RECORD

Eno.102 不明門通 辰巳の記録

【日記27】太陽に関する考察の話






「若ちゃん、変なこと聞いてもいい?」


「なんだ?」


「裏世界の太陽の動き方ってさあ、どうなってんの?」


「知らね」


「知らないんかーい」


「いや純粋に疑問だったんだよね。
 ほら裏世界って夕暮れと明け方を繰り返してるじゃん?
 ぶっちゃけると太陽が沈むことは無いワケ。
 じゃあどういう動き方してんのかわかんねーってなんないの?」


「あんまり気にしたことない。
 裏世界でそもそも科学的観点で現象を調べようなんて
 奇特な奴が居ると思うか?」


「いねーと思うわ
 いても多摩科連とか研究してる人だわ」


「だろ?」


「科学的に解明しようとして厄介な事になる可能性だって
 爪の先程でもあるんだから、
 その手の調査は慎重にならざるを得ない」


「でも知りたいよ~~~」


「うるせえなあ。
 分かったよ、ちょっとだけ科学観点で考えてみよう」







「まず裏世界で陽が沈まないということは厳密にはない」


「へ?」


「ヤッホー横丁の新月夜店通り、
 ビジネスタウンの深夜のオフィス、
 これら二つの場所公式エリアは明示的に裏世界で夜を迎えていることが示されている」


「言われてみれば確かに。
 ホントだぁ。月が出てるし暗いんだ」


「月見台や北摩湖も満月について言及しているが、
 これは表世界の満月かもしれないので一旦候補から外しておくとして……
 とにかく、裏世界にも局所的に夜が訪れていることが伺える」


「部分的に陽が出たり沈んだりしているということ?」


「おそらくはそう。
 ただ裏世界の大部分のところでは朝日と夕陽が常に覗くような状況って事だ。
 上記のような場所は特殊ケースなんだろう」


「以上を踏まえた上でこちらをご覧頂こう」






「あっ中学の教科書でよく見る奴」


「地球から見た季節ごとの太陽の動きを図に起こした奴だな。
 春秋は真東から太陽が昇り、真西に沈む。
 夏至は南中高度が最も高く、冬至は南中高度が最も低い」


「なぜこういう弧を描くのかというと地軸が傾いてるからだな。
 これのおかげで四季が生まれた」




「北半球では東から出た太陽が南方向に傾きながら西へ沈む。
 南半球では東から出るのは同じでも北方向に傾きながら西へ沈む。
 赤道直下ではほぼ真上を通るといった形だ。
 そして北極付近では地平線に近くなる」


「あ~~~なるほどねえ?
 裏世界の太陽が白夜みてえな出方をしている可能性があると?
 横にスライドするみたいに?」


「そう。
 地球の公転面の垂線に対して地軸が約23.4度傾いているため、
 夏に一日中太陽の方を向くことになる地域がある。
 夜になっても太陽がほとんど沈まない───
 裏世界の太陽もこの動きをしてるんじゃないか、という説だな」


「ありうるねえ。白夜は完全な横スライドじゃないけど
 裏世界はいつでも朝日と夕陽の……ンンン?
 朝日と夕陽って言ったけど区切りはどこでつけてるんだろ?」


「さあなあ……。
 裏世界で時間感覚を計ろうとするのはナンセンスなのかもな。
 だいたいの午前午後が分かれば十分だろう。
 それこそ表世界の時計を基準に使っているのかもしれないし」







「では次のパターン。
 シーソーじみた動きをしている可能性」


「シーソーってあの公園に置いてある奴?」


「そう」


「ごめん嘘、最近は撤去されがち」


「そうなんだ」


「でもシーソーってどういうことよ」


「さっきも言った通り、あくまでも大部分がそうであるというだけで
 別に裏世界に夜が訪れないわけじゃない。
 局所的にではあるが夜が訪れる場所は存在している」


「新月夜店通りと深夜のオフィスね」


「つまるところ陽の沈むタイミングは必ずあるわけで……
 太陽が西の空と東の空で固着化して
 昇ったり沈んだりしているパターン」




「それさあ……太陽二つあるんじゃねえの?」


「月と太陽が同時刻に昇ってる時点で惑星の数は些事だよ姐御」


「それはそうなんですけども」


「地点Aでは太陽が見えていて空が明るく、
 地点Bでは月が見えていて空が暗いのなら
 あくまでも東の空の太陽を朝日、西の空の太陽を夕陽と呼んでいるのでは?
 という説だな」


「あたまおかしくなっちゃうよ~~~」








「いずれにせよ、そもそも科学根拠の話なら
 裏世界でこんなに穏やかに過ごせてないだろうな」


「なんで?夜が無くなるとヤバいん?」


「ヤバいぞ」


「たとえば……そうだな。
 太陽系の惑星で昼夜間隔が極端に長いのは水星だ。
 陽が出たら88日間出ずっぱり、沈んだら沈んだで88日昇って来ない。
 昼間の気温が430度、夜の気温がマイナス160度だそうだ」


「死ぬねえ!?
 怪奇じゃなくて環境がヤバい!!」


「でもそうなっていない。
 夕暮れと明け方を繰り返している、そういう神秘がある
 と外観的に神秘的な現象が起こるだけで済んでいる。
 気温・日照・重力等の細かい点はなあなあで良い感じに着地した」


「未解明部分がアンタッチャブルであるからこそ、俺達は守られていると言える。
 むやみやたらに掘り返すなって事だ」


「基本的には朝焼け夕暮れ、たまに月が出て夜になるところもある。
 なんでかは知らないが、そういうことになっている。
 それ以上を知りたがるのは野暮ってもんだろ」


「なんか裏世界の環境について、向こうにお住いの皆さんが
 フンワリとした認識で済ませてる理由がここに集約されてそうだなあ。
 下手に蜂の巣つつく真似はやめといたほうが賢明ってことかあ」


「そういえば北摩テクノポリスにも冬が本格的にやってきてるけど……
 裏世界の気温も下がってんのかな」


「知らね」


「知らないんかーい」








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