RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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「ほな次の教材に行こか。今日の教材はこいつや」



「これ俺が他の話読むのはあかんの? かなり話数あるみたいやけど」



地雷ロードローラーする気か?
 繊細人間はやめとき、お前には早すぎる話がある」



「情緒バブちゃんで理解でけへんって意味も含めたらごっつ多くなるけど」



おう急に喧嘩売ってくるやん。買うたろか




というわけで、通話を繋ぎながら今日も勧められた漫画を読む。
今日の話は主人公が高校の時にいじめを受け、耐えながら大人になった。
結婚して幸せに暮らしている頃に、いじめの主犯者が余命三か月もないと医師に宣告され、会いたいと主人公に連絡をした。
そうして主人公はその人間に会うために病院へ向かい、謝罪を受け。

過去の行いを許さずに酷い言葉を返して、自分はこれからも幸せに暮らしていくという、そういう話だった。



「はい読書感想文の時間や。お前はこの話をどう思った?」



「…………どう、なぁ……」



「……正直、気持ちのええ話ちゃうくて。
 そもそもや、何でこんないじめなんかしたんかが分からん、っちゅうか」



「お前はいじめとは無縁な学生生活を送ってったもんなぁ」



「いうて、それは俺もなんやけどな。
 お前がおらんかったら、うちのクラスも分からんかったやろうなあ」



「……え、俺がおったからなん?」



「俺はそう思う、っちゅう話やけどな。
 ほら、うちのクラスってお前の両親っちゅう、共通の敵がおったやん」



「クラスの全員が、お前の両親のヤバさを知っとる。
 お前が追い込まれてボロボロんなった姿も知っとる」



「ゆうて、勿論お前のことが苦手で距離を取っとった奴はおったで。
 けど、追い打ちはかけんかった。
 一種の怯えとか恐怖とか、そういう感情やったやろし」



「……人殺し寸前、やなくて。虐待受けて死ぬ寸前、みたいに見えたから。
 そういう類の恐怖やったんやろなあ」



「……正直な、俺は主人公がやりすぎというか、
 死に際の人間に放つ言葉やないと思う」



「けど……それは、俺がいじめっちゅうもんを
 理解しとらんからなんやろな、って」



「実際、主人公が自殺しかけたってシーンもあったし。
 そんぐらいのことされとった描写もある。
 許せ、ともよう言わんねんけど、なんやろな……」



「そうか。いや、その感想は大事にしてほしいし、
 何も間違いやないと思う」



「けど、俺はな、こう思うんや」



いじめた奴の自業自得で。受けた報復としては生ぬるい



「…………」



「許さんかったんかったの、一種の気高さすらある。
 そんで、自分はちゃんと幸せになっとるんやから」



美しいな、とすら思う」



「……ほんまに、なぁ」



「やっぱ作品と現実の見え方ってちゃうな。
 現実やったら復讐するって決めたとしてもそいつの背押したんのに」



「逆に言えば、お前にもその権利があると思うとるよ」



「え? 俺? 俺はいじめ受けとらんが?」



なんで? なんでなん?
 何でお前は自分に対する比喩も感情も全が鈍いん?



「この脈絡ですっとぼけられることある?
 なあ? これ俺が悪いんか?」