RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
回想①-IN MY BEST FRIEND-
あれは、保育園の年少組の春だった。桜の花びらが園庭に舞い散る中、僕はいつものように砂場の隅っこに座り込んでいた。
みんながブランコの順番を争ったり、滑り台でキャーキャー騒いだりしてる輪の中に入るのが、どうしても苦手だった。
言葉を交わすと、変な沈黙ができてしまう。変な顔をされる。そんな経験が積み重なって、自然と一人でいるのが楽になっていた。
砂場では、黙々と小さな山を作っていた。バケツに砂を詰めて、ひっくり返して、指で表面を整える。
崩れないように、水を少しずつかけて固める。誰にも邪魔されず、自分の世界に浸れる時間が好きだった。でも、心のどこかで「誰かと一緒に作ったら、もっとでっかいのができるかな」なんて、ぼんやり思ったりもした。
その日、砂場の反対側で、同じ歳の子が大きな城を作っていた。バケツを何度も往復して、塔を三つも積み上げている。堀を掘るために、スコップを握りしめて汗だく。舌をちょっと出して、真剣そのものの顔。
服はショッピングモール『ヨウコウ』オリジナルブランドのTシャツで、胸ポケットにはミニカーが覗いていた。
その城は本格的だった。塔の頂上には割り箸の旗が刺してあって、堀には水路まで作ってある。僕の小さな山なんて、比べ物にならない。
でも、その子は誰とも話さず、一人で黙々と作業していた。
僕と同じで、ちょっと浮いた存在だったのかもしれない。
突然、隣のクラスの子がサッカーボールを全力で蹴ってきた。ボールは弧を描いて、その子の城の真ん中に直撃した。ドサッという音とともに、メインの塔が崩れ落ちた。
堀は砂で埋まり、水路は跡形もなくなった。陽介は一瞬、動きを止めた。スコップを持ったまま、固まっている。
それから、肩が小さく震え始めた。ポロポロと涙がこぼれて、砂に落ちる。ぽた、ぽた、と小さな跡がついていく。
その子は崩れた砂を必死に掻き集め始めた。指が砂にまみれて、余計に崩れる。直そうとすればするほど、形が崩壊していく。
泣きじゃくりながら、「うぅ…うわぁ…」と小さな声が漏れる。誰も近づかない。みんな、遠巻きに見てるだけ。
僕は、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。あの涙。あの必死さ。なんか、放っておけなかった。
僕は黙って立ち上がって、その子の隣にしゃがんだ。崩れた塔の砂を、そっと掻き寄せた。
その子はびっくりした顔で俺を見上げた。涙でぐしゃぐしゃの顔に、鼻水まで垂れてる。
「…だ、誰…?」
「一緒にやろ…?」
僕はその子のバケツをそっと取って、園庭の水道まで走った。水を汲んで戻ると、その子はまだ泣きながら砂を掻き集めてた。
僕はバケツを傾けて、崩れた部分に水を注いだ。砂が固まり始める。その子は鼻をすすりながら、俺の動きを見ていた。
二人で黙々と作業を始めた。僕が砂を固めて男の子が塔の形を整える。最初はぎこちなかったけど、だんだん息が合ってきた。
男の子の涙も止まって、代わりに小さな笑顔が浮かんだ。塔が三つとも元通りになって、割り箸の旗を刺し直す。
堀を掘り直して、水路も復活。葉っぱを橋にして、完成した。
男の子がぱっと顔を上げた。目はまだ赤いけど、笑顔が輝いてる。
「凄い!上手だね!僕、陽介! 御剣 陽介!よろしくね!」
「僕は…駿…篠崎 駿…よろしくね…陽介くん」
その日から、僕たちはいつも一緒だった。朝の会が終わると、砂場に直行。城をでかくしたり、トンネルを掘ったり。
陽介は明るくて、僕の代わりにみんなに話しかけてくれた。
放課後、陽介はよく僕を連れて、親父さんの店があるショッピングモールに行った。
店員さんたちも「陽くん、また来たの?」って笑顔で迎えてくれた。
でも、一番の遊び場はモールから自転車で5分の駄菓子屋「みつばち堂」だった。
店先に『ウィザーマン』のお面がずらっと並んでて、陽介はいつもイエローのお面を被った。
レッドがリーダーなのに、陽介はイエローにこだわりまくってた。
僕はレッドのお面を被って、二人でごっこ遊びをした。
陽介が駄菓子屋の前で僕はレッドとして陽介と一緒に遊んだ。
駄菓子屋のおばあちゃんは「またやってるねぇ」と笑って、10円の飴をポケットに忍ばせてくれた。
ある夏の日、近くの神社の『水鏡神社』で遊んでてたら、陽介がイエローのお面を被って現れた。
手に持ってるのは、駄菓子屋で買ったらしいスパークリングキャンディ。
神社の境内には、鳥居の奥に小さな遊び場があって、ブランコ、シーソー、砂場、ジャングルジム、鉄棒が揃っていた。
夏の陽射しが木々の葉を透かして、キラキラと地面に影を落としている。蝉の声が響き渡り、遠くでお祭りの太鼓の練習音がぼんやり聞こえてくる。
陽介はキャンディをくわえながら、境内を駆け回った。
「なぁ、駿! ここ、俺たちの秘密基地にしようぜ!」って、イエローのお面をずらして叫ぶ。
僕はレッドのお面を被って、追いつこうと必死に走った。
遊び場に着くと、陽介はまずブランコに飛び乗った。足を大きく振り上げて、高く高く漕ぎ始めて勢いよくジャンプして着地すると砂利が飛び散って、僕のズボンにくっついた。
次にシーソーに移って、陽介が向こう側に座る。
「駿、重心合わせて! 」って、僕と交互に上下。ギシギシ音がして、笑いながらバランスを取る。陽介が急に立ち上がって、シーソーを傾けて僕を高く持ち上げる。
僕は慌てて「わっ!」って叫びながら、落ちないようにしがみついた。
砂場では、陽介がまた城作りを始めた。ジャングルジムの足元に堀を掘って、「ここは要塞だ!」って。
僕は鉄棒にぶら下がりながら、上から指示をした。
「塔をもっと高く!」って。
陽介はスパークリングキャンディを振り回しながら、砂を積み上げる。
境内を走り回って、陽介の笑い声が神社中に響いて、時々お参りのおじいさんが微笑んで見てる。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、神社の社務所から白い装束の神主さんがゆっくり歩いてきた。
背が高くて、優しい目をしたおじいさん。名前は水鏡神社の宮司、藤原さんって呼ばれてる。
「おやおや、どうしたんだい?小さなヒーローさんたち?」
陽介がイエローのお面をずらして、ぺこりとお辞儀。
「神主さん、こんにちは! 僕たち、秘密基地作ってるんです!」
神主さんはくすっと笑って、懐から小さな紙袋を取り出した。
「ふむ、頑張ってるね。じゃあ、これを元気の素にどうだい?」
中身は神社で売ってるお守りじゃなくて、駄菓子屋と同じスパークリングキャンディ。でも、包み紙に手書きで「元気の素」と書いてある。
「わぁ! ありがとうございます!」
陽介が目を輝かせて受け取る。僕も恥ずかしそうに頭を下げた。
神主さんはしゃがんで、僕たちの砂の城を覗き込んだ。
「ほう、これは立派だ。昔、私もこんなの作ったもんだよ」
陽介が得意げに胸を張る。「僕が堀を掘って、駿が塔作ったんだ!」
「素晴らしい連携だ。神様も喜んでおられるよ」
神主さんはそう言って、僕達に小さな鈴のお守りをくれた。
「これをジャングルジムのてっぺんに吊るしておいで。守り神がつくぞ」
僕たちは大喜びでジャングルジムに登り、鈴を結びつけた。チリンチリンと風に揺れて、遊び場に清らかな音が響く。
それからというもの、神主さんは僕たちが来るたびに顔を出してくれた。時には茶を振る舞い、時には境内のお祭りの話を聞かせてくれる。
陽介は「おじいちゃんみたい!」って慕って、僕もなんだか安心できる存在になった。
ある日、遊び疲れてジャングルジムの陰で休んでいると、陽介がふと境内奥の巨大な木を見上げた。
遊び場から少し離れた場所に、太い幹が天を突くようにそびえる大木があった。根元には注連縄が巻かれ、鳥居の奥に佇むその姿は、まるで神社の守り神のよう。
「ねぇ、神主さん。あの木、すっごく大きいね。何の木?」
藤原さんが穏やかに微笑みながら、木の方へ歩き出す。
「あれはな、この水鏡神社の御神木じゃ。樹齢はもう八百年を超えておるよ。楠の木でな、昔からこの土地を守ってきたんだ」
陽介が目を丸くして、「八百年!? 僕のおじいちゃんよりずっとおじいちゃんだ!」
「ははは、そうじゃな。この木の下では、昔の人が願い事をしたり、戦の前に祈ったりしたんじゃよ。根っこが大地をしっかり掴んで、どんな嵐にも耐えてきた。見てみろ、この幹の傷は雷に打たれた跡じゃが、それでも枯れずに生きておる」
僕はそっと幹に手を当てた。ゴツゴツした感触が、長い年月を語っているみたいだった。
陽介も真似して手を伸ばし、「なんか、あったかい……神様が住んでるみたい!」と呟く。
神主さんは優しく頷いた。
「この木はな、人の願いを聞いてくれるんじゃ。特に、友達を大切に思う心、お前たちのような純粋な心には、きっと応えてくれる」
陽介がぱっと顔を輝かせた。「じゃあ、僕と駿がずっと友達でいられるように、お願いしよ! ね、駿!」
僕は恥ずかしそうに頷いた。二人で御神木の前で手を合わせる。蝉の声と風の音が混ざり、葉っぱがさわさわと囁く。
なんだか、本当に願いが届きそうな気がした。
神主さんが小さく笑って、「よし、今日は特別じゃ。御神木のおさがりをやろう」と、懐から干菓子を出してくれた。甘くて、ほんのり木の香りがした。
汗だくになって、二人で砂場の端に寝転がった。空には入道雲が浮かんで、陽介が「見て、あれカブトムシみたいな形!」って指差す。
僕も頷いて、隣でキャンディを分けてもらった。甘酸っぱい味が、夏の思い出を溶かしていくみたいだった。
その遊び場は、僕たちだけの秘密の冒険の場になった。ブランコの揺れ、シーソーの上下、砂場の創造、ジャングルジムの登攀、鉄棒の技、神社の静かな空気が、陽介の元気と、神主さんの優しさと、御神木の大きな存在感と混ざって、特別な時間を作ってくれた。
みんながブランコの順番を争ったり、滑り台でキャーキャー騒いだりしてる輪の中に入るのが、どうしても苦手だった。
言葉を交わすと、変な沈黙ができてしまう。変な顔をされる。そんな経験が積み重なって、自然と一人でいるのが楽になっていた。
砂場では、黙々と小さな山を作っていた。バケツに砂を詰めて、ひっくり返して、指で表面を整える。
崩れないように、水を少しずつかけて固める。誰にも邪魔されず、自分の世界に浸れる時間が好きだった。でも、心のどこかで「誰かと一緒に作ったら、もっとでっかいのができるかな」なんて、ぼんやり思ったりもした。
その日、砂場の反対側で、同じ歳の子が大きな城を作っていた。バケツを何度も往復して、塔を三つも積み上げている。堀を掘るために、スコップを握りしめて汗だく。舌をちょっと出して、真剣そのものの顔。
服はショッピングモール『ヨウコウ』オリジナルブランドのTシャツで、胸ポケットにはミニカーが覗いていた。
その城は本格的だった。塔の頂上には割り箸の旗が刺してあって、堀には水路まで作ってある。僕の小さな山なんて、比べ物にならない。
でも、その子は誰とも話さず、一人で黙々と作業していた。
僕と同じで、ちょっと浮いた存在だったのかもしれない。
突然、隣のクラスの子がサッカーボールを全力で蹴ってきた。ボールは弧を描いて、その子の城の真ん中に直撃した。ドサッという音とともに、メインの塔が崩れ落ちた。
堀は砂で埋まり、水路は跡形もなくなった。陽介は一瞬、動きを止めた。スコップを持ったまま、固まっている。
それから、肩が小さく震え始めた。ポロポロと涙がこぼれて、砂に落ちる。ぽた、ぽた、と小さな跡がついていく。
その子は崩れた砂を必死に掻き集め始めた。指が砂にまみれて、余計に崩れる。直そうとすればするほど、形が崩壊していく。
泣きじゃくりながら、「うぅ…うわぁ…」と小さな声が漏れる。誰も近づかない。みんな、遠巻きに見てるだけ。
僕は、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。あの涙。あの必死さ。なんか、放っておけなかった。
僕は黙って立ち上がって、その子の隣にしゃがんだ。崩れた塔の砂を、そっと掻き寄せた。
その子はびっくりした顔で俺を見上げた。涙でぐしゃぐしゃの顔に、鼻水まで垂れてる。
「…だ、誰…?」
「一緒にやろ…?」
僕はその子のバケツをそっと取って、園庭の水道まで走った。水を汲んで戻ると、その子はまだ泣きながら砂を掻き集めてた。
僕はバケツを傾けて、崩れた部分に水を注いだ。砂が固まり始める。その子は鼻をすすりながら、俺の動きを見ていた。
二人で黙々と作業を始めた。僕が砂を固めて男の子が塔の形を整える。最初はぎこちなかったけど、だんだん息が合ってきた。
男の子の涙も止まって、代わりに小さな笑顔が浮かんだ。塔が三つとも元通りになって、割り箸の旗を刺し直す。
堀を掘り直して、水路も復活。葉っぱを橋にして、完成した。
男の子がぱっと顔を上げた。目はまだ赤いけど、笑顔が輝いてる。
「凄い!上手だね!僕、陽介! 御剣 陽介!よろしくね!」
「僕は…駿…篠崎 駿…よろしくね…陽介くん」
その日から、僕たちはいつも一緒だった。朝の会が終わると、砂場に直行。城をでかくしたり、トンネルを掘ったり。
陽介は明るくて、僕の代わりにみんなに話しかけてくれた。
放課後、陽介はよく僕を連れて、親父さんの店があるショッピングモールに行った。
店員さんたちも「陽くん、また来たの?」って笑顔で迎えてくれた。
でも、一番の遊び場はモールから自転車で5分の駄菓子屋「みつばち堂」だった。
店先に『ウィザーマン』のお面がずらっと並んでて、陽介はいつもイエローのお面を被った。
レッドがリーダーなのに、陽介はイエローにこだわりまくってた。
僕はレッドのお面を被って、二人でごっこ遊びをした。
陽介が駄菓子屋の前で僕はレッドとして陽介と一緒に遊んだ。
駄菓子屋のおばあちゃんは「またやってるねぇ」と笑って、10円の飴をポケットに忍ばせてくれた。
ある夏の日、近くの神社の『水鏡神社』で遊んでてたら、陽介がイエローのお面を被って現れた。
手に持ってるのは、駄菓子屋で買ったらしいスパークリングキャンディ。
神社の境内には、鳥居の奥に小さな遊び場があって、ブランコ、シーソー、砂場、ジャングルジム、鉄棒が揃っていた。
夏の陽射しが木々の葉を透かして、キラキラと地面に影を落としている。蝉の声が響き渡り、遠くでお祭りの太鼓の練習音がぼんやり聞こえてくる。
陽介はキャンディをくわえながら、境内を駆け回った。
「なぁ、駿! ここ、俺たちの秘密基地にしようぜ!」って、イエローのお面をずらして叫ぶ。
僕はレッドのお面を被って、追いつこうと必死に走った。
遊び場に着くと、陽介はまずブランコに飛び乗った。足を大きく振り上げて、高く高く漕ぎ始めて勢いよくジャンプして着地すると砂利が飛び散って、僕のズボンにくっついた。
次にシーソーに移って、陽介が向こう側に座る。
「駿、重心合わせて! 」って、僕と交互に上下。ギシギシ音がして、笑いながらバランスを取る。陽介が急に立ち上がって、シーソーを傾けて僕を高く持ち上げる。
僕は慌てて「わっ!」って叫びながら、落ちないようにしがみついた。
砂場では、陽介がまた城作りを始めた。ジャングルジムの足元に堀を掘って、「ここは要塞だ!」って。
僕は鉄棒にぶら下がりながら、上から指示をした。
「塔をもっと高く!」って。
陽介はスパークリングキャンディを振り回しながら、砂を積み上げる。
境内を走り回って、陽介の笑い声が神社中に響いて、時々お参りのおじいさんが微笑んで見てる。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、神社の社務所から白い装束の神主さんがゆっくり歩いてきた。
背が高くて、優しい目をしたおじいさん。名前は水鏡神社の宮司、藤原さんって呼ばれてる。
「おやおや、どうしたんだい?小さなヒーローさんたち?」
陽介がイエローのお面をずらして、ぺこりとお辞儀。
「神主さん、こんにちは! 僕たち、秘密基地作ってるんです!」
神主さんはくすっと笑って、懐から小さな紙袋を取り出した。
「ふむ、頑張ってるね。じゃあ、これを元気の素にどうだい?」
中身は神社で売ってるお守りじゃなくて、駄菓子屋と同じスパークリングキャンディ。でも、包み紙に手書きで「元気の素」と書いてある。
「わぁ! ありがとうございます!」
陽介が目を輝かせて受け取る。僕も恥ずかしそうに頭を下げた。
神主さんはしゃがんで、僕たちの砂の城を覗き込んだ。
「ほう、これは立派だ。昔、私もこんなの作ったもんだよ」
陽介が得意げに胸を張る。「僕が堀を掘って、駿が塔作ったんだ!」
「素晴らしい連携だ。神様も喜んでおられるよ」
神主さんはそう言って、僕達に小さな鈴のお守りをくれた。
「これをジャングルジムのてっぺんに吊るしておいで。守り神がつくぞ」
僕たちは大喜びでジャングルジムに登り、鈴を結びつけた。チリンチリンと風に揺れて、遊び場に清らかな音が響く。
それからというもの、神主さんは僕たちが来るたびに顔を出してくれた。時には茶を振る舞い、時には境内のお祭りの話を聞かせてくれる。
陽介は「おじいちゃんみたい!」って慕って、僕もなんだか安心できる存在になった。
ある日、遊び疲れてジャングルジムの陰で休んでいると、陽介がふと境内奥の巨大な木を見上げた。
遊び場から少し離れた場所に、太い幹が天を突くようにそびえる大木があった。根元には注連縄が巻かれ、鳥居の奥に佇むその姿は、まるで神社の守り神のよう。
「ねぇ、神主さん。あの木、すっごく大きいね。何の木?」
藤原さんが穏やかに微笑みながら、木の方へ歩き出す。
「あれはな、この水鏡神社の御神木じゃ。樹齢はもう八百年を超えておるよ。楠の木でな、昔からこの土地を守ってきたんだ」
陽介が目を丸くして、「八百年!? 僕のおじいちゃんよりずっとおじいちゃんだ!」
「ははは、そうじゃな。この木の下では、昔の人が願い事をしたり、戦の前に祈ったりしたんじゃよ。根っこが大地をしっかり掴んで、どんな嵐にも耐えてきた。見てみろ、この幹の傷は雷に打たれた跡じゃが、それでも枯れずに生きておる」
僕はそっと幹に手を当てた。ゴツゴツした感触が、長い年月を語っているみたいだった。
陽介も真似して手を伸ばし、「なんか、あったかい……神様が住んでるみたい!」と呟く。
神主さんは優しく頷いた。
「この木はな、人の願いを聞いてくれるんじゃ。特に、友達を大切に思う心、お前たちのような純粋な心には、きっと応えてくれる」
陽介がぱっと顔を輝かせた。「じゃあ、僕と駿がずっと友達でいられるように、お願いしよ! ね、駿!」
僕は恥ずかしそうに頷いた。二人で御神木の前で手を合わせる。蝉の声と風の音が混ざり、葉っぱがさわさわと囁く。
なんだか、本当に願いが届きそうな気がした。
神主さんが小さく笑って、「よし、今日は特別じゃ。御神木のおさがりをやろう」と、懐から干菓子を出してくれた。甘くて、ほんのり木の香りがした。
汗だくになって、二人で砂場の端に寝転がった。空には入道雲が浮かんで、陽介が「見て、あれカブトムシみたいな形!」って指差す。
僕も頷いて、隣でキャンディを分けてもらった。甘酸っぱい味が、夏の思い出を溶かしていくみたいだった。
その遊び場は、僕たちだけの秘密の冒険の場になった。ブランコの揺れ、シーソーの上下、砂場の創造、ジャングルジムの登攀、鉄棒の技、神社の静かな空気が、陽介の元気と、神主さんの優しさと、御神木の大きな存在感と混ざって、特別な時間を作ってくれた。