RECORD
Eno.22 雲隠 運太郎の記録
●体表炭化水素
─2017年
俺は白質切截式卵母細胞移植適合術を受けた。
親父が頭を撫でてくれたことなんて無くて、
触診の際に頭に触れるぐらいだった。
お袋が抱きしめてくれたことなんて無くて、
検査台に乗せられる時に抱き上げられるぐらいだった。
眼の前で弟が泣き叫ぼうと、俺は何も感じなくなっていた。
弟が本で殴ってくることも無くなって、

とても頭が良く、礼儀正しく、優しくていつも誰かを助けようと考えてるような人間になった。
優しくもなくて、時々暴れて、口も悪いけど、
俺の自慢だった弟は、泣き叫びながら、死んだ。
なんで急に、全ての違和感に気づいた?
幸せな夢から覚めた?
コロちゃんに触ったから?
どこまでが夢で、どこまでが本物だ?
今の俺は本当に人間?

トアの声がする。

少しでも気を緩めたら吐きそうだった。
トアは本物なのか?
それとも、施術とやらが生み出した幻なのか?





全てを取り戻しても、トアは変わらなかった。
トアは施術によって生み出された偽りの幸福じゃなかった。
その喜びが徐々に体を満たして……

ガサ、ガサと、何かが蠢く音。
トアの胸からする。
人の心音って、こんな音だったっけ。
学校の授業で脈の測り方や心臓、心音については学んだし、
俺は抱きしめられて、心音を聞くことが好きだった。
夢なのか真実なのか、俺にはもう違いがわからないけれど。
少なくとも、こんな音ではなかったはず……

白質切截式卵母細胞移植適合術。
蟻型怪異である、ヒプノスの卵を移植。
そういえば、トアも……俺とは逆だけど。額の眉あたりに、切れた痕がある。

いつから?

そうだ、額の傷は、出会ったときから。
トアが怒った姿を見たことない。
拒絶されたこともない。
とても頭が良く、礼儀正しく、優しくていつも誰かを助けようと考えてるような人間だった。
おそらく俺の生まれ育った場所は、巨大な蟻の巣だ。
俺は白質切截式卵母細胞移植適合術を受けた。
親父が頭を撫でてくれたことなんて無くて、
触診の際に頭に触れるぐらいだった。
お袋が抱きしめてくれたことなんて無くて、
検査台に乗せられる時に抱き上げられるぐらいだった。
眼の前で弟が泣き叫ぼうと、俺は何も感じなくなっていた。
弟が本で殴ってくることも無くなって、

「兄さん、おはようございます」
とても頭が良く、礼儀正しく、優しくていつも誰かを助けようと考えてるような人間になった。
優しくもなくて、時々暴れて、口も悪いけど、
俺の自慢だった弟は、泣き叫びながら、死んだ。
なんで急に、全ての違和感に気づいた?
幸せな夢から覚めた?
コロちゃんに触ったから?
どこまでが夢で、どこまでが本物だ?
今の俺は本当に人間?

「うんたろー、遅いから様子見に来ちゃった。
どうしたの?」
トアの声がする。

「…………」
少しでも気を緩めたら吐きそうだった。
トアは本物なのか?
それとも、施術とやらが生み出した幻なのか?

「…………」

「えいっ」

「……ッ!?」

「なにかあったの?
大丈夫、大丈夫だよ~」

「トア……」
全てを取り戻しても、トアは変わらなかった。
トアは施術によって生み出された偽りの幸福じゃなかった。
その喜びが徐々に体を満たして……

「………?」
ガサ、ガサと、何かが蠢く音。
トアの胸からする。
人の心音って、こんな音だったっけ。
学校の授業で脈の測り方や心臓、心音については学んだし、
俺は抱きしめられて、心音を聞くことが好きだった。
夢なのか真実なのか、俺にはもう違いがわからないけれど。
少なくとも、こんな音ではなかったはず……

「蟻」
白質切截式卵母細胞移植適合術。
蟻型怪異である、ヒプノスの卵を移植。
そういえば、トアも……俺とは逆だけど。額の眉あたりに、切れた痕がある。

「そうか、トアも……」
いつから?

「ちょっと休んでから、戻ろっか」
そうだ、額の傷は、出会ったときから。
トアが怒った姿を見たことない。
拒絶されたこともない。
とても頭が良く、礼儀正しく、優しくていつも誰かを助けようと考えてるような人間だった。
おそらく俺の生まれ育った場所は、巨大な蟻の巣だ。