RECORD

Eno.232 月影誠の記録

10/15


「ほな第一回、翼君による情操教育スタートや。
 正直別のプランを考えとったんやけど、お前には早いなって思った。
 せやからまずはこの初級カリキュラムからいくで」



「おうごっつい乗り気やん。
 いうて漫画読んで感想言うだけやろ? そんなんでええんか?」



お前はその感想を言う能力すら欠けとるやろ。
 ほな今日は俺セレクション、この話からいくで」




どうやら1話完結もので、現実でも充分起こり得る人間関係を題材にしたらしい。
漫画ならではの誇張表現はあるものの、凡そあり得る内容であり、話も長くはなく1話5分程度で読めてしまう。
なお、全部無料なので俺の懐事情にも優しい。助かる。

今回の話は「優しい旦那が消えたと思ったら、一週間後に知らない女の人と一緒に見つかった」というもの。
男性の方は行き過ぎたお人よしで、泣いている人を助けようとした、らしいが。



「はいまず感想言うてみ?」



「…………すいません翼先生」



「これ女の人何でこんな怒っとるん?」



「マジか」



「すまん誠の彼女、
 俺らがこいつの情操教育を怠ったばっかりに
 とんでもないモンスターを生み出してもうたかもしれん」



「何でアヤメに謝んの」



「お前の彼女に同情しとんじゃい」





「じゃあまず初めにやけど、
 お前が彼女と突然音信不通になったらどうする?」



「? 探す」



「俺はすぐに見つけられる自信ある」



「そういう問題ちゃうわボケ」



「てか見つけた場合、
 知らんやつとのお楽しみ現場に遭遇しかねんわけやけど」



「……?」



「知らん人側がその人の旦那さんに酷いことされて飛び出して、
 主人公の旦那さんに抱き締めてもらってた、ってことやんな?」



「一週間おらんかったんは事情が事情やし、しゃーなくない?」



「一番大切にしてくれへん奴はいらんってお前も痛い目遭うか?」



「いや、でもせやから旦那さんは埋め合わせするいうとるやん……?」



「因みにお前はここの表現を文字通りに捉えとると思うけど、
 そこの表現って【言えないよ】って意味やぞ」



「え?」



「お前の彼女が言い出したらどないする?」



「それは……」



「・・・・・・・・・・・・」



「あ、キレるとか悲しむとか、そういう感情はストレートに出していけ。
 あくまでもフィクションや、いや現実にあったかもしらん話やけど」



「別に誰に向く矛先でもあらへん。
 お前は感情をセーブする癖あるし、ここでぐらいちゃんと晒しぃや」



「…………多分」



「めちゃくちゃ喚く……」



「喚くだけで済ますんや、優しいな」



「ちょっと何しでかすか分からない……」



「ええやん」



「あかんやろ!」





「んで、困ってたから放っておけなかったって言うて、
 その旦那さんは能動的に奥さんを放っておいて
 知らん人を慰めまくってたわけやなあ」



「助けたるんやったら知らん人を保護して事情聞いてサツに引き渡すか、
 家に連絡するか、まあその辺やろ」



「大事にする優先順位をしくると痛い目に遭うで、ってはなっしゃ」



「……翼」



「俺、相当ヤバいな?」



「今更気付いた?」



「今になって俺の情操教育失敗がどれだけ恐ろしいかっていうのを
 身に染みて理解したわ」



「お前の場合、これがリアルで相談されたらちゃんと理解できるのに、
 自分のこととか作品になった途端これなんがヤバいんよな。
 なんでやねんどないなっとんねん」



「まあ、情緒バブちゃんがよちよちできるぐらいまで成長したやん。
 この調子で頑張って人間になってこな」







……自分の好みの傾向が分からないこと。趣味がないこと。
すぐに気を落とすこと。どうして怒られているかがすぐに分からないこと。
意図せず傷つけてしまうこと。上手く嘘を付けないこと。

あんなに俺を支えてくれているのに、自分は仇で返すことしかできない。
上手く応えられていないこともよく分かっている。

だから、今。親友の力を借りている。
これは親がどういう人間で、どういう関係かを知っている人間でないと頼めないことだ。
幸いなことに、翼は「お前に好きな漫画を紹介できて嬉しいわ」と何故か満足気で付き合ってくれる。
こうして変わらずに残ってくれている縁の、なんとありがたいことか。



変わるために。応えるために。
嘘をつくために。もうこれ以上傷つけないために。
優しく在れない自分が嫌いだ。家族みたいな人間にはなりたくない。
傷つけると分かるたび、人を殺しかけたことを思い出す。
あの血の気が引いていく感覚が、どうにも似ていて。胸が、痛くなる。

だから。
もう、間違えたくないんだよ。