RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
追加②-Full Destruction-
雪が降りしきる松葉市の夜、俺たちは水鏡神社へと続く石段を登っていた。冷たい風が頬を刺し、吐く息が白く舞う。陽介が先頭で軽快な足取りで進み、雪はその後ろで少し緊張した面持ちで歩いている。
俺は最後尾で、足元に積もる薄い雪を踏みしめながら、頭の中をぐるぐると巡る考えを抑えきれなかった。
水鏡神社の噂──鏡の前で自分の携帯に電話をかけると、別の世界に連れて行かれる。そんな馬鹿げた話、普通なら笑いものだ。
でも、優を失った今、俺の心はどこか現実から乖離していて、どんな荒唐無稽な話にもすがりつきたい気分だった。
もし本当に別の世界があるなら、優が生きている世界に繋がるかもしれない。そんな淡い期待が、胸の奥で小さく疼いていた。
「なぁ、駿、考えすぎだろ。顔がめっちゃ暗ぇぞ!」
陽介が振り返り、いつもの調子でニヤリと笑った。俺は苦笑して肩をすくめた。
「別に。ただ、寒いだけだよ」
「ほーんと? じゃあ、もっとテンション上げてこうぜ! せっかくの冒険なんだからさ!」
陽介の明るい声に、雪が少し呆れたように口を尖らせた。
「冒険って…陽介、ほんと子供っぽいよね。これじゃ、ただの肝試しじゃん」
「んだよ、雪! じゃあお前、なんでついてきたんだよ?」
陽介がからかうように言うと、雪は頬を膨らませて反論した。
「だって、一人で家にいる方が怖いんだもん! それに、彰も来るし、なんか面白そうじゃん!」
「はいはい、怖がり雪ちゃんの言い訳ね~」
陽介がわざと大げさに笑うと、雪はムッとして陽介の背中を軽く叩いた。二人のやり取りに、俺は少しだけ心が軽くなるのを感じた。
こんな風に他愛もない話で笑い合える時間が、優がいなくなってからどれだけ貴重か、改めて実感した。
石段を登り切ると、水鏡神社の鳥居が見えてきた。雪に覆われた境内は静寂に包まれ、街の喧騒から切り離されたような神秘的な空気が漂っていた。
提灯の仄かな光が雪を照らし、参道の両脇に並ぶ木々が風に揺れてざわめいている。子供の頃、よくここで遊んだ記憶が蘇る。
この三人で一緒に鬼ごっこをしたこと、夏祭りで花火を見上げたこと──あの頃の無垢な時間が、今は遠い夢のようだった。
「うわっ、なんか雰囲気やばいね…めっちゃ不気味」
雪が少し震えながら呟くと、陽介がニヤリと笑った。
「実は…既に俺たち別の世界に行ってたりして…」
「やめてよ、陽介! 怖いこと言わないで!」
雪が陽介を睨むと、境内の奥から聞き慣れた声が響いた。
「やあ、遅かったね。もう少しで帰るところだったよ」
そこには葉隠彰が立っていた。いつも通り、落ち着いた表情で、青いコートに身を包んでいる。雪がパッと笑顔になって手を振った。
「彰! やっと会えた! 待ったでしょ?」
「えぇ、10分ほど。雪が急に呼び出すから、びっくりしたよ」
彰はそう言いながら、軽く微笑んだ。その視線が俺に向き、少し真剣な色を帯びた。
「駿君、久しぶりだね…元気そうで、ちょっと安心した」
彰の言葉に、俺は少し気まずく頷いた。彰とはそこまで頻繁に会うわけじゃないけど、雪を通じて何度か話したことがあった。
彼の鋭い観察眼は、いつもどこか人を落ち着かせる不思議な力があった。
「よっ、名探偵! さっそく例の噂、試してみねぇ?」
陽介がテンション高く言うと、彰は少し眉を上げて興味深そうに尋ねた。
「噂? ああ、水鏡神社の鏡の話ね。確かに、最近ネットや学校で話題になってるね」
「そうそう! 自分の携帯に電話かけて、別の世界に行くってやつ! どう思う、名探偵?」
陽介がニヤニヤしながら彰を煽ると、彰は冷静に答えた。
「科学的にはありえない話だけど…こういう噂には、必ず何かしらの背景がある。失踪事件と関係してるかもしれないし、調べてみる価値はあるんじゃない?」
彰の言葉に、陽介が目を輝かせた。
「さっすが名探偵! じゃあ、早速その鏡探しに行こうぜ!」
俺たちは境内の奥へと進んだ。雪が降る中、提灯の光と懐中電灯の光だけを頼りに歩く。
噂の鏡は、神社の本殿裏にある小さな社に安置されているらしい。そこは普段、参拝者もあまり近づかない場所で、子供の頃は「なんか怖いから」と避けていた記憶がある。
本殿を過ぎ、木々に囲まれた小道を進むと、ひっそりと佇む小さな社が見えてきた。古びた木造の建物で、屋根には雪が積もり、どこか異世界めいた雰囲気を漂わせている。
社の前に立つと、確かにそこには古い鏡が置かれていた。曇った表面に、俺たちの姿がかすかに映り、雪の光が不気味に反射している。
「これが…噂の鏡か」
陽介が少し興奮した声で呟くと、雪がビクッと肩を震わせた。
「うわ、めっちゃ怖いんだけど…ほんとにやるの、これ?」
「やるに決まってんだろ! せっかくここまで来たんだから!」
陽介はそう言うと、ポケットから携帯を取り出し、ニヤリと笑った。
「じゃあ、俺からな! 自分の番号にかけてみるぜ!」
陽介が自分の携帯番号を入力し、発信ボタンを押した瞬間、社の周囲に冷たい風が吹き抜けた。雪が小さく悲鳴を上げ、俺の背筋にも寒気が走った。陽介の携帯から、呼び出し音が静かな境内に響く。
「…繋がらないな。やっぱ、ただの噂か?」
陽介が少しがっかりしたように言うと、突然、携帯からノイズのような音が漏れ始めた。ザザッという不快な音が続き、陽介の表情が一瞬で強張った。
「お、おい…なんだこれ?」
その瞬間、鏡の表面が揺らぎ、まるで水面のように波打った。俺たちは思わず息を呑み、互いに顔を見合わせた。雪が彰の腕を掴み、震える声で呟いた。
「や、やばいよ…ほんとに何か起こってる…!」
彰は冷静に鏡を見つめ、静かに言った。
「落ち着いて。これは…何か仕掛けがあるのかもしれない。陽介、電話を切ってみて」
陽介が慌てて通話を切ると、鏡の揺らぎも止まり、元の静かな状態に戻った。だが、俺たちの心臓はまだ激しく鼓動していた。
「な、なんだよ、さっきの! マジでヤバかったぞ!」
陽介が興奮と恐怖が入り混じった声で叫ぶと、雪が半泣きで訴えた。
「もうやめようよ! こんなの、絶対変なことになるって!」
俺たちはまだ社の前に立っていた。鏡は静かで、何も変わっていないように見えた。
「…何もねぇじゃん。やっぱりただの噂か?」陽介が肩をすくめて笑った。
だが、その瞬間、陽介が何気なく鏡に近づき、興味本位で手を伸ばした。
「御剣、触らないほうがいいって!」
雪が慌てて叫んだが、遅かった。
陽介の手が鏡の表面に触れた瞬間、まるで水に沈むように手が鏡の中に吸い込まれた。陽介の目が見開かれ、驚愕の声が上がる。
「うわっ! な、なんだこれ!? 引っ張られてる! 何かにつかまれてる!」
「陽介!」俺は咄嗟に陽介の腕をつかみ、引き戻そうとした。雪も慌てて陽介の背中にしがみつき、彰が冷静に陽介の肩を掴んだ。
「みんなで引いて! 絶対に離しちゃダメ!」彰が鋭く指示を出す。
俺たちは必死に陽介を引き戻そうとしたが、鏡から放たれる力は異常に強く、まるで底なしの沼に引きずり込まれるようだった。陽介が叫ぶ。
「やばい! 離せ! 俺だけならまだ…!」
だが、その言葉を最後まで聞く間もなく、強烈な力が俺たち全員を一気に引き込んだ。視界が歪み、身体が宙に浮くような感覚に襲われる。雪の悲鳴、陽介の叫び声、彰の冷静な声が混ざり合い、すべてが闇に飲み込まれた。
次に目を開けたとき、俺たちは冷たい地面に倒れていた。頭がクラクラし、身体が妙に重い。辺りを見回すと、そこは見慣れた松葉市の商店街だった──だが、どこかおかしい。
空は奇妙な色合いで、夕暮れのオレンジと明け方の薄紫が交互に脈打つように移り変わっている。シャッターが下りた商店街の建物は歪み、看板の文字は読めない異様な形にねじれ、街灯は不規則に点滅している。まるで現実が悪夢に侵食されたような光景だった。
「ここ…どこだよ…?」
陽介が立ち上がり、呆然と呟いた。
「商店街…だよな? でも、なんか…変じゃないか…?」
俺は周囲を見渡しながら、胸の奥に湧き上がる不安を抑えた。
雪は震えながら彰の腕にしがみつき、声を詰まらせた。
「やばいよ…ほんとに別の世界に来ちゃったんじゃ…?」
彰は冷静に周囲を観察し、静かに言った。
「確かに、ここは商店街に似ているけど…やっぱりここはおかしい…」
「現実じゃないって…じゃあ、俺たちどうすりゃいいんだよ!?」
陽介が苛立ちを隠さず叫んだ。
その時、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。ガラスが擦れるような、耳障りなノイズ。俺たちは反射的に身構え、音のする方向を見た。商店街の奥、歪んだビルの隙間から、何か黒い影がゆっくりと動いているのが見えた。
「…あれ、なんだ?」俺の声が震えた。
影は次第に大きくなり、人の形をしていた。だが、その動きはぎこちなく、まるで操り人形のようだった。雪が小さな悲鳴を上げ、陽介が一歩前に出て叫んだ。
「おい! 誰だよ、そこの!」
だが、影は答える代わりに、突然こちらに向かって走り出した。その姿が近づくにつれ、俺たちの心臓は凍りついた。それは、俺たちにそっくりな顔をした「何か」だった──ただし、目が真っ黒で、口元が不気味に歪んだ笑みを浮かべている。
「に、逃げろ!」陽介が叫び、俺たちは一斉に走り出した。
歪んだ商店街を駆け抜ける中、空は夕暮れと明け方を繰り返し、時間の感覚が狂っていく。背後から迫る影の気配を感じながら、俺達は必死に逃げた。
歪んだ商店街を駆け抜ける俺たちを、黒い目と不気味な笑みを浮かべた「ナニカ」が追いかけてくる。夕暮れと明け方が脈打つように入れ替わる空の下、時間の感覚が狂い、足元のアスファルトはまるで溶けるように揺れている。
雪の悲鳴と陽介の怒声が響き合い、彰が冷静に後方を確認しながら叫ぶ。
「右の路地に曲がれ! 開けた場所に出る!」
俺たちは言われた通りに路地へ飛び込んだが、そこは袋小路だった。歪んだビルの壁が行く手を塞ぎ、逃げ場がない。背後から迫る影の気配がどんどん近づいてくる。
「くそっ、行き止まりかよ!」陽介が苛立ちを爆発させ、近くに落ちていた錆びた鉄パイプを拾い上げた。
「陽介、危ない!」雪が叫んだが、陽介は構わず影に向かって突進した。
「てめぇ、来やがれ!」陽介が鉄パイプを振り下ろすと、影の肩に命中し、鈍い音が響いた。影は一瞬よろめいたが、すぐに体をねじり、鉄パイプを弾き飛ばした。次の瞬間、影の腕が異様に伸び、陽介の胸を強く叩きつけた。
「がっ!」
陽介が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて地面に崩れ落ちる。
「陽介!」
俺は駆け寄ろうとしたが、突然地面から無数の黒い手が這い出し、俺の足を絡め取った。雪と彰も同じ手に捕まり、身動きが取れない。
雪が叫び、彰が冷静に手を振りほどこうとするが、手の力は異常に強く、まるで生きているかのように締め付けてくる。
影が陽介に近づき、ゆっくりとその首に手を伸ばす。陽介が苦しげにもがき、顔が青ざめていく。俺は無力感に苛まれ、拳を握りしめた。
爪が掌に食い込み、血が滲む。陽介の苦しむ姿を見ているだけで、心が引き裂かれそうだった。
「くそっ…こんなところで…!」
俺は叫び、死を覚悟したその瞬間、頭の中で突然声が響いた。
「我が手を取れ、恐れるな。」
低く、力強い声。どこか懐かしく、だが未知の存在感に満ちていた。俺は驚き、辺りを見回したが、誰もいない。声はさらに続けた。
「どうした? このまま我が身可愛さに友が死ぬ様をただ見ているだけか? それともここで覚悟を決め、戦うか?」
陽介の苦しむ声、雪の悲鳴、彰の冷静な指示──すべてが遠ざかり、頭の中はその声だけで満たされた。俺は歯を食いしばり、叫んだ。
「皆が死ぬくらいなら…死ぬくらいなら…!戦って死んでやる!!」
声の主がけたたましく高笑いした。
「よかろう! その覚悟、聞き届けたり!」
突然、頭を思いっきり殴られた様な鈍い痛みが走った。俺は思わず頭を押さえ、うめいた。だが、痛みはすぐに消え、声が再び響く。
「今こそ、汝の怒り、我が名と共に発せよ!」
「我は汝の内に宿る正なる影なり、汝の内に宿りし力…さぁ、今こそ、呼ぶがいい…其方の『アルター』の名を!!」
「来いっ!『ハイペリオン』!!」
そして、その名が響いた、その刹那、目の前に炎が爆ぜ、巨大な影が現れた。炎に包まれた人型──いや、人を超えた存在。
頭部には角のような突起があり、目には燃えるような光が宿っている。その姿は圧倒的で、まるで神話から抜け出したかのようだった。
「我は光明司り者『ハイペリオン』なり!!」
ハイペリオンの声が轟き、俺の胸に力が湧き上がった。地面の黒い手が怯えたように後退し、俺は自由になった。召喚したハイペリオンが構え、炎を放った。化け物は悲鳴のような音を上げ、陽介を放して後退した。
陽介が咳き込みながら地面に倒れ、雪と彰が駆け寄る。
「駿! 何だよ、それ!?」陽介が驚愕の目で俺を見た。
ナニカが再び襲いかかってくるが、ハイペリオンの炎がそれを迎え撃つ。商店街の歪んだ空間に、炎が爆ぜ、轟音と共にナニカは断末魔の様な金切り声を上げ消えた。
戦闘の激しさで俺の身体に限界が来た。全力を出しすぎた為か。頭がクラクラし、視界が揺れる。俺は膝をつき、地面に倒れ込んだ。
「駿君!」
雪の叫び声が遠く聞こえる中、意識が薄れていった。
どれくらい時間が経ったのか、俺が目を覚ますと、陽介、雪、彰の三人が俺を取り囲んでいた。辺りはまだ歪んだ商店街だが、戦闘の痕跡は消え、静寂が戻っていた。空は夕暮れと明け方を繰り返し、不気味な雰囲気が漂っている。
「駿! お前、生きてんのか!?」陽介が安堵と怒りがないまぜの声で叫ぶ。
「…なんとか」
俺は頭を押さえながら立ち上がった。身体は重く、ハイペリオンを召喚した代償がまだ残っているようだった。
雪が涙目で俺に抱きついてきた。
「駿君、びっくりしたんだから! 急に倒れるんだもん!」
「悪い…でも、みんな無事でよかった」
俺は苦笑しながら雪の頭を軽く叩いた。
彰が冷静に口を開いた。
「ひとまず、敵は退けたみたい。だけど、この世界に長くいるのは危険だと思う。出口を見つけよう」
俺たちは歪んだ商店街を歩き始めた。シャッターが下りたままの店、ねじれた看板、点滅する街灯──すべてが現実から切り離されたような異様さだった。陽介が苛立たしげに呟く。
「くそっ、こんな気味悪い場所、さっさと出たいぜ…」
しばらく進むと、シャッター街の奥に古びた本屋が見えた。
彰が扉を見つめ、言った。
「ここだ!みんな!この扉を開けるんだ!」
陽介が勢いよく扉に手をかけ、力を込めて開けた。その瞬間、眩い光が溢れ出し、俺たちは思わず目を覆った。
光に吸い込まれるような感覚の後、気がつくと俺たちは水鏡神社の境内に立っていた。雪が降る静かな夜、提灯の光が揺れるいつもの神社だ。
「…戻った?」
雪が震える声で呟き、辺りを見回した。
陽介が安堵の息をつき、地面に座り込んだ。
「マジか…ほんとに脱出できたんだ…!」
だが、彰はまだ真剣な表情で考え込んでいた。俺が尋ねる。
「彰、どうした?」
彰は眉をひそめながら考え込んだ。
「これは仮説だけど…最近起こっている。神隠しの様な失踪事件はこれが原因なんじゃなかって思うんだ…」
俺たちの間に重い沈黙が流れた。陽介が目を丸くして言った。
「まじかよ…じゃあ、あそこに迷い込んだ人達がいるってことか?」
彰は頷き、冷静に続けた。
「確証はないけど、あながち間違ってはいないと思う」
「もしかしたら…その失踪した人達も今日の僕たちと同じ様に何かしらの要因で入ってしまった可能性はないとは言い切れない」
彰はそこで一息置き、俺たちをじっと見つめた。
「それと、もう一つ気になることがある。駿があの『アルター』って、力を呼び出したこと…もしかしたら、僕たちにも似たような力があるんじゃないか? だからこそ、僕たちはあの裏の世界を認識できたのかもしれない」
陽介が目を丸くして、「お、おい、マジかよ!? 俺もなんかカッコいい力持ってんのか!?」と興奮気味に叫んだ。
雪が目を輝かせ、「じゃあ、私も、彰もなにか力を持ってるかも知れないってこと!?」と声を弾ませた。
彰は小さく頷き、「可能性は高い。僕たちがあの世界で生き延びられたのは、ただの偶然じゃないかもしれない。駿みたいな力が、僕たちにも眠ってる可能性がある」
陽介が突然立ち上がり、拳を突き上げて叫んだ。
「じゃあさ、俺たちなら失踪事件の被害者を助けられるんじゃねぇか!? 次に誰か失踪したら、俺たちがあの裏の世界に飛び込んで、助け出せたりとかさ!」
雪が少し怖がりながらも、「う、うん…怖いけど、放っておけないよね。私もやる!」と頷いた。
陽介がニヤリと笑い、勢いよく宣言した。
「決まりだ! 今日から俺たちは『特別調査活動部』を結成する! 松葉市の失踪事件を解決して、裏の世界の謎をぶち破るぜ!」
「特別調査活動部…?なんというか…その…かっこ悪いね…」
雪が笑いながら突っ込むと、陽介がムッとして反論した。
「なんだよ、いい名前だろ! な、駿、彰、賛成だよな!?」
俺は苦笑しながら頷いた。
「まぁ…悪くないとは思うよ…目的ははっきりしてるし」
彰も微笑み、「なら、仮にその名前でいい。まずは情報を整理して、裏の世界への出入り口の法則を調べる。失踪事件の被害者リストをさらに詳しく洗い出して、共通点を特定しよう。もしかしたら何か分かるかもしれない」
雪が降る水鏡神社の境内を後にしながら、俺たちの新たな戦いが始まろうとしていた。
『特別調査活動部』──その名の下に、失踪者たちの影を追い、裏の世界の謎を解き明かす覚悟が、俺たちの胸に宿っていた。
優の不在が疼く心を抱えながら、俺は自分に与えられた。戦う為の力を思い出しながら、決意を新たにした。
俺は最後尾で、足元に積もる薄い雪を踏みしめながら、頭の中をぐるぐると巡る考えを抑えきれなかった。
水鏡神社の噂──鏡の前で自分の携帯に電話をかけると、別の世界に連れて行かれる。そんな馬鹿げた話、普通なら笑いものだ。
でも、優を失った今、俺の心はどこか現実から乖離していて、どんな荒唐無稽な話にもすがりつきたい気分だった。
もし本当に別の世界があるなら、優が生きている世界に繋がるかもしれない。そんな淡い期待が、胸の奥で小さく疼いていた。
「なぁ、駿、考えすぎだろ。顔がめっちゃ暗ぇぞ!」
陽介が振り返り、いつもの調子でニヤリと笑った。俺は苦笑して肩をすくめた。
「別に。ただ、寒いだけだよ」
「ほーんと? じゃあ、もっとテンション上げてこうぜ! せっかくの冒険なんだからさ!」
陽介の明るい声に、雪が少し呆れたように口を尖らせた。
「冒険って…陽介、ほんと子供っぽいよね。これじゃ、ただの肝試しじゃん」
「んだよ、雪! じゃあお前、なんでついてきたんだよ?」
陽介がからかうように言うと、雪は頬を膨らませて反論した。
「だって、一人で家にいる方が怖いんだもん! それに、彰も来るし、なんか面白そうじゃん!」
「はいはい、怖がり雪ちゃんの言い訳ね~」
陽介がわざと大げさに笑うと、雪はムッとして陽介の背中を軽く叩いた。二人のやり取りに、俺は少しだけ心が軽くなるのを感じた。
こんな風に他愛もない話で笑い合える時間が、優がいなくなってからどれだけ貴重か、改めて実感した。
石段を登り切ると、水鏡神社の鳥居が見えてきた。雪に覆われた境内は静寂に包まれ、街の喧騒から切り離されたような神秘的な空気が漂っていた。
提灯の仄かな光が雪を照らし、参道の両脇に並ぶ木々が風に揺れてざわめいている。子供の頃、よくここで遊んだ記憶が蘇る。
この三人で一緒に鬼ごっこをしたこと、夏祭りで花火を見上げたこと──あの頃の無垢な時間が、今は遠い夢のようだった。
「うわっ、なんか雰囲気やばいね…めっちゃ不気味」
雪が少し震えながら呟くと、陽介がニヤリと笑った。
「実は…既に俺たち別の世界に行ってたりして…」
「やめてよ、陽介! 怖いこと言わないで!」
雪が陽介を睨むと、境内の奥から聞き慣れた声が響いた。
「やあ、遅かったね。もう少しで帰るところだったよ」
そこには葉隠彰が立っていた。いつも通り、落ち着いた表情で、青いコートに身を包んでいる。雪がパッと笑顔になって手を振った。
「彰! やっと会えた! 待ったでしょ?」
「えぇ、10分ほど。雪が急に呼び出すから、びっくりしたよ」
彰はそう言いながら、軽く微笑んだ。その視線が俺に向き、少し真剣な色を帯びた。
「駿君、久しぶりだね…元気そうで、ちょっと安心した」
彰の言葉に、俺は少し気まずく頷いた。彰とはそこまで頻繁に会うわけじゃないけど、雪を通じて何度か話したことがあった。
彼の鋭い観察眼は、いつもどこか人を落ち着かせる不思議な力があった。
「よっ、名探偵! さっそく例の噂、試してみねぇ?」
陽介がテンション高く言うと、彰は少し眉を上げて興味深そうに尋ねた。
「噂? ああ、水鏡神社の鏡の話ね。確かに、最近ネットや学校で話題になってるね」
「そうそう! 自分の携帯に電話かけて、別の世界に行くってやつ! どう思う、名探偵?」
陽介がニヤニヤしながら彰を煽ると、彰は冷静に答えた。
「科学的にはありえない話だけど…こういう噂には、必ず何かしらの背景がある。失踪事件と関係してるかもしれないし、調べてみる価値はあるんじゃない?」
彰の言葉に、陽介が目を輝かせた。
「さっすが名探偵! じゃあ、早速その鏡探しに行こうぜ!」
俺たちは境内の奥へと進んだ。雪が降る中、提灯の光と懐中電灯の光だけを頼りに歩く。
噂の鏡は、神社の本殿裏にある小さな社に安置されているらしい。そこは普段、参拝者もあまり近づかない場所で、子供の頃は「なんか怖いから」と避けていた記憶がある。
本殿を過ぎ、木々に囲まれた小道を進むと、ひっそりと佇む小さな社が見えてきた。古びた木造の建物で、屋根には雪が積もり、どこか異世界めいた雰囲気を漂わせている。
社の前に立つと、確かにそこには古い鏡が置かれていた。曇った表面に、俺たちの姿がかすかに映り、雪の光が不気味に反射している。
「これが…噂の鏡か」
陽介が少し興奮した声で呟くと、雪がビクッと肩を震わせた。
「うわ、めっちゃ怖いんだけど…ほんとにやるの、これ?」
「やるに決まってんだろ! せっかくここまで来たんだから!」
陽介はそう言うと、ポケットから携帯を取り出し、ニヤリと笑った。
「じゃあ、俺からな! 自分の番号にかけてみるぜ!」
陽介が自分の携帯番号を入力し、発信ボタンを押した瞬間、社の周囲に冷たい風が吹き抜けた。雪が小さく悲鳴を上げ、俺の背筋にも寒気が走った。陽介の携帯から、呼び出し音が静かな境内に響く。
「…繋がらないな。やっぱ、ただの噂か?」
陽介が少しがっかりしたように言うと、突然、携帯からノイズのような音が漏れ始めた。ザザッという不快な音が続き、陽介の表情が一瞬で強張った。
「お、おい…なんだこれ?」
その瞬間、鏡の表面が揺らぎ、まるで水面のように波打った。俺たちは思わず息を呑み、互いに顔を見合わせた。雪が彰の腕を掴み、震える声で呟いた。
「や、やばいよ…ほんとに何か起こってる…!」
彰は冷静に鏡を見つめ、静かに言った。
「落ち着いて。これは…何か仕掛けがあるのかもしれない。陽介、電話を切ってみて」
陽介が慌てて通話を切ると、鏡の揺らぎも止まり、元の静かな状態に戻った。だが、俺たちの心臓はまだ激しく鼓動していた。
「な、なんだよ、さっきの! マジでヤバかったぞ!」
陽介が興奮と恐怖が入り混じった声で叫ぶと、雪が半泣きで訴えた。
「もうやめようよ! こんなの、絶対変なことになるって!」
俺たちはまだ社の前に立っていた。鏡は静かで、何も変わっていないように見えた。
「…何もねぇじゃん。やっぱりただの噂か?」陽介が肩をすくめて笑った。
だが、その瞬間、陽介が何気なく鏡に近づき、興味本位で手を伸ばした。
「御剣、触らないほうがいいって!」
雪が慌てて叫んだが、遅かった。
陽介の手が鏡の表面に触れた瞬間、まるで水に沈むように手が鏡の中に吸い込まれた。陽介の目が見開かれ、驚愕の声が上がる。
「うわっ! な、なんだこれ!? 引っ張られてる! 何かにつかまれてる!」
「陽介!」俺は咄嗟に陽介の腕をつかみ、引き戻そうとした。雪も慌てて陽介の背中にしがみつき、彰が冷静に陽介の肩を掴んだ。
「みんなで引いて! 絶対に離しちゃダメ!」彰が鋭く指示を出す。
俺たちは必死に陽介を引き戻そうとしたが、鏡から放たれる力は異常に強く、まるで底なしの沼に引きずり込まれるようだった。陽介が叫ぶ。
「やばい! 離せ! 俺だけならまだ…!」
だが、その言葉を最後まで聞く間もなく、強烈な力が俺たち全員を一気に引き込んだ。視界が歪み、身体が宙に浮くような感覚に襲われる。雪の悲鳴、陽介の叫び声、彰の冷静な声が混ざり合い、すべてが闇に飲み込まれた。
次に目を開けたとき、俺たちは冷たい地面に倒れていた。頭がクラクラし、身体が妙に重い。辺りを見回すと、そこは見慣れた松葉市の商店街だった──だが、どこかおかしい。
空は奇妙な色合いで、夕暮れのオレンジと明け方の薄紫が交互に脈打つように移り変わっている。シャッターが下りた商店街の建物は歪み、看板の文字は読めない異様な形にねじれ、街灯は不規則に点滅している。まるで現実が悪夢に侵食されたような光景だった。
「ここ…どこだよ…?」
陽介が立ち上がり、呆然と呟いた。
「商店街…だよな? でも、なんか…変じゃないか…?」
俺は周囲を見渡しながら、胸の奥に湧き上がる不安を抑えた。
雪は震えながら彰の腕にしがみつき、声を詰まらせた。
「やばいよ…ほんとに別の世界に来ちゃったんじゃ…?」
彰は冷静に周囲を観察し、静かに言った。
「確かに、ここは商店街に似ているけど…やっぱりここはおかしい…」
「現実じゃないって…じゃあ、俺たちどうすりゃいいんだよ!?」
陽介が苛立ちを隠さず叫んだ。
その時、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。ガラスが擦れるような、耳障りなノイズ。俺たちは反射的に身構え、音のする方向を見た。商店街の奥、歪んだビルの隙間から、何か黒い影がゆっくりと動いているのが見えた。
「…あれ、なんだ?」俺の声が震えた。
影は次第に大きくなり、人の形をしていた。だが、その動きはぎこちなく、まるで操り人形のようだった。雪が小さな悲鳴を上げ、陽介が一歩前に出て叫んだ。
「おい! 誰だよ、そこの!」
だが、影は答える代わりに、突然こちらに向かって走り出した。その姿が近づくにつれ、俺たちの心臓は凍りついた。それは、俺たちにそっくりな顔をした「何か」だった──ただし、目が真っ黒で、口元が不気味に歪んだ笑みを浮かべている。
「に、逃げろ!」陽介が叫び、俺たちは一斉に走り出した。
歪んだ商店街を駆け抜ける中、空は夕暮れと明け方を繰り返し、時間の感覚が狂っていく。背後から迫る影の気配を感じながら、俺達は必死に逃げた。
歪んだ商店街を駆け抜ける俺たちを、黒い目と不気味な笑みを浮かべた「ナニカ」が追いかけてくる。夕暮れと明け方が脈打つように入れ替わる空の下、時間の感覚が狂い、足元のアスファルトはまるで溶けるように揺れている。
雪の悲鳴と陽介の怒声が響き合い、彰が冷静に後方を確認しながら叫ぶ。
「右の路地に曲がれ! 開けた場所に出る!」
俺たちは言われた通りに路地へ飛び込んだが、そこは袋小路だった。歪んだビルの壁が行く手を塞ぎ、逃げ場がない。背後から迫る影の気配がどんどん近づいてくる。
「くそっ、行き止まりかよ!」陽介が苛立ちを爆発させ、近くに落ちていた錆びた鉄パイプを拾い上げた。
「陽介、危ない!」雪が叫んだが、陽介は構わず影に向かって突進した。
「てめぇ、来やがれ!」陽介が鉄パイプを振り下ろすと、影の肩に命中し、鈍い音が響いた。影は一瞬よろめいたが、すぐに体をねじり、鉄パイプを弾き飛ばした。次の瞬間、影の腕が異様に伸び、陽介の胸を強く叩きつけた。
「がっ!」
陽介が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて地面に崩れ落ちる。
「陽介!」
俺は駆け寄ろうとしたが、突然地面から無数の黒い手が這い出し、俺の足を絡め取った。雪と彰も同じ手に捕まり、身動きが取れない。
雪が叫び、彰が冷静に手を振りほどこうとするが、手の力は異常に強く、まるで生きているかのように締め付けてくる。
影が陽介に近づき、ゆっくりとその首に手を伸ばす。陽介が苦しげにもがき、顔が青ざめていく。俺は無力感に苛まれ、拳を握りしめた。
爪が掌に食い込み、血が滲む。陽介の苦しむ姿を見ているだけで、心が引き裂かれそうだった。
「くそっ…こんなところで…!」
俺は叫び、死を覚悟したその瞬間、頭の中で突然声が響いた。
「我が手を取れ、恐れるな。」
低く、力強い声。どこか懐かしく、だが未知の存在感に満ちていた。俺は驚き、辺りを見回したが、誰もいない。声はさらに続けた。
「どうした? このまま我が身可愛さに友が死ぬ様をただ見ているだけか? それともここで覚悟を決め、戦うか?」
陽介の苦しむ声、雪の悲鳴、彰の冷静な指示──すべてが遠ざかり、頭の中はその声だけで満たされた。俺は歯を食いしばり、叫んだ。
「皆が死ぬくらいなら…死ぬくらいなら…!戦って死んでやる!!」
声の主がけたたましく高笑いした。
「よかろう! その覚悟、聞き届けたり!」
突然、頭を思いっきり殴られた様な鈍い痛みが走った。俺は思わず頭を押さえ、うめいた。だが、痛みはすぐに消え、声が再び響く。
「今こそ、汝の怒り、我が名と共に発せよ!」
「我は汝の内に宿る正なる影なり、汝の内に宿りし力…さぁ、今こそ、呼ぶがいい…其方の『アルター』の名を!!」
「来いっ!『ハイペリオン』!!」
そして、その名が響いた、その刹那、目の前に炎が爆ぜ、巨大な影が現れた。炎に包まれた人型──いや、人を超えた存在。
頭部には角のような突起があり、目には燃えるような光が宿っている。その姿は圧倒的で、まるで神話から抜け出したかのようだった。
「我は光明司り者『ハイペリオン』なり!!」
ハイペリオンの声が轟き、俺の胸に力が湧き上がった。地面の黒い手が怯えたように後退し、俺は自由になった。召喚したハイペリオンが構え、炎を放った。化け物は悲鳴のような音を上げ、陽介を放して後退した。
陽介が咳き込みながら地面に倒れ、雪と彰が駆け寄る。
「駿! 何だよ、それ!?」陽介が驚愕の目で俺を見た。
ナニカが再び襲いかかってくるが、ハイペリオンの炎がそれを迎え撃つ。商店街の歪んだ空間に、炎が爆ぜ、轟音と共にナニカは断末魔の様な金切り声を上げ消えた。
戦闘の激しさで俺の身体に限界が来た。全力を出しすぎた為か。頭がクラクラし、視界が揺れる。俺は膝をつき、地面に倒れ込んだ。
「駿君!」
雪の叫び声が遠く聞こえる中、意識が薄れていった。
どれくらい時間が経ったのか、俺が目を覚ますと、陽介、雪、彰の三人が俺を取り囲んでいた。辺りはまだ歪んだ商店街だが、戦闘の痕跡は消え、静寂が戻っていた。空は夕暮れと明け方を繰り返し、不気味な雰囲気が漂っている。
「駿! お前、生きてんのか!?」陽介が安堵と怒りがないまぜの声で叫ぶ。
「…なんとか」
俺は頭を押さえながら立ち上がった。身体は重く、ハイペリオンを召喚した代償がまだ残っているようだった。
雪が涙目で俺に抱きついてきた。
「駿君、びっくりしたんだから! 急に倒れるんだもん!」
「悪い…でも、みんな無事でよかった」
俺は苦笑しながら雪の頭を軽く叩いた。
彰が冷静に口を開いた。
「ひとまず、敵は退けたみたい。だけど、この世界に長くいるのは危険だと思う。出口を見つけよう」
俺たちは歪んだ商店街を歩き始めた。シャッターが下りたままの店、ねじれた看板、点滅する街灯──すべてが現実から切り離されたような異様さだった。陽介が苛立たしげに呟く。
「くそっ、こんな気味悪い場所、さっさと出たいぜ…」
しばらく進むと、シャッター街の奥に古びた本屋が見えた。
彰が扉を見つめ、言った。
「ここだ!みんな!この扉を開けるんだ!」
陽介が勢いよく扉に手をかけ、力を込めて開けた。その瞬間、眩い光が溢れ出し、俺たちは思わず目を覆った。
光に吸い込まれるような感覚の後、気がつくと俺たちは水鏡神社の境内に立っていた。雪が降る静かな夜、提灯の光が揺れるいつもの神社だ。
「…戻った?」
雪が震える声で呟き、辺りを見回した。
陽介が安堵の息をつき、地面に座り込んだ。
「マジか…ほんとに脱出できたんだ…!」
だが、彰はまだ真剣な表情で考え込んでいた。俺が尋ねる。
「彰、どうした?」
彰は眉をひそめながら考え込んだ。
「これは仮説だけど…最近起こっている。神隠しの様な失踪事件はこれが原因なんじゃなかって思うんだ…」
俺たちの間に重い沈黙が流れた。陽介が目を丸くして言った。
「まじかよ…じゃあ、あそこに迷い込んだ人達がいるってことか?」
彰は頷き、冷静に続けた。
「確証はないけど、あながち間違ってはいないと思う」
「もしかしたら…その失踪した人達も今日の僕たちと同じ様に何かしらの要因で入ってしまった可能性はないとは言い切れない」
彰はそこで一息置き、俺たちをじっと見つめた。
「それと、もう一つ気になることがある。駿があの『アルター』って、力を呼び出したこと…もしかしたら、僕たちにも似たような力があるんじゃないか? だからこそ、僕たちはあの裏の世界を認識できたのかもしれない」
陽介が目を丸くして、「お、おい、マジかよ!? 俺もなんかカッコいい力持ってんのか!?」と興奮気味に叫んだ。
雪が目を輝かせ、「じゃあ、私も、彰もなにか力を持ってるかも知れないってこと!?」と声を弾ませた。
彰は小さく頷き、「可能性は高い。僕たちがあの世界で生き延びられたのは、ただの偶然じゃないかもしれない。駿みたいな力が、僕たちにも眠ってる可能性がある」
陽介が突然立ち上がり、拳を突き上げて叫んだ。
「じゃあさ、俺たちなら失踪事件の被害者を助けられるんじゃねぇか!? 次に誰か失踪したら、俺たちがあの裏の世界に飛び込んで、助け出せたりとかさ!」
雪が少し怖がりながらも、「う、うん…怖いけど、放っておけないよね。私もやる!」と頷いた。
陽介がニヤリと笑い、勢いよく宣言した。
「決まりだ! 今日から俺たちは『特別調査活動部』を結成する! 松葉市の失踪事件を解決して、裏の世界の謎をぶち破るぜ!」
「特別調査活動部…?なんというか…その…かっこ悪いね…」
雪が笑いながら突っ込むと、陽介がムッとして反論した。
「なんだよ、いい名前だろ! な、駿、彰、賛成だよな!?」
俺は苦笑しながら頷いた。
「まぁ…悪くないとは思うよ…目的ははっきりしてるし」
彰も微笑み、「なら、仮にその名前でいい。まずは情報を整理して、裏の世界への出入り口の法則を調べる。失踪事件の被害者リストをさらに詳しく洗い出して、共通点を特定しよう。もしかしたら何か分かるかもしれない」
雪が降る水鏡神社の境内を後にしながら、俺たちの新たな戦いが始まろうとしていた。
『特別調査活動部』──その名の下に、失踪者たちの影を追い、裏の世界の謎を解き明かす覚悟が、俺たちの胸に宿っていた。
優の不在が疼く心を抱えながら、俺は自分に与えられた。戦う為の力を思い出しながら、決意を新たにした。