RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
Halloween Magic
世間はハロウィン。喫茶店の中はジャック・オ・ランタンの明かりでオレンジに染まり、テーブルは陽介の手作り料理で埋め尽くされている。
かぼちゃスープ、ピザ、プリンが並び、テレビからはニュースが流れている。
陽介が来てちょうど一週間。あいつは勝手に居候を決め込んだ。無論、タダで住ませる訳ではなく店の手伝いをしてもらっている。
今夜は陽介がハロウィンらしいこと出来てないから何かやろうと言い出したのが始まりだった。
そこで、地元にいる雪と彰も誘いパーティをしようという流れになった。
陽介がパソコンのセッティングが終わるとビデオ通話が繋がり、画面に雪と彰が映る。
雪はいつものボサボサ髪、目の下にクマ。彰は隣で紅茶をすすっている。
「おう、雪! 彰! ハロウィンパーティ、ようこそ!」
陽介が鍋を掲げ、かぼちゃスープをドンブリに注ぐ。湯気が立ち上る。
「まずは腹ごしらえだ! 雪もちゃんと食えよ!」
『……栄養食品、補充したから大丈夫』
「ダメダメ! ちゃんと飯食えって!」
陽介がスープを俺の分と自分の分をよそい、画面に向かってスプーンを振る。
雪は苦笑いし、彰がかぼちゃクッキーを取り出した。
「よーし、乾杯!」
陽介がオレンジジュースのコップを掲げる。俺はリンゴジュース、雪は栄養ドリンク、彰は紅茶。画面越しにコップを合わせる音が響く。
「ハロウィン、おめでとう!」
『おめでとう!』
スープを一口。かぼちゃの甘みと野菜の旨味が広がる。
「美味い……陽介、ほんと料理上手いな」
「おう! 雪、そっちはどうだ?」
彰がクッキーを雪に差し出す。
『ほら、雪。ちゃんと噛んで』
『……うん』
俺はピザを一切れ取り、チーズを伸ばしながら頬張る。雪はクッキーを小さくかじり、画面越しに微笑む。
『陽介、昔みたいに騒がしいね…でも、こうやってみんなと集まるのなんか懐かしいね…』
「おう! 雪も昔みたいに笑ってるじゃん!」
陽介がクッキーを頬張りながら、ふと彰に目を向ける。
「そういやさ、彰。探偵業の方は最近どうなの?」
彰は紅茶のカップを置き、少し得意げに微笑んだ。
『うん、順調だよ。最近は篠崎さんと一緒に仕事したんだ』
俺はピザを口に運ぶ手を止める。父さん——地元の刑事だ。
「父さんと?」
『うん、連続窃盗事件で、警察の捜査に協力したの。篠崎さん、相変わらず鋭くてね。現場の証拠から犯人の足取りを一瞬で見抜いて……僕も勉強になった』
陽介が目を丸くする。
「おお! 相変わらずすげぇな!駿の親父さん」
俺は苦笑いしつつ、頷く。
「父さん、相変わらずか……」
彰は少し照れたように続ける。
『篠崎さん、僕の分析を褒めてくれたよ。「探偵王子の推理は違うな」って』
「へえ、父さんがそんなこと言うなんて珍しいな」
陽介がプリンを配り、俺たちは画面越しにスプーンを動かす。甘くて、幸せな味だ。
俺はふと、画面の雪を見つめてニヤリと笑った。
「なあ、雪ちゃん。ハロウィンなんだから、アレ言ってよ」
雪が首を傾げる。
『……え? 何を?』
「ほら、知ってるだろ。トリック・オア・トリート」
雪は一瞬固まり、頬を赤くする。
『……やだよ、恥ずかしい……』
陽介が大爆笑し、彰もクスクス笑う。
『ほら、雪。駿君が言うなら、ちゃんと言いなさい』
雪はため息をつき、画面に顔を近づけて、小さな声で——
『……と、トリック・オア・トリート……』
「聞こえねー! もっと元気に!」
『……トリック・オア・トリート!!』
雪が顔を真っ赤にして叫ぶ。俺はプリンを差し出す。
「お菓子あげる! よく言えた!」
『……もう、駿君のいじわる……』
でも、雪は照れながらも笑っている。
陽介が笑う。雪はクッキーを口に運び、頷く。
『……食べてるよ。彰が、作ってくれた』
食事が一段落し、陽介が立ち上がる。
「よーし! 腹も満たされたところで——仮装大会だぁ!!」
陽介が段ボール箱を抱えて戻ってきた。どこから持ってきたのか、中身は文化祭の頃の衣装の山。
「ちょ、待てよ! なんでそんなもん持ってんだ!?」
「親父に頼んで送ってもらったぜ! ほら、雪も彰も準備OK?」
画面の向こうで、彰がニヤリと笑う。雪は「え……?」と目を丸くしている。
『……まさか、私にも着せる気?』
「当たり前だろ! ハロウィンだぜ!」
彰が画面の外に消え、数秒後——
『きゃっ……! ちょっと、彰!?』
雪の悲鳴。画面に現れたのは、メイド服姿の雪。文化祭の頃、クラスの喫茶店で着たやつだ。黒と白のフリルに、頭にはカチューシャ。雪は顔を真っ赤にして両手でスカートを押さえている。
『……やだ、恥ずかしい……』
「うわっ! 雪、メイド似合うじゃん!!」
陽介が大爆笑。俺も思わず吹き出す。
「雪ちゃん、かわいいじゃん」
『駿君まで……!』
雪は画面を覆おうとするが、彰が後ろから肩を抱いて固定。
『ほら、ちゃんと見せて。文化祭の時も人気者だったでしょ』
彰自身は、ヨウコウのマスコットキャラクター「ヨウくん」の着ぐるみ。黄色いクマの姿に、でっかいリボン。
「おいおい! それ俺んちのマスコットじゃねーか!!」
陽介が腹を抱えて転がる。ヨウコウは陽介の実家が経営するデパートだ。
「彰、どこで手に入れたんだよ!」
『イベントノテツダイデモラッタノニアウデショ?』
彰が裏声を使いヨウくんの声でピョコピョコ跳ねる。雪はメイド姿でため息。
『……もう、仕方ないな』
「よーし! 対抗だ!!」
陽介が箱から取り出したのは——文化祭のスケバン衣装。俺が女装コンテストで着たやつだ。長いスカートにセーラー服、竹刀まで完備。
陽介がニヤリと笑い、俺の肩をポンと叩く。
「行くぜ! 相棒!!」
俺は一瞬でスイッチが入る。ニヤリと笑い、竹刀を肩に担ぐ。
「押忍!!」
スケバン姿の俺、完成。長いスカートを翻し、竹刀を振り回して仁王立ち。
陽介は自分の頭にかぼちゃの被り物を被っていた。
「うわっ…懐かしい〜女装コンの時に着てたやつ」
画面の雪が吹き出す。彰もヨウくんで拍手。
「どうすか!どうすか!なかなか似合うっしょこれ!」
俺は竹刀を振り回し、陽介はかぼちゃ頭で踊り出す。雪はメイド服でフリルを揺らし、彰はヨウくんでピョコピョコ。
「雪、写真撮れ! これ、永久保存版だ!」
『……はいはい!』
シャッター音。四人の笑い声が湖畔の家に響き渡る。
パーティは深夜まで続き、家は笑い声と主題歌のループで熱気に包まれていた。
そして、楽しいパーティの時間が流れた、画面越しの雪もメイド服のまま欠伸を噛み殺している。
「ふぁ……もう三時か……」
陽介はかぼちゃ被り物をテーブルに置き、ソファに倒れ込むように横たわった。
「俺……ちょっと仮眠するわ……」
陽介はそういうとソファーに寝そべり三秒後には「ぐー……」という寝息が聞こえた。
画面の向こう、彰もヨウくんの着ぐるみの頭を脱ぎ、雪のベッドに突っ伏した。
『……雪、僕先に寝てるから』
『……うん、おやすみ』
『おやすみ……』
彰もすぐに寝息を立て始める。
残ったのは、俺と雪。
スケバン衣装のままソファに座る俺と、メイド服のまま画面に映る雪。
「……静かになったね」
雪が小声で呟いた。いつもの無機質な調子じゃなく、どこか甘えたような響き。
「ああ。陽介も彰も、寝落ち早いよな」
俺は竹刀を脇に置き、スケバンのスカートを気にしながら足を組む。
雪は画面越しに、膝を抱えるように座り直した。
『……駿君』
「ん?」
『あの……今日は、ありがとう』
「……別に、俺は何もしてないだろ」
『ううん。陽介が来てくれて、彰が仮装させてくれて……駿君がノリノリでスケバンになってくれて』
雪は頬を少し赤くして、目を伏せる。
『私、ずっと部屋に籠ってたから……こんなに笑ったの、久しぶり』
俺は苦笑いしながら、缶のリンゴジュースを一口飲んだ。
「俺もだよ。陽介がいなきゃ、今日も一人で缶コーヒー飲んでただけだ」
雪は小さく頷く。
『……ねえ、駿君』
「ん?」
『また、みんなで集まろうね。次は……ちゃんと、対面で』
「ああ。約束だ」
俺はスケバンの竹刀を軽く振り、ニヤリと笑う。
「次は俺がメイド服着るから、雪はスケバンな」
『えっ!? やだ、絶対似合わない!』
「似合うって。雪なら、竹刀持っても可愛いぞ」
『……もう、駿君のいじわる』
雪は頬を膨らませるが、口元は笑っている。
画面の向こう、彰の寝息が「すー……すー……」と聞こえる。
陽介はソファで大の字、かぼちゃ被り物を枕にしている。
「……雪ちゃん」
『ん?』
「今日は、本当に楽しかった」
雪は少し照れたように目を逸らし、小さく呟いた。
『……私も』
しばらく沈黙が続いた。
ジャック・オ・ランタンの火が、ぱちり、と音を立てて揺れる。
雪がふと、画面に顔を近づける。
『ねえ、駿君』
「ん?」
『……また、電話、してもいい?』
「ああ、いつでもいいよ」
『……約束、だよ』
「約束」
雪は小さく微笑み、画面越しにピースサイン。
俺もスケバン姿で、竹刀を軽く振って応える。
「じゃあ、おやすみ、雪ちゃん」
『おやすみ、駿君』
通話は切れず、画面はそのまま。
俺はソファに寝転び、陽介の寝息を聞きながら目を閉じる。
雪の小さな寝息も、画面の向こうから聞こえてくる。
その日の夜は静かで、温かかった。
ハロウィンの魔法は、仮装が終わっても、確かに残っていた。
かぼちゃスープ、ピザ、プリンが並び、テレビからはニュースが流れている。
陽介が来てちょうど一週間。あいつは勝手に居候を決め込んだ。無論、タダで住ませる訳ではなく店の手伝いをしてもらっている。
今夜は陽介がハロウィンらしいこと出来てないから何かやろうと言い出したのが始まりだった。
そこで、地元にいる雪と彰も誘いパーティをしようという流れになった。
陽介がパソコンのセッティングが終わるとビデオ通話が繋がり、画面に雪と彰が映る。
雪はいつものボサボサ髪、目の下にクマ。彰は隣で紅茶をすすっている。
「おう、雪! 彰! ハロウィンパーティ、ようこそ!」
陽介が鍋を掲げ、かぼちゃスープをドンブリに注ぐ。湯気が立ち上る。
「まずは腹ごしらえだ! 雪もちゃんと食えよ!」
『……栄養食品、補充したから大丈夫』
「ダメダメ! ちゃんと飯食えって!」
陽介がスープを俺の分と自分の分をよそい、画面に向かってスプーンを振る。
雪は苦笑いし、彰がかぼちゃクッキーを取り出した。
「よーし、乾杯!」
陽介がオレンジジュースのコップを掲げる。俺はリンゴジュース、雪は栄養ドリンク、彰は紅茶。画面越しにコップを合わせる音が響く。
「ハロウィン、おめでとう!」
『おめでとう!』
スープを一口。かぼちゃの甘みと野菜の旨味が広がる。
「美味い……陽介、ほんと料理上手いな」
「おう! 雪、そっちはどうだ?」
彰がクッキーを雪に差し出す。
『ほら、雪。ちゃんと噛んで』
『……うん』
俺はピザを一切れ取り、チーズを伸ばしながら頬張る。雪はクッキーを小さくかじり、画面越しに微笑む。
『陽介、昔みたいに騒がしいね…でも、こうやってみんなと集まるのなんか懐かしいね…』
「おう! 雪も昔みたいに笑ってるじゃん!」
陽介がクッキーを頬張りながら、ふと彰に目を向ける。
「そういやさ、彰。探偵業の方は最近どうなの?」
彰は紅茶のカップを置き、少し得意げに微笑んだ。
『うん、順調だよ。最近は篠崎さんと一緒に仕事したんだ』
俺はピザを口に運ぶ手を止める。父さん——地元の刑事だ。
「父さんと?」
『うん、連続窃盗事件で、警察の捜査に協力したの。篠崎さん、相変わらず鋭くてね。現場の証拠から犯人の足取りを一瞬で見抜いて……僕も勉強になった』
陽介が目を丸くする。
「おお! 相変わらずすげぇな!駿の親父さん」
俺は苦笑いしつつ、頷く。
「父さん、相変わらずか……」
彰は少し照れたように続ける。
『篠崎さん、僕の分析を褒めてくれたよ。「探偵王子の推理は違うな」って』
「へえ、父さんがそんなこと言うなんて珍しいな」
陽介がプリンを配り、俺たちは画面越しにスプーンを動かす。甘くて、幸せな味だ。
俺はふと、画面の雪を見つめてニヤリと笑った。
「なあ、雪ちゃん。ハロウィンなんだから、アレ言ってよ」
雪が首を傾げる。
『……え? 何を?』
「ほら、知ってるだろ。トリック・オア・トリート」
雪は一瞬固まり、頬を赤くする。
『……やだよ、恥ずかしい……』
陽介が大爆笑し、彰もクスクス笑う。
『ほら、雪。駿君が言うなら、ちゃんと言いなさい』
雪はため息をつき、画面に顔を近づけて、小さな声で——
『……と、トリック・オア・トリート……』
「聞こえねー! もっと元気に!」
『……トリック・オア・トリート!!』
雪が顔を真っ赤にして叫ぶ。俺はプリンを差し出す。
「お菓子あげる! よく言えた!」
『……もう、駿君のいじわる……』
でも、雪は照れながらも笑っている。
陽介が笑う。雪はクッキーを口に運び、頷く。
『……食べてるよ。彰が、作ってくれた』
食事が一段落し、陽介が立ち上がる。
「よーし! 腹も満たされたところで——仮装大会だぁ!!」
陽介が段ボール箱を抱えて戻ってきた。どこから持ってきたのか、中身は文化祭の頃の衣装の山。
「ちょ、待てよ! なんでそんなもん持ってんだ!?」
「親父に頼んで送ってもらったぜ! ほら、雪も彰も準備OK?」
画面の向こうで、彰がニヤリと笑う。雪は「え……?」と目を丸くしている。
『……まさか、私にも着せる気?』
「当たり前だろ! ハロウィンだぜ!」
彰が画面の外に消え、数秒後——
『きゃっ……! ちょっと、彰!?』
雪の悲鳴。画面に現れたのは、メイド服姿の雪。文化祭の頃、クラスの喫茶店で着たやつだ。黒と白のフリルに、頭にはカチューシャ。雪は顔を真っ赤にして両手でスカートを押さえている。
『……やだ、恥ずかしい……』
「うわっ! 雪、メイド似合うじゃん!!」
陽介が大爆笑。俺も思わず吹き出す。
「雪ちゃん、かわいいじゃん」
『駿君まで……!』
雪は画面を覆おうとするが、彰が後ろから肩を抱いて固定。
『ほら、ちゃんと見せて。文化祭の時も人気者だったでしょ』
彰自身は、ヨウコウのマスコットキャラクター「ヨウくん」の着ぐるみ。黄色いクマの姿に、でっかいリボン。
「おいおい! それ俺んちのマスコットじゃねーか!!」
陽介が腹を抱えて転がる。ヨウコウは陽介の実家が経営するデパートだ。
「彰、どこで手に入れたんだよ!」
『イベントノテツダイデモラッタノニアウデショ?』
彰が裏声を使いヨウくんの声でピョコピョコ跳ねる。雪はメイド姿でため息。
『……もう、仕方ないな』
「よーし! 対抗だ!!」
陽介が箱から取り出したのは——文化祭のスケバン衣装。俺が女装コンテストで着たやつだ。長いスカートにセーラー服、竹刀まで完備。
陽介がニヤリと笑い、俺の肩をポンと叩く。
「行くぜ! 相棒!!」
俺は一瞬でスイッチが入る。ニヤリと笑い、竹刀を肩に担ぐ。
「押忍!!」
スケバン姿の俺、完成。長いスカートを翻し、竹刀を振り回して仁王立ち。
陽介は自分の頭にかぼちゃの被り物を被っていた。
「うわっ…懐かしい〜女装コンの時に着てたやつ」
画面の雪が吹き出す。彰もヨウくんで拍手。
「どうすか!どうすか!なかなか似合うっしょこれ!」
俺は竹刀を振り回し、陽介はかぼちゃ頭で踊り出す。雪はメイド服でフリルを揺らし、彰はヨウくんでピョコピョコ。
「雪、写真撮れ! これ、永久保存版だ!」
『……はいはい!』
シャッター音。四人の笑い声が湖畔の家に響き渡る。
パーティは深夜まで続き、家は笑い声と主題歌のループで熱気に包まれていた。
そして、楽しいパーティの時間が流れた、画面越しの雪もメイド服のまま欠伸を噛み殺している。
「ふぁ……もう三時か……」
陽介はかぼちゃ被り物をテーブルに置き、ソファに倒れ込むように横たわった。
「俺……ちょっと仮眠するわ……」
陽介はそういうとソファーに寝そべり三秒後には「ぐー……」という寝息が聞こえた。
画面の向こう、彰もヨウくんの着ぐるみの頭を脱ぎ、雪のベッドに突っ伏した。
『……雪、僕先に寝てるから』
『……うん、おやすみ』
『おやすみ……』
彰もすぐに寝息を立て始める。
残ったのは、俺と雪。
スケバン衣装のままソファに座る俺と、メイド服のまま画面に映る雪。
「……静かになったね」
雪が小声で呟いた。いつもの無機質な調子じゃなく、どこか甘えたような響き。
「ああ。陽介も彰も、寝落ち早いよな」
俺は竹刀を脇に置き、スケバンのスカートを気にしながら足を組む。
雪は画面越しに、膝を抱えるように座り直した。
『……駿君』
「ん?」
『あの……今日は、ありがとう』
「……別に、俺は何もしてないだろ」
『ううん。陽介が来てくれて、彰が仮装させてくれて……駿君がノリノリでスケバンになってくれて』
雪は頬を少し赤くして、目を伏せる。
『私、ずっと部屋に籠ってたから……こんなに笑ったの、久しぶり』
俺は苦笑いしながら、缶のリンゴジュースを一口飲んだ。
「俺もだよ。陽介がいなきゃ、今日も一人で缶コーヒー飲んでただけだ」
雪は小さく頷く。
『……ねえ、駿君』
「ん?」
『また、みんなで集まろうね。次は……ちゃんと、対面で』
「ああ。約束だ」
俺はスケバンの竹刀を軽く振り、ニヤリと笑う。
「次は俺がメイド服着るから、雪はスケバンな」
『えっ!? やだ、絶対似合わない!』
「似合うって。雪なら、竹刀持っても可愛いぞ」
『……もう、駿君のいじわる』
雪は頬を膨らませるが、口元は笑っている。
画面の向こう、彰の寝息が「すー……すー……」と聞こえる。
陽介はソファで大の字、かぼちゃ被り物を枕にしている。
「……雪ちゃん」
『ん?』
「今日は、本当に楽しかった」
雪は少し照れたように目を逸らし、小さく呟いた。
『……私も』
しばらく沈黙が続いた。
ジャック・オ・ランタンの火が、ぱちり、と音を立てて揺れる。
雪がふと、画面に顔を近づける。
『ねえ、駿君』
「ん?」
『……また、電話、してもいい?』
「ああ、いつでもいいよ」
『……約束、だよ』
「約束」
雪は小さく微笑み、画面越しにピースサイン。
俺もスケバン姿で、竹刀を軽く振って応える。
「じゃあ、おやすみ、雪ちゃん」
『おやすみ、駿君』
通話は切れず、画面はそのまま。
俺はソファに寝転び、陽介の寝息を聞きながら目を閉じる。
雪の小さな寝息も、画面の向こうから聞こえてくる。
その日の夜は静かで、温かかった。
ハロウィンの魔法は、仮装が終わっても、確かに残っていた。