RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
Unrest
午後三時四十七分。
駅前の広場で待ち合わせた駿君は、いつもの白いシャツに薄手のジャケット。
少しだけ髪を整えてきたみたいで、前髪がいつもより大人っぽく見える。
「……お待たせ」
「ううん、今来たところ」
自然に手が繋がって、指と指が絡まる。
今日は平日だから、街は空いていて、歩道を二人で並んで歩くだけでなんだか特別な気分だった。
「映画、何にする?」
「雪ちゃんが決めていいよ。俺、なんでも見るから」
「えー、それ困るよ~」
笑いながら、映画館に向かう道すがら、駿君が急に立ち止まって、ソフトクリームの屋台を指差した。
「食べる?」
「食べる!」
バニラとチョコのミックスを一つ買って、二人で交互に舐めながら歩く。
駿君が私の口元についてしまったクリームを親指で拭ってくれて、その指先が少し震えてることに気づいたけど、きっと照れてるだけだと思った。
映画館の暗闇の中では、肩がぴったりくっついてた。
怖いシーンで私がびくっとすると、駿君がそっと手を握り直してくれる。
出てきたときには、もう夕方近くで、空がオレンジに染まっていた。
「楽しかったね」
「うん、また来よう」
川沿いの遊歩道を、ゆっくり歩く。
風が少し冷たくなってきたから、駿君が私の手を自分のジャケットのポケットに入れてくれた。
指先がすごく温かくて、幸せすぎて笑いが止まらなかった。
「……雪ちゃん」
「ん?」
「今日、本当に楽しかった。ありがとう」
「なに急に。こっちこそ」
駿君がふっと笑ったその瞬間。
「……っ」
突然、駿君の歩みが止まった。
顔から血の気が引いていくのが分かった。
「駿君?」
「……ちょっと、待って」
こめかみを強く押さえて、膝を折りかける。
私は慌てて支えた。
「ねえ、大丈夫?顔色悪いよ……!」
「平気……ちょっと、頭が……」
声が掠れてる。
いつもと全然違う、苦しそうな声。
「病院行く?すぐタクシー呼ぶから」
「いや……大丈夫だから……」
駿君が私の腕を掴んだ指に、ぎゅっと力が入る。
「雪ちゃん……ごめん、今日は……もう帰るよ…」
「え?」
「一人で帰れるから……本当に、大丈夫だから」
嘘だ。
目が完全に焦点を失ってる。
唇が真っ青だ。
「送るよ!絶対送るから!」
「だめ……っ」
駿君は私の手を振り払うようにして、よろめきながら歩き出した。
「駿君!待って!」
追いかけようとした瞬間、
駿君が振り返った。
その目は、
まるで私を拒絶するように、暗くて、冷たくて、
どこか怯えているような目だった。
「……来ないで」
初めて聞く、震える声。
「今は……近づかないで」
そして、駿君は走り出した。
夕暮れの中、背中がどんどん小さくなって、
私は、ただ立ち尽くすしかなかった。
走り去った際に彼のバッグに着いていた。あの時に買ったお揃いのカモノハシのキーホルダーが落ちた。
あのときの駿君の目が、頭から離れない。
まるで、
私を見ているのではなく、
私を通して、何か別のものを、
恐ろしいものを見ていたような、
そんな目だった。
私はただそんな目を脅えながら彼の後ろ姿を見る事しか出来なかった
駅前の広場で待ち合わせた駿君は、いつもの白いシャツに薄手のジャケット。
少しだけ髪を整えてきたみたいで、前髪がいつもより大人っぽく見える。
「……お待たせ」
「ううん、今来たところ」
自然に手が繋がって、指と指が絡まる。
今日は平日だから、街は空いていて、歩道を二人で並んで歩くだけでなんだか特別な気分だった。
「映画、何にする?」
「雪ちゃんが決めていいよ。俺、なんでも見るから」
「えー、それ困るよ~」
笑いながら、映画館に向かう道すがら、駿君が急に立ち止まって、ソフトクリームの屋台を指差した。
「食べる?」
「食べる!」
バニラとチョコのミックスを一つ買って、二人で交互に舐めながら歩く。
駿君が私の口元についてしまったクリームを親指で拭ってくれて、その指先が少し震えてることに気づいたけど、きっと照れてるだけだと思った。
映画館の暗闇の中では、肩がぴったりくっついてた。
怖いシーンで私がびくっとすると、駿君がそっと手を握り直してくれる。
出てきたときには、もう夕方近くで、空がオレンジに染まっていた。
「楽しかったね」
「うん、また来よう」
川沿いの遊歩道を、ゆっくり歩く。
風が少し冷たくなってきたから、駿君が私の手を自分のジャケットのポケットに入れてくれた。
指先がすごく温かくて、幸せすぎて笑いが止まらなかった。
「……雪ちゃん」
「ん?」
「今日、本当に楽しかった。ありがとう」
「なに急に。こっちこそ」
駿君がふっと笑ったその瞬間。
「……っ」
突然、駿君の歩みが止まった。
顔から血の気が引いていくのが分かった。
「駿君?」
「……ちょっと、待って」
こめかみを強く押さえて、膝を折りかける。
私は慌てて支えた。
「ねえ、大丈夫?顔色悪いよ……!」
「平気……ちょっと、頭が……」
声が掠れてる。
いつもと全然違う、苦しそうな声。
「病院行く?すぐタクシー呼ぶから」
「いや……大丈夫だから……」
駿君が私の腕を掴んだ指に、ぎゅっと力が入る。
「雪ちゃん……ごめん、今日は……もう帰るよ…」
「え?」
「一人で帰れるから……本当に、大丈夫だから」
嘘だ。
目が完全に焦点を失ってる。
唇が真っ青だ。
「送るよ!絶対送るから!」
「だめ……っ」
駿君は私の手を振り払うようにして、よろめきながら歩き出した。
「駿君!待って!」
追いかけようとした瞬間、
駿君が振り返った。
その目は、
まるで私を拒絶するように、暗くて、冷たくて、
どこか怯えているような目だった。
「……来ないで」
初めて聞く、震える声。
「今は……近づかないで」
そして、駿君は走り出した。
夕暮れの中、背中がどんどん小さくなって、
私は、ただ立ち尽くすしかなかった。
走り去った際に彼のバッグに着いていた。あの時に買ったお揃いのカモノハシのキーホルダーが落ちた。
あのときの駿君の目が、頭から離れない。
まるで、
私を見ているのではなく、
私を通して、何か別のものを、
恐ろしいものを見ていたような、
そんな目だった。
私はただそんな目を脅えながら彼の後ろ姿を見る事しか出来なかった