RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
New encounter
──夜11時過ぎ。
いつものように冷蔵庫のビールを開けて、缶を片手にソファに沈み込む。テレビは適当につけっぱなしで、映ってるのは深夜の通販番組。
画面の向こうで「今ならもう一本無料!」とか叫んでるが、どうでもいい。
「……はぁ、今日も疲れたな」
駿の代わりに喫茶店の店番とこっちでの怪異絡みの仕事が続いてるせいで、肩が石みたいに凝ってる。
缶をテーブルに置いて、スマホを手に取った瞬間——
着信音。
画面に表示された名前は、
『雪』
「……マジかよ」
思わず声が出た。こんな時間に雪から連絡なんて、滅多にない。
仕方なく通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『あっ!陽介?今、大丈夫?』
声はいつもより少し低めで、緊張してるのがわかる。いつもの毒舌が鳴りを潜めてる。
「大丈夫だけど…どうした?こんな時間に珍しいな」
『ごめんね。急に……でも、相談したいことがあって』
相談。雪が俺に相談って、相当レアだ。しかも、明らかに「怪異絡み」じゃなくて「個人的な」感じがする。
「……で、何?」
少し間があって、雪が小さく息を吐いた。
『今度……私の研究所に来てくれないかな』
「は?」
思わず素で返事してしまった。
「研究所って、あの松葉市の奥の?お前が働いてる所か?」
『うん…実は、ちょっと見せたいものがあって』
見せたいもの。雪の口から出る言葉にしては、妙に曖昧だ。
普段なら「これが私の最新の解析データ」とか「怪異の残留思念が云々」とか、もっと小難しい話になるはずなのに。
「……見せたいものって、何だよ」
『来てくれたら、わかるから』
完全に逃げられた。こいつ、こういう時ほんとズルい。
「いや、でも俺、機械とか全然わかんねぇぞ? 駿とか彰の方が——」
『違うの。駿くんと彰にはもう連絡してて。みんなに来て欲しいの』
はっきり言われた。
雪の声が、少し震えてる気がした。
『……お願い。週末、空いてる?』
俺は缶ビールをもう一口飲んで、ため息をついた。
「……空いてるけどさ」
『本当!?ありがとう!じゃあ、土曜日の昼過ぎに、迎えに行くから』
「迎え? お前、運転できたのか?」
『最近、免許取ったの。陽介くんの車、ボロボロだから、私の車で行こうと思って』
「るせぇ!あれは愛着なの!」
雪が、くすっと笑った。いつもの、少し意地悪な笑い方。
『じゃあ、土曜日。お昼の12時、陽介くんの家の前で待ってるね』
「……おう。わかったよ」
『……ありがとう。本当に』
最後に、雪がすごく小さな声で言った。
『楽しみにしてる』
通話が切れた。
俺はスマホをテーブルに放り投げて、天井を見上げた。
「……楽しみ、ねぇ」
ビールが空になった。もう一本取ろうかと思ったけど、なんだか急に面倒くさくなって、やめた。
代わりに、ソファに横になって、ぼんやりと考える。
雪が俺を研究所に呼ぶ理由。
あいつが「見せたいもの」って言った時の声。
少し照れてるような、でもどこか不安そうな——
「……まさかな」
自分で言って、自分で笑った。
「はぁ……寝よう」
俺は電気を消して、ベッドに転がり込んだ。
でも、なかなか眠れなかった。
頭の中に、雪の声がリピートしてる。
『楽しみにしてる』
──あの時の雪の声が、なんだかすごく嬉しそうだった気がして。
「……ったく」
俺は枕に顔を埋めて、呟いた。
「面倒くせぇ女だな、本当に」
でも、口元が少し緩んでるのだけは、自分でもわかってた。
土曜日が、ちょっとだけ楽しみになってきた。
……なんてことは、絶対に認めねぇけどな。
いつものように冷蔵庫のビールを開けて、缶を片手にソファに沈み込む。テレビは適当につけっぱなしで、映ってるのは深夜の通販番組。
画面の向こうで「今ならもう一本無料!」とか叫んでるが、どうでもいい。
「……はぁ、今日も疲れたな」
駿の代わりに喫茶店の店番とこっちでの怪異絡みの仕事が続いてるせいで、肩が石みたいに凝ってる。
缶をテーブルに置いて、スマホを手に取った瞬間——
着信音。
画面に表示された名前は、
『雪』
「……マジかよ」
思わず声が出た。こんな時間に雪から連絡なんて、滅多にない。
仕方なく通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『あっ!陽介?今、大丈夫?』
声はいつもより少し低めで、緊張してるのがわかる。いつもの毒舌が鳴りを潜めてる。
「大丈夫だけど…どうした?こんな時間に珍しいな」
『ごめんね。急に……でも、相談したいことがあって』
相談。雪が俺に相談って、相当レアだ。しかも、明らかに「怪異絡み」じゃなくて「個人的な」感じがする。
「……で、何?」
少し間があって、雪が小さく息を吐いた。
『今度……私の研究所に来てくれないかな』
「は?」
思わず素で返事してしまった。
「研究所って、あの松葉市の奥の?お前が働いてる所か?」
『うん…実は、ちょっと見せたいものがあって』
見せたいもの。雪の口から出る言葉にしては、妙に曖昧だ。
普段なら「これが私の最新の解析データ」とか「怪異の残留思念が云々」とか、もっと小難しい話になるはずなのに。
「……見せたいものって、何だよ」
『来てくれたら、わかるから』
完全に逃げられた。こいつ、こういう時ほんとズルい。
「いや、でも俺、機械とか全然わかんねぇぞ? 駿とか彰の方が——」
『違うの。駿くんと彰にはもう連絡してて。みんなに来て欲しいの』
はっきり言われた。
雪の声が、少し震えてる気がした。
『……お願い。週末、空いてる?』
俺は缶ビールをもう一口飲んで、ため息をついた。
「……空いてるけどさ」
『本当!?ありがとう!じゃあ、土曜日の昼過ぎに、迎えに行くから』
「迎え? お前、運転できたのか?」
『最近、免許取ったの。陽介くんの車、ボロボロだから、私の車で行こうと思って』
「るせぇ!あれは愛着なの!」
雪が、くすっと笑った。いつもの、少し意地悪な笑い方。
『じゃあ、土曜日。お昼の12時、陽介くんの家の前で待ってるね』
「……おう。わかったよ」
『……ありがとう。本当に』
最後に、雪がすごく小さな声で言った。
『楽しみにしてる』
通話が切れた。
俺はスマホをテーブルに放り投げて、天井を見上げた。
「……楽しみ、ねぇ」
ビールが空になった。もう一本取ろうかと思ったけど、なんだか急に面倒くさくなって、やめた。
代わりに、ソファに横になって、ぼんやりと考える。
雪が俺を研究所に呼ぶ理由。
あいつが「見せたいもの」って言った時の声。
少し照れてるような、でもどこか不安そうな——
「……まさかな」
自分で言って、自分で笑った。
「はぁ……寝よう」
俺は電気を消して、ベッドに転がり込んだ。
でも、なかなか眠れなかった。
頭の中に、雪の声がリピートしてる。
『楽しみにしてる』
──あの時の雪の声が、なんだかすごく嬉しそうだった気がして。
「……ったく」
俺は枕に顔を埋めて、呟いた。
「面倒くせぇ女だな、本当に」
でも、口元が少し緩んでるのだけは、自分でもわかってた。
土曜日が、ちょっとだけ楽しみになってきた。
……なんてことは、絶対に認めねぇけどな。