RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

"穴"

"人を呪わば穴二つ"。
誰かを呪い殺したのであれば、自分も必ずその報いを受ける。
故に古き陰陽師たちに人を呪わせるのなら墓の穴が二つ、必要であると。



草薙一振は、アルバイト先で出会った男子高校生だった。
嫌でも目を引くような赤い髪と紫色のワンポイント。
いつもの色の付いたサングラスはきっとお気に入りなのだろう、アクセサリー類も普段から咥えている飴も、全てが"草薙一振"を象徴しているようで、仲良くなるには時間がかからなかった。

彼自身も気さくな人間だったものだから、嫌われている様子も感じない。
ああこれは都合が良いと取り入った。
月待よすがが"女"を使えば存外ノリが良く、
月待よすがが"非力"を訴えれば人並みに親切で、
月待よすがが"義理"を演じれば不義理を許した。

まったくそれは都合が良く、自分の欠陥を隠すのには丁度良いほど彼は穏やかなひとだった。
草薙一振は、僕がいなくても何も変わらない。
いつも通り適当で、気さくで、それが心地いいから自分の"穴"に、彼を選んだ。


あれからピアスの穴を開けるのは、自分でも出来るようになった。
開けたい個所を消毒して、ピアッサーを押し当てる。その度に自分は、彼を思い出すのだ。

「でも月待よすがお嬢様にとっては違うでしょう?」



――プツン


執事の恰好と違う髪型。すっと伸びた背に、ガラの悪いアクセサリーは外して、やけに丁寧な口調。僕はそれを草薙一振と認識しなかった。
あの時彼は、何を思ったのだろう。その間違いを思い出して、また"穴"を開ける。


"人を呪わば穴二つ"。
誰かを呪うのであれば、墓の穴はふたつ。
その片方は、彼に掘ってもらうことにしよう。
耳の同じ箇所には特等席。いつかいっしょに開けてお揃いのピアスを付けようと約束したばしょ。

彼に贈った紫色の花には、"不滅の愛"。
例えいつか縁が切れても、月待よすがが死んだとしても、
きみにだけは覚えていてもらおうと思う。
二つの穴と 僕の呪い。最も貴き色に包んで。







「……まあ、この思惑は明かさない。墓まで持って行くんだけどね」