RECORD
外伝 - 霧崖神代末記《 守られた平穏 》
*本記録には流血表現があります。
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青すぎる空。
眩しくて目を背ける。
生ぬるい風。
草花の匂いが鼻につく。
太鼓と笛。
甲高い声。
笑い声。
耳を塞ぎたくなる。
これが、求めた報いなのか。
そうだった。
そうだったはずなのだ。
そうだろうに
俺の前にあるのは

やはり、神などに縋ったのは
間違いだったのだ。

「長、落ち着かれませ」

「黙れ!
あの時逃げた夫妻! 逃亡者! あいつを殺さず贄に使っていれば!
お前が殺せと言うから、あいつらを殺したから
俺の妻にまで順番が回ってきたんだ!
俺の妻が最後の贄だったんだ!」

「長……!
それは違いまする。
あの時、八柄神に余計な動きを勘ぐられては」

「そんなのわからなかった! 捧げてみなければ!」

「捧げてみなければわからぬからこそ
最も確かな策を」

「黙れ! 黙れ! 死ね!!!!」

「長、いけませぬ、なりませぬ
そのように何度も刃を突き立てては、ああ」

「還りまするぞ」

「ごハ……ッ!?」

「なんッ……何を、した……?」

「拙者は、“月”に御座りまするゆえ
そのように激らせた“火”を打ちつけられたら
鏡写しのように還ってしまいまする。
憎しみという“火”を込めた刃を刺せば、そのまま御主にも同じく」

「……無事に御座りまするか、長」

「じっとしてくだされ。
こう見えても治療の術を学ぶ身に御座りまするゆえ。
処置をして、お休みになって、
それから落ち着いてお話を……」

「え?」

「お前だけは逃さん」

「神は殺す。
お前を殺し、俺も──」

「お待ちを!」

「心の臓を」

「狙っては
即死で……
御座りましょうに」

「…………………………
……七の長」

「この国を変えて
守るのではありませぬか。
かつてヤツカの君は、国を変え、それから
ずっと『守り続けて』いましたよ。
それを拒むからには、
御主らだけでこの国を『守り続ける』と」

「長……
………………」

「もう、どこも痛くはありませぬか。
苦は御座りませぬか」

「有り余る憎悪の矛先が
生き残った小国の民に向かわず
この畜生めに留まったこと」

「良う御座りましたね」
その後、月の化身は八小国の民に説いて周りました。
もう神は贄を求めぬこと。
その代わり、各小国に社を建てること。
八柄神に欠かさず祈ること。
もう二度と荒ぶらぬよう
鎮まり続けるよう
決して、忘れぬこと。