RECORD

Eno.166 結祈伽羅の記録

CD/B-Side・伏戸神邂逅

血が舞っていた。
その虹色は彼女の手首から部屋の中を泳ぐように漂い、どこかで聞いた事のあるようなそれでいて全く記憶にない音楽がその場を不思議な空間として彩っていた。

その宇宙の中心に、彼女の体が漂っている。

「夜呼!」



何が起きたのか全く理解できないままその場に踏み込む。
だが、たどり着けない。
玄関から踏み込んだ筈の足はただ宙に浮き、足踏みするだけだった。

冗談じゃない。
やっと会えた、いや、やっと君に会えるかもしれないんだ。
500年も前に君に聞きたかった事がある、その答えをやっと……

こんな所で手放してたまるか!



そうして伸ばした手に────何かが触れた。

「……は?」



褐色というには黒い手が僕の手に触れる。

【……幻夢境でならばともかく。現世……でお前が……感心しない】

手がつながった瞬間、どこかから声が響く。

【それを……には代償も必要……世の退魔師達は何故血に拘る地に拘る?
 それらが足りぬ下々は……生贄を捧ぐか】


誰だ、何の話だ。
いったい誰と会話している?

【……払った犠牲も此度は死なぬよう分散させてやったから次は】

虹色に光る空間が、宇宙が。宙に浮いた彼女に向って収縮してゆく。
引力に引き寄せられるのを感じたが繋がれた手が僕を守っていた。

……只々、彼女の髪の内に虹色が収まってゆくのを見守っているだけしかできない。

【まぁ、我は優しい。慈悲深い。治してやろうな】


───門は開き、閉じてゆく。

全ては無かった事のようにいずこかに仕舞われた。
膝をつく僕の上から落ちてきた夜呼の体を受け止めるように支えれば、引っ越しを終えた部屋に夕焼けが差し込んだ。

「伏戸神……」



何故、また君が選ばれる?

遅れてカシャンと音が鳴り、転がり落ちたCDに夜呼の手首から流れる赤い血液が付着していった。