RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

追憶④-The Worst Masquerade

松葉市の夜は、雪が音もなく降り積もる静寂に包まれていた。水鏡神社の境内で、駿と陽介は凍てつく風に肩をすくめながら立ち尽くす。

美空先輩の救出から数週間、商店街は表面的な平穏を取り戻していたが、裏の世界の暗い鼓動は止まることなく脈打っていた。

陽介がスマホを握りしめ、歯を食いしばって吐き出した。

「駿…今度は彰が…彰がいなくなった…!」

俺の胸に、氷のような痛みが走る。

「いつからだ? 何があった?」

「昨夜、彰が『裏の世界を調べる』って神社に入ったきり、音沙汰ないんだ。雪は…何か知ってるみたいだが、様子が…おかしいんだ」

「雪ちゃんに話を聞く前に、商店街で情報集めよう。彰の足取りを追えるかもしれない」

陽介が頷き、二人は雪の降る通りを急いだ。足元で雪が軋み、街灯の光が雪片に反射して揺らめく。冷たい空気が肺を刺し、吐息が白く舞い上がる。

松葉市の商店街は、厚い雪に覆われ、提灯の淡い光がぼんやりと周囲を照らしていた。

普段は賑やかなこの場所も、夜の雪景色の中ではひっそりと息を潜めている。

俺と陽介は小さな雑貨店から聞き込みを始めた。

陽介がカウンター越しに声をかけ、雪を払いながら尋ねた。

「おばちゃん、彰のこと知ってる? 昨日、商店街で何か変なことなかった?」

店員のおばさんが目を細め、記憶を辿るように答えた。

「彰くんね…昨日、夕方に見かけたよ。急いでたみたいで、雪ちゃんの名前を呟きながら神社の方へ走ってったわよ?」

手帳にメモを走らせ、頷く。

「他に何か?」

おばさんが首を振る。

「それくらいかなぁ。でも、雪ちゃん、最近元気がないよね…何かあったのかい?」

次に、二人は八百屋へ。雪をかぶった野菜を並べる店主のじいさんが、目を細めて話した。

「ああ、彰の坊主か。夜遅く、商店街の端で誰かと話してた。女の声だったけど、雪ちゃんじゃなかったな…怒鳴り合ってるみたいだった。『お前のせいだ』って、女の声が響いてた気がする」

その言葉に眉が深く刻まれる。

「女の声…雪ちゃんじゃない?」

陽介がレンチを肩に担ぎ、低く呟いた。

「ますます雪が鍵だな。彰のやつ、雪のことで何か掴んだのかもしれねぇ。早く行こうぜ」

雪降る通りを駆け抜け、二人は雪の家へと急いだ。商店街の断片的な情報は、彰の消失が雪の心の闇と深く結びついていることを示していた。

雪の家に辿り着くと、玄関で雪の母親が二人を迎えた。彼女の顔には疲れと深い心配が刻まれ、雪の冷気が肩を震わせていた。

「駿くん、陽介くん…雪が…部屋で泣いてるの。彰くんのことが心配で、ずっと自分を責めてるみたい。どうか…雪を慰めてあげて」

駿と陽介は無言で頷き、母親に導かれて階段を上る。木の階段が軋み、薄暗い廊下に足音が響く。雪の部屋の前で、駿がそっとノックした。

「…誰…?」

中から、か細く震える声が漏れる。

「雪ちゃん、俺たちだ。入っていいか?」

沈黙の後、ドアがゆっくりと開いた。雪はベッドに座り、膝を抱えて震えていた。

目は赤く腫れ、頬には涙の跡が乾き、いつも優しく輝く笑顔は影を潜めていた。部屋は薄暗く、窓の外の雪がカーテンの隙間から覗く。

陽介が雪の隣に座り、心配そうに言った。

「おい、どうしたんだよ高橋?」

雪は唇を震わせ、掠れた声で絞り出した。

「私のせいなの…彰が消えたの…私が弱いから…」

駿がベッドの端に腰を下ろし、静かに語りかけた。

「雪ちゃん、俺たちもこの前、裏の世界で戦ってきた。陽介も、俺も、怖い目に遭って、心が折れそうになった。でも、仲間がいたから立ち上がれた。それは、雪ちゃんも同じだろ?」

陽介がニヤリと笑い、雪の頭を軽く叩く。

「ったく、いつもいい子ちゃん演じてるからって、全部背負い込む必要ねぇよ。俺たちに頼れよ」

雪の目から新たな涙がこぼれ、頬を伝う。だが、その涙と共に、口元に小さな笑みが浮かんだ。

「…ありがとう、駿君…御剣…私、頑張るよ…」

母親がドアの隙間からそっと見守り、安心したように微笑む。二人は雪の手を握り、力強く頷き合った。

「よし、じゃあ神社行こう。雪ちゃん、彰を助けに」

駿が立ち上がり、手を突き出す。

雪は涙を拭い、震える手で駿の拳に自分の拳を合わせた。

「うん…行こう」

水鏡神社の裏の社は、雪に埋もれ、凍てつく風が吹き荒れていた。鏡の表面は水面のように揺らぎ、触れると冷たい感触が指先に絡みつく。

駿、陽介、雪は互いに視線を交わし、鏡に手を触れた。

視界がねじれ、裏の世界へと引きずり込まれる。そこは雪に覆われた荒廃した世界だった。

空は鉛のように重く、遠くにそびえる巨大な狐の像はモザイクに覆われた顔で不気味に睨みつける。

凍てついた地面は足を踏み入れるたびに軋み、空気は肺を凍らせるように重い。

陽介がレンチを握り、声を低くした。

「…ここ、ヤバすぎる…息が苦しいぜ」

突然、雪が膝をつき、頭を抱えて叫んだ。

「やめて…! やめて…!」

黒い霧が雪の周囲を包み、霧から雪そっくりの姿が現れる。髪の毛、瞳の輝き、微笑みの曲線まで、まるで鏡に映った雪そのもの。だが、その声は鋭く、毒を孕んでいた。

「キャハハハハ!!遅いよ、ホンモノさん。あんたのせいで彰が消えたんだから」

雪が震えながら見上げる。

「…あなた…誰…?」

影が口の端を吊り上げ、嘲笑う。

「誰? 誰って、あんた自身よ。私は」

「もう一人の私…?」

陽介はハッとし雪に言った。

「雪!そいつの声に惑わさるな!そいつはお前の──」

陽介が影の事を説明しようとすると影は蔑んだ目で陽介を見て言った。

「部外者は黙ってな!!」

雪の影はそういうと陽介目掛けて鞭を振り下ろした。

「っぶね!」

陽介は間一髪回避に成功したが影は雪の顔を見てニヤリと笑い言った。

「いつも彰と比べられて、いい子ちゃん演じて、内心じゃムカついてたよね? 『彰みたいになれ』って言われるたびに、腹が立ってねぇ…」

雪が目を逸らし、唇を噛む。

「そんな…そんなこと…」

影は更に付け加える様に言った。

「でも…そんな彰が時々私を羨ましそうに見てくる…それが堪んなくてねぇ…優越感感じてた…あの羨ましそうな顔…ほんと最高だったわよねぇ!!」

雪は震えながら言った。

「違う…こんなの…私じゃない…私、そんな風に思ってなんかない…」

影が一歩近づき、声を荒げながら雪の顔を覗き込んだ。

「嘘つくじゃないよ! あんた、みんなに愛されてるフリして、内心じゃ『なんで私ばっかり我慢しなきゃいけないの?』って思ってたよね? 彰が私の闇を見た時、内心ホッとしたんだ。『やっとバレた』って!」

雪が震える声で反論する。

「違う…! 私は…彰を助けたい…!」

影が雪を突き飛ばし哄笑する。

「助けたい? ふざけんな! あんた、彰が消えてくれて楽になったって思っただろ! 『もう比べられなくていい』って!」

雪が耳を塞ぎ頭を振る。「そんな…そんなの…違う!!」

影がさらに迫る。「ほら、認めなよ! 私はあんたなのよ?だからあんたの心、全部見えてんのよ!本当のあんたなんかいないのよ!!」

影が手を振ると、雪の周囲に幻影が現れる。幼少期の雪、クラスメイトに嘲られる雪、彰と比べられる雪…それぞれが雪を指差し、冷たく罵る。

「なんで彰みたいに強くないの?」「雪なんて必要ない!」「彰がいれば十分!」

雪が頭を抱え、叫んだ。

「やめて…! 見ないで……見ないで!!」

雪は涙を零しながら、影の方を見て言った。

「あなたなんか…!あなたなんか!!」

陽介がハッとし彼女の言葉を止めるために叫ぶ。

「言っちゃダメだ! 雪!!」

だが、雪の声は止まらない。

「あなたなんか…私じゃない!」

影が哄笑し、身体が歪み始める。

「フフ…ッハハハ…!!そうよ…私はもうあんたなんかじゃない!」

雪の姿だった影が一瞬で変貌。狐のような耳と尾が生え、顔はモザイクで覆われた異形の怪物に変わる。

鋭い牙が覗き、赤い瞳が燃えるように輝く。爪が空気を切り裂き、凍った地面を抉る。影が咆哮し、殺意を剥き出しにした。

「どう?ホンモノさん…これがあんた…あんたの本当の姿なのよ!!」

駿がハイペリオンを召喚し、雪の前に立ちはだかる。

「雪ちゃん、離れてろ!」

陽介もクレイオスを呼び出し、雪を庇うように構える。

「雪に指一本触れさせねぇ!」

影が嘲るように鼻で笑う。

「はぁ? 何よあんたら、そこのホンモノさんを庇いたてする気?」

影が歪んだ笑みを浮かべ、雪に視線を移す。

「良かったねぇ、ホンモノさん。あんたの演技は無駄じゃなかったみたいよ。『いい子ちゃん』の演技、仲間にはバッチリ通用してるじゃない!」

雪は何も言わず俯く。

その姿を見てついに叫んだ。

「黙れ! 雪ちゃんはそんなんじゃない!」

陽介が唸る。

「てめぇ、雪をバカにするな!」

影が不気味に笑い、両手を広げた。

「さぁ、踊ろうましょうか!」

影の周囲に青い蝶が無数に現れる。蝶は妖しく輝き、まるで無害な生き物のように舞い上がる。

俺は対抗しようとハイペリオンを召喚しようとするが召喚出来ない。

「なんだ…? 力が…うまく出ない…!」

陽介もクレイオスの召喚を試みるが出現しない

「くそっ…なんでだ!アルターが使えねぇ!」

戸惑っている二人に青い蝶が一斉に迫る。蝶が二人の周りに近づいた瞬間、閃光が爆ぜると連続する爆発が戦場を揺らす。

衝撃波が二人を吹き飛ばし、凍った地面が砕け、雪が舞い上がる。

俺は地面叩きつけられ、左腕に深い裂傷が走る。血が雪に滴り、赤い染みが広がる。

陽介は地面を滑り、右肩に赤い染みが広がる。

「クソっ…! 爆発するのかよ…!」

歯を食いしばり、左腕を押さえる。血が指の間から溢れ、凍てつく空気に触れて白い霧となる。

陽介が肩を押さえ、顔を歪める。

「くそっ…肩が…動かねぇ…!」

さらに、影が笑いながら言う。

「ふふっ、あんたらの弱点も何もかもお見通しなのよ!」

雪が負傷した二人を見て悲痛に叫ぶ。

「そんな…! やめて…!」

雪の脳裏に、過去の記憶が鮮明に蘇る。裏の世界で彰と二人、影に追い詰められたあの瞬間。彰が血を流しながら叫んだ。

「雪、逃げて! 僕の事はいい、逃げろ!」

恐怖に駆られた雪は、彰を置いて逃げてしまった。あの時の彰の血に染まった姿が、雪の心に焼き付いている。

雪が涙をこぼし、呟く。

「彰…ごめん…私が逃げたから…あなたを置いて…!私…怖くなって…!」

雪は自分の弱さに対して深く後悔した。自分に力さえあれば…仲間を助ける力さえと…彼女は力を望んだ。

すると突然、雪の頭に鋭い痛みが走る。脳を貫くような激痛に、彼女は膝をつき、両手で頭を押さえた。

「うっ…! 何…これ…!」

雪の頭に、柔らかくも力強い声が響く。

「怖がらないで、汝の恐怖も、嫉妬も、優越感も…全てが力になる」

雪が頭を押さえながら問う。

「あなたは誰…?」

声の主が答える。

「わたくしは汝が友と使っている力と同じ存在…汝が力を欲すると言うならわたくしが力添えさせていただきます」

雪が歯を食いしばり、呟く。

「私…仲間を守りたい…彰を…助けたい…!」

声の主は答えた。

「さすれば話は早いです…わたくしの力…汝に与えましょう」

声が力強く続ける。

「さぁ…呼びなさい…汝の『アルター』を!」

頭痛が頂点に達し、雪は叫んだ。

「来て! モシュネ!!」

白い光が雪を包み、モシュネが現れる。長いドレスをまとった女性の姿で、裾はドーム状の空間を形成。

雪はその内部に立ち、モシュネの視界を通じて戦場を見渡す。モシュネの目は穏やかだが、鋭い知性と冷徹な戦略性を湛えていた。

「これが…私の…」

雪は自身の能力に驚きながらも自分の能力の事が瞬時に頭の中に入ってきた。

「うん…分かる…いくよ、二人とも!!」

雪はアルターの能力を使い、俺と陽介に自身の知覚、知覚を共有した。

雪の能力で影の動き、攻撃パターン、弱点が二人の頭に流れ込む。

「二人とも、私の見ているものが見える?」

「あぁ…見える」

「良く見えてるぜ!!」

「それじゃ、二人とも私の指示通りに動いて。いくよ!」

影の右足がわずかに遅れ、爪の振り上げに隙がある。

雪の感覚を共有した事で二人のアルターの力が復活し、ハイペリオンの炎が青い蝶を焼き払う。クレイオスの風の刃が蝶を次々と撃ち落とす。

だが、影はさらに蝶を召喚し、爆発の嵐を巻き起こす。戦場は炎と風、爆発音で揺れ、凍った地面がひび割れる。

雪がドーム内で叫ぶ。「駿君は左から攻撃! 陽介は影を引きつけて!」

陽介がレンチをクナイに変化させて、影に投げ、足を止める。

影が陽介を仕留めようと暴れるが、その隙に俺のハイペリオンが炎を叩き込む。

炎が影の肩を焼き、焦げる匂いが戦場に広がる。

陽介のクレイオスの暴風が影を突き刺し、雷光が影の胸を貫く。

影が咆哮し、顔がひび割れる。

「やるじゃない…でも、あんたは後ろでコソコソして弱いままじゃない!」

雪がドーム内で声を張り上げる。

「確かに私はまだ弱いのかもしれない…でも、それだけじゃない! 私は仲間を守りたい!みんなを支えるそれが私の強さなの!」

影が最後の力を振り絞り、青い蝶を全方位に放つ。蝶は爆発の嵐となり、モシュネのドームを切り裂く。

駿が叫ぶ。

「雪ちゃん! 持ちこたえて!」

陽介が嵐を巻き起こし、影の注意を引きつける。

「お前の相手は俺だ!」

影が陽介に飛びかかり、爪がクレイオスを掠める。

俺のハイペリオンが炎の渦を放ち、影を包むが、影は青い蝶を盾に炎を防ぐ。

戦場は熱と風、爆発の残響で揺れ、雪と血が混じる。

雪がドーム内で深呼吸し、祈った。

「私、信じるよ。みんなを…自分を…」

影の全身を縛り、動きを完全に封じる。駿と陽介が同時に叫ぶ。

「今だ!」

ハイペリオンの炎とクレイオスの風が影の胸を直撃。

影が断末魔の叫びを上げ、形が崩れ落ちる。

影が崩れ落ち、黒い霧が漂う中、雪の目の前に再び影が現れる。今度はモザイクの怪物ではなく、雪そっくりの姿に戻っていた。

だが、その目はどこか悲しげで、静かに雪を見つめる。

雪は俯き、震える声で呟いた。

「辛かったよね…あなたも…」

影が微かに微笑み、初めて柔らかな声で答える。

「…うん。辛かった。あんたに否定されるたびに、消えそうだった…」

雪は涙をこぼしながら続ける。

「あなたも私なのに…私に否定されて…でも、あなたは私…私もあなた…これは私自身の本当の気持ち…」

雪が一歩踏み出し、影をそっと抱き締める。

「もう、彰みたいにならなくてもいい…だって…私は高橋 雪って一人の人間なのもの…」

影が雪の背中に手を回し、囁く。

「…やっと、わかってくれた…私、あんたの一部でよかった…」

影の身体が光に包まれ、満足したように微笑む。

影は雪の腕の中で黒い霧となり、静かに消えた。雪はふらつき、膝をつく。駿が慌てて駆け寄り、雪を支える。

「雪ちゃん! 大丈夫か!?」

陽介が肩を押さえ、苦笑する。

「ったく、このまま連戦はキツいな…少し休んでいくか?」

雪は涙を拭き、弱々しく微笑んだ。

「うん…少しだけ…休みたい…」

雪はモシュネのドーム内で座り込み、荒い息を整えた。戦場の熱と血の匂い、爆発の残響がまだ鼻と耳に絡みつく。

俺と陽介は近くの雪の塊に腰を下ろし、互いに肩を叩き合う。だが、二人の傷は深刻だった。

俺の左腕は青い蝶の爆発で深く裂け、血が止まらず雪に赤い染みを広げていた。

白い雪が血で染まり、凍てつく空気に触れて傷口が白く凍りつく。

陽介の右肩は傷から血が噴き出し痛みに顔が歪む。

雪が二人の傷に気づき、慌てて立ち上がる。

「駿君! 陽介! こんな傷…!」

俺は左腕を押さえ、苦笑する。

「へへ…大したことないよ。ハイペリオンが守ってくれたからな」

陽介が肩を動かそうとして顔を歪め、歯を食いしばる。

「くそっ…肩が…クソ痛ぇ…でも、雪ちゃんが無事ならいいぜ」

雪の目から涙がこぼれ、声を震わせる。

「私のせいで…こんな目に…! 待ってて、すぐに手当する!」

雪はリュックから応急処置キットを取り出し、震える手でガーゼと消毒液を準備する。

まず駿の左腕に近づき、傷口を消毒する。

「痛いよね…ごめんね、駿君…」

俺は彼女を安心させる為に笑って首を振る。

「平気だよ、雪ちゃん。それより、陽介の方を見てやってくれ」

雪はガーゼを傷口に当て、丁寧に包帯を巻く。血がガーゼに染みるが、止血が少しずつ進む。

次に陽介の肩へ。雪は消毒液を傷にかけ、陽介が「うっ…!」と呻くのを聞きながら、涙をこぼす。

「陽介…ごめんね…私がもっと強ければ…」

陽介がニヤリと笑う。

「バーカ、俺がカッコつけたかっただけだ。気にすんな。」

雪はガーゼを厚く当て、包帯で肩を固定する。だが、傷は深く、応急処置だけでは限界があった。

雪がモシュネに囁く。

「モシュネ…お願い、二人を助けて…」

雪ちゃんが祈ると柔らかな光を放つ。

淡い緑の光が溢れ、俺と陽介の傷を包み込む。

俺の左腕の裂傷がゆっくりと閉じ、血が止まり、皮膚が再生していく。

陽介の肩の深い傷も、光に包まれて肉が修復され、骨の痛みが和らぐ。光は温かく、凍てつく戦場の冷気を一瞬で溶かすようだった。

その奇跡のような現象に目を丸くする。

「すげぇ…傷が…治ってる…!」

陽介が肩を軽く動かし、驚く。

「マジかよ…すげぇな!」

雪が涙を拭き、微笑む。

「よかった…これで、みんなで彰を助けに行ける…」

ふと安心した瞬間、雪の瞳に一瞬の曇りがよぎる。彼女は遠くを見つめ、ぽつりと呟いた。

「確か…もう一人…いた…」

駿と陽介が顔を見合わせる。陽介が眉を上げ、聞き返した。

「それって…彰の影なんじゃねぇのか?」

雪は拳を握りしめ、静かに頷く。

「…かもしれない。彰の心の闇…私と同じように、影が…」

俺は拳を握り直し、力強く言った。

「それじゃあ、俺たちが支えてやらないといけないな。彰の影がどんなにヤバくても、俺たちが雪ちゃんを支えたみたいに、彰も絶対支えてやらないと」

陽介がニヤリと笑い、頷く。

「おうよ。雪ちゃんの影をぶっ倒した俺たちだ。彰の影くらい、楽勝だろ!」

雪が二人の言葉に涙を浮かべながら、力強く頷いた。

「うん…ありがとう、私たちなら…彰も、彰の影も、絶対に救える!」

風が雪を巻き上げ、三人の拳が固く結ばれる。裏の世界の雪は降り続き、彰の救出と新たな影の気配を予感させながら、物語は次の戦いへと続く。