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【日記28】お叱りの話

スイー……

「あら弟御からお手紙。
若旦那様、鳥居の方から紙飛行機でございます」

「デバイスのメモやsurfを介さずに?
どうしたんだろう。直でやり取りしたいのかな。
どれどれ……」

『ウラ姉に伝言を頼みました。
大事なお話があるので心して聞くように』

「!!」

「まあ」

「え……? 語気と筆圧つっよ……。
何で怒ってんだ……何……?」

「邪魔すんよ~、相変わらずスゲー店だな……」

「よう、若ちゃんミケちゃん。
伝言届けに来てやったよぉ」

「これはこれは津津様。
お久しゅうございます」

「なんで姐御が……?」

「えーでは……コホン」
兄貴が教科書をそっちで探していると聞き及びました。
正直言うて相談して欲しかったし、俺に頼んで欲しかったです。
ショウ兄もさんざん言うてたけどさぁ、
必要なモンは必要て言って貰わな分からんやん。
なんでそういうこと隠すねん。欲しかったんやろ?
そのくせ他の人には頼み事しよってからに……
俺とショウ兄に黙ってたんマジで酷ない!?
まず俺に相談くらいしてくれても良かったんちゃいますのん!?
一にも二にも先に言うべきとこあったやん!
どーせ兄貴のことやさかい、
言ったら迷惑かけちゃうカナ~って余計な事考えてたんやろ!
イケズやわぁ……欲しいモンあったなら言えやあ!!
金に困るほどこっちの生活別に困ってへんの!!
なんなんマジで!水臭い!
偶然事情ゲロってくれはった人に免じて喧嘩はせえへんけど、俺結構怒ってるからな!

「……です!」

「ですじゃねえよ」

「というか普通にバレたな。
大々的に探しすぎたか……失敗した」

「続いてショウ兄からの伝言ね」

「まだあんのかよ……」

「えーでは……コホン。拝啓……」

(拝啓?)

(拝啓っつったか今?)
荒涼たる冬となり、行く年を惜しみながら新しい年に希望を馳せるこの頃。
貴方様におかれましては、お健やかにお過ごしのことと存じます。
さて日頃は何かと至らぬ私共にいろいろとお心遣いを頂き、言葉では言い表せないほど感謝しております。
そちらから頂いている裏世界での依頼報酬や、店の売上の大半を辰巳の学費に回させて頂いており、生活に然程支障はございません。
おかげさまでねね婆から金銭的支援を受けずとも辰巳を大学に行かせてやることができます。
ただ貴方様が何か遠慮をしていないか、それだけが気掛かりです。
差し出がましいかとは思いますが、私達で何か役立てる事がありましたら何でもお申しつけくださいね。
向寒の折柄、ご健康にはくれぐれもお気をつけください。
略儀ながら歳末の御挨拶まで。

「……け、敬具……です……。ハァハァ……
こんなめんどくせえ伝言はじめて!」

「シンプルに堅苦しい!」

「なぜ伝言に拝啓と敬具を!?」

「時候の挨拶いらないだろ絶対!」

「ショウ兄めんどくさいからなぁ。
丁寧な手紙っぽさの節々に何かが滲むよね」

「まあ弟クンはまだしも、ショウ兄の方は
いくらか事情察してくれるべ。
若ちゃんが性格上そういうの言い出さないのは
ショウ兄も分かってるハズだしね」
「それでもある程度は望みどおりにしてやりたいっていう保護者の葛藤みたいなもんなんじゃね?
そりゃあれよ?若ちゃんが表世界に出られたらちょっと話変わるけどさ?」

「結局、好きなようにさせてやりたいと願っても
若ちゃんは表の学校に行けない」

「それは───……」

「ならせめて学校に通わせてやれない分、
教科書くらいは贈ってやりたいんじゃないのぉ。
その気持ちくらいは汲んであげてはいかがかな?
というウラ姉ちゃんからの年長アドバイスでござい」
「ま、どのみち非は若ちゃんの方にあるわな。
弟クンにちゃんと一言詫び入れな」

「……ぐうの音もでない。そうするよ」

「何にせよ貰えそうなら良かったじゃん。
現在進行形で教科書探して貰ってんでしょ?
今後はワガママの一つや二つ覚えなさいな。
難しいんだろうけどさ。練習練習」

「うん…………善処する」

「つってもそう簡単な話じゃないんだよな~。
若ちゃんってなんでか知らんけど
弟クンに対しての献身が強迫観念じみたトコあるんだよね。
ミケちゃんは覚えてるっしょ」

「ええ、まぁ……私もそれは承知しております。
実はですね───」
***

「さて、まずは身なりを整えませんとね。
散髪に湯浴み、御召し物を変えてからお食事を───」

「おれは、べつにええから……
辰巳にやってあげて……」
***

「ショウ様からクリスマスプレゼントなるものを
お伺いしておりますが……
何か興味のある品はございますか?」

「特に欲しいものないな……。
その分の金は辰巳に回せないのか?」
***

「お誕生日ですが……」

「大丈夫だ。祝いの言葉だけで十分だよ。
それより辰巳に───」
***

「お誕生日おめでとうございます。
若旦那様」

「ありがとう、ミケ」
***

「───といった始末でして」

「だいぶ筋金入りだなあ!!
当初からそんな感じだったの!?」

「教科書欲しがってたのはむしろ珍しいケースだったんだ。
でも物欲が無いってワケではないんだよね。
望みをあまり口に出さないというか、胸中でポツンと呟いてそんで終わりにしてる感じ。
行き過ぎた質実剛健?」

「これって出自のせいなのかなあ。
怪奇ってのは得てして性質というか……
己の逸話に引っ張られやすいから。
文字通りの意味で生まれ持ったサガよね」
「ワガママ言うのは弟の役目で~的な?
自己が無いとは言わないけど、
物事のウェイトが基本的に全部弟クン側に傾いちゃってんのね」

「こちらに来て少し経った頃は……
幼さ故か何かと泣いていらした事もあったのですが、
毒屋に行ってからはそれも見なくなりましたね」

「毒屋……心の毒屋か……」