RECORD

Eno.372 橘ネムの記録

橘ネムの日常

「……」



夜の街を歩く。異形ひしめく、裏の街を。


螺千の城は何年も過ごした地。
危険だがその分色々なものがある。生き残るだけの腕さえあれば生きやすい街。
町の行き来が面倒で、飯がピンキリなのは悩みどころだが。



「うわっここも潰れてんのか、馴染みの店がどんどんなくなりやがるな…」



テナント募集中の札のついた店を見ながら、一人ぼやく
この土地では店の入れ代わりが激しい。
こうして新しい店が開いては潰れる。何かの拍子で老舗も潰れる。



まぁそれも、螺千城の当たり前だ。



「……夜、長ぇな」



夜は眠れないから、毎日のようにここへ足を運んで、消えない街灯の中を歩いてゆく。
昼なのか夜なのかも分からないこの螺千城の中で時を過ごすのは、少しほっとする。
夜の嫌なことを忘れられるから。



「ま。
 ここに来るのも悪かねぇ」



裏に関わるのは、嫌いなことじゃない。
ここでずっと育ったから。ここで一人で生き延びてきたから。

表の方が、最初は馴染めなかった。
ある日、ある人に会うまでは。



「…先生」



今はもういない恩師。自分を支えてくれた人。
自分と同じ苦しみを持っていた人。



あの人の意思を継ぐのが、今の自分のすべきことだから。



「もう少し頑張るよ、アタシさ」