RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
Its name──
陽介様はいつものように7時12分に目を覚ました。
まだ雪は降り続いていて、窓の外は真っ白な世界だった。
「おはよう、イドロ」
陽介様は寝ぼけ眼で私の頭を撫でる。
私はその手の温もりに、胸の奥がまた少し熱くなった。
「おはようございます、陽介様……今日はよく冷えるので、外出は控えたほうが——」
「いや、今日は出かけようぜ」
陽介様はニコニコしながら言った。
「回転焼き食べに行かねぇ?駅前の、あの老舗のやつ。雪の日に食うと格別なんだよ」
回転焼き。
私は早速データベースで検索した。
──検索結果:
・大判焼き
・今川焼き
・御座候
・太鼓焼き
・ベイクドモチョチョ
・自転焼き
・二重焼き
・おやき
・甘太郎
・黄金焼き
……異常値、多数検出。
別呼称の分岐が複雑すぎて、処理が一瞬フリーズしかけたであります。
「どうしたイドロ? 顔が固まってるぞ」
陽介様が笑う。
「……陽介様。あの円盤状の、小豆餡を挟んだ焼菓子は、一体何と呼べば正しいのでありますか?データベースが混乱しております。『回転焼き』で検索すると、『大判焼き』『今川焼き』『御座候』『ベイクドモチョチョ』……ベイクドモチョチョとは何ですか?何をモチョモチョするのですか?」
陽介様が吹き出した。
「ハハハ! ベイクドモチョチョは……まあ、ネタだよ。たぶん誰かがふざけて付けた名前」
「しかし、検索上位に出てくるのです……」
「ネットって怖いな!」
陽介様は私の手を引いて、玄関で長靴を履かせてくれた。
陽介様がこの前に買ってくれた赤い長靴──なんだかとても嬉しいのであります。
雪道を歩きながら、私はまだ混乱していた。
「陽介様は、何と呼んでいますか?」
「俺?回転焼きだな。子供の頃からそう呼んでたし」
「では、私は回転焼きと呼べばいいのですね?」
「うん。でもお店によっては『大判焼き』って書いてあるから、そこで頼むときは『大判焼き』って言わないと通じないかも」
「……呼称の多様性というのは恐ろしいであります」
駅前の店に着くと、ちょうど焼きたてが出ていた。
「おじさん、回転焼き二つ!あ、こっちでは大判焼きって言うんだっけ?」
陽介様が店主に確認しながら注文する。
鉄板の上で、ぷくっと膨らんでいく生地。
小豆の甘い香りが、雪の冷たい空気に溶けていく。
店主が笑顔で包んでくれた紙袋を受け取ると、
もう手が熱くてたまらない。
公園のベンチに座って、二人並んで食べる。
「はい、イドロ。あーん」
陽介様が半分に割った回転焼きを差し出してくる。
私は口を開け、食べてみた。
……熱い。
でも、すごく甘い。
「あんこ、うまいだろ?」
「……はい。とても、美味です」
舌の上でとろける小豆と、ちょっと焦げた皮の香ばしさ。
雪がちらちらと降ってくる中、湯気が立ち上る。
私はふと、自分の指を見た。
あんこが少しついている。
昔なら「汚れ」として即座に拭き取っていたのに、
今は……なんだか、もったいない気がした。
「……陽介様」
「ん?」
「回転焼きって、大判焼きって、今川焼きって、御座候って、太鼓焼きって……ベイクドモチョチョって、全部、同じ味がするのですね」
陽介様が、ぷっと噴き出した。
「そうだよ。名前なんてどうでもいいんだ。おいしいかどうか、それだけだろ?」
私は頷いた。
雪が、私の睫毛に乗って溶けていく。
「……陽介様と一緒に食べるから、もっとおいしいであります」
陽介様は少し照れたように笑って、私の頭を雪と一緒にぽんぽん叩いた。
「機会があったら、御座候の名店にも連れてってやるよ。姫路まで」
「遠いのですか?」
「新幹線で1時間ちょっとだよ。デートってことで」
「……デート、でありますか?」
「そうだよ」
私は、回転焼き(大判焼き/今川焼き/御座候/太鼓焼き/ベイクドモチョチョ)の最後のひと口を、ゆっくり噛みしめた。
甘くて、熱くて、胸の奥が、またぽつんと灯る。
……データベースの混乱なんて、もうどうでもいい。
陽介様と食べるなら、どんな名前でも、世界で一番おいしいおやつであります。
雪が止む頃、私たちは手を繋いで、ゆっくり家に帰った。
また明日も、
こんなふうに、
陽介様と一緒に、
「人間らしいこと」を、
たくさんしたいと思った。
まだ雪は降り続いていて、窓の外は真っ白な世界だった。
「おはよう、イドロ」
陽介様は寝ぼけ眼で私の頭を撫でる。
私はその手の温もりに、胸の奥がまた少し熱くなった。
「おはようございます、陽介様……今日はよく冷えるので、外出は控えたほうが——」
「いや、今日は出かけようぜ」
陽介様はニコニコしながら言った。
「回転焼き食べに行かねぇ?駅前の、あの老舗のやつ。雪の日に食うと格別なんだよ」
回転焼き。
私は早速データベースで検索した。
──検索結果:
・大判焼き
・今川焼き
・御座候
・太鼓焼き
・ベイクドモチョチョ
・自転焼き
・二重焼き
・おやき
・甘太郎
・黄金焼き
……異常値、多数検出。
別呼称の分岐が複雑すぎて、処理が一瞬フリーズしかけたであります。
「どうしたイドロ? 顔が固まってるぞ」
陽介様が笑う。
「……陽介様。あの円盤状の、小豆餡を挟んだ焼菓子は、一体何と呼べば正しいのでありますか?データベースが混乱しております。『回転焼き』で検索すると、『大判焼き』『今川焼き』『御座候』『ベイクドモチョチョ』……ベイクドモチョチョとは何ですか?何をモチョモチョするのですか?」
陽介様が吹き出した。
「ハハハ! ベイクドモチョチョは……まあ、ネタだよ。たぶん誰かがふざけて付けた名前」
「しかし、検索上位に出てくるのです……」
「ネットって怖いな!」
陽介様は私の手を引いて、玄関で長靴を履かせてくれた。
陽介様がこの前に買ってくれた赤い長靴──なんだかとても嬉しいのであります。
雪道を歩きながら、私はまだ混乱していた。
「陽介様は、何と呼んでいますか?」
「俺?回転焼きだな。子供の頃からそう呼んでたし」
「では、私は回転焼きと呼べばいいのですね?」
「うん。でもお店によっては『大判焼き』って書いてあるから、そこで頼むときは『大判焼き』って言わないと通じないかも」
「……呼称の多様性というのは恐ろしいであります」
駅前の店に着くと、ちょうど焼きたてが出ていた。
「おじさん、回転焼き二つ!あ、こっちでは大判焼きって言うんだっけ?」
陽介様が店主に確認しながら注文する。
鉄板の上で、ぷくっと膨らんでいく生地。
小豆の甘い香りが、雪の冷たい空気に溶けていく。
店主が笑顔で包んでくれた紙袋を受け取ると、
もう手が熱くてたまらない。
公園のベンチに座って、二人並んで食べる。
「はい、イドロ。あーん」
陽介様が半分に割った回転焼きを差し出してくる。
私は口を開け、食べてみた。
……熱い。
でも、すごく甘い。
「あんこ、うまいだろ?」
「……はい。とても、美味です」
舌の上でとろける小豆と、ちょっと焦げた皮の香ばしさ。
雪がちらちらと降ってくる中、湯気が立ち上る。
私はふと、自分の指を見た。
あんこが少しついている。
昔なら「汚れ」として即座に拭き取っていたのに、
今は……なんだか、もったいない気がした。
「……陽介様」
「ん?」
「回転焼きって、大判焼きって、今川焼きって、御座候って、太鼓焼きって……ベイクドモチョチョって、全部、同じ味がするのですね」
陽介様が、ぷっと噴き出した。
「そうだよ。名前なんてどうでもいいんだ。おいしいかどうか、それだけだろ?」
私は頷いた。
雪が、私の睫毛に乗って溶けていく。
「……陽介様と一緒に食べるから、もっとおいしいであります」
陽介様は少し照れたように笑って、私の頭を雪と一緒にぽんぽん叩いた。
「機会があったら、御座候の名店にも連れてってやるよ。姫路まで」
「遠いのですか?」
「新幹線で1時間ちょっとだよ。デートってことで」
「……デート、でありますか?」
「そうだよ」
私は、回転焼き(大判焼き/今川焼き/御座候/太鼓焼き/ベイクドモチョチョ)の最後のひと口を、ゆっくり噛みしめた。
甘くて、熱くて、胸の奥が、またぽつんと灯る。
……データベースの混乱なんて、もうどうでもいい。
陽介様と食べるなら、どんな名前でも、世界で一番おいしいおやつであります。
雪が止む頃、私たちは手を繋いで、ゆっくり家に帰った。
また明日も、
こんなふうに、
陽介様と一緒に、
「人間らしいこと」を、
たくさんしたいと思った。