンパク質って42度で変性するらしいけど……。
 42度は本番というよりは終了だね

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今日、教室でこういうやりとりになって。
そのときは大して何とも思わなかったのだけれども、
棘が刺さったような違和感を覚えて、拭えなかった。

後になって思えば。
これを……否定、したかったのだろうな、と思う。



「そりゃ、37度以上出たら休まされて看病されてたけど」



「……俺は39度以上でも学校に行かされたよ」



「知ってるよ。お前には言ってるの聞いたし。
 42度からが本番だとか、この程度で休むとか甘えだとか」



「大体お前だけだよ、知らないの。
 知ったところでお前の面倒なんて見る価値がないことには
 変わりないんだけどさ」



「……じゃあ。やっぱり知ってて言ったんだ」



「そりゃあそうだろ。お前だけ知らなかったんでしょ。
 体温計ってさあ、42度までしか計れないんだけど、何でか知ってる?」





「それ以上は死ぬからだよ」




「さっさと死ねって言ってたのに。
 お前は本当に何も理解できなかったんだなぁ」





「…………、」




「あぁ、これだから無知って可哀想だ」



「親なりの熱心な教育だと思ったの?
 そんなわけないだろ。思い上がるのも大概にしろよ




―― そうして、電話は切られた。
好き放題言う兄の声は、随分と楽し気だった。
楽しんでいる。出来損ないを虐げることを。



「…………」




「……そりゃあ、そうだよな」






信じたかったんだな。
これが教育の一環で、兄と同じになるための励ましだったんだって。

歪んでいてもいいから、愛していた証だったのだって。
思い込んでいたかったのだろうな。


そんなもの、ありもしないのに。