RECORD
蝕む毒の行方 - 下弦 -

「お前のこと、“この世で最も憎い神”だと思っていましたが、
どうしてだかわからなくなったであります!」

「はァ!?」

「このインチキカラクリ野郎!」
「なぁにが倒壊知らずだ!
こいつを置いとけば家が倒れずに済むなんざ大嘘じゃねえか!」

「いえ、そんな……」
「あたしの家もだよ!
台所が潰れたせいでメシが炊けないじゃないか!
どうしてくれるのさ!」

「う……
うううう、すみません」

「はしらぎさまが、守ってくれない?」

「……もう寝ましょう。
…………おやすみなさい」
「人形」
「人形や」


「あの森にて、拙者は御主を拾いましたね。
拙者がどうしてあの森にいたのか……」


「…………?」

「あの人間たちを見ていたからです。
御主の大切な、主と奥方を殺めるところを見ていたからです」

「あの夫婦を殺めろと
焚き付けたのは荒ぶる神。拙者……」


「え、ァ……なんで……?」
そうだっけ?
ずっと、騙してた?

そうか。
恨めしい神は
恨めしい神とは──

「はしらぎさまの物語には、3つの柱がそびえている。
破壊を尽くす神
神に焚き付けられた人
そして、守り神と呼ばれしもの
いずれが欠けても、天秤は傾きまする」

「御主は幽鬼。『守る』権能の正体は『怨嗟』。
破壊を尽くす神を憎むことで『破壊を壊す』力を生じるのです。
その心を失えば自ずと、
守り神としての核も薄れゆく」

「他を傷つけず、自責に留まろうとする姿勢は良う御座りまするが
その実、閉じこもることしかできますまい。
家内を守るために見張るべきは内ではなく、外」

「人形や。
神を恨みなされ。神を憎みなされ。
さすればこそ、
『あの神のようにはならない』と、
『己こそは人を救うものになるのだ』と、
傲慢な欲を抱き得るのですから!」

「……さて、もう『お月さま』とは
呼んでくださらぬことでしょう。
さようなら、我が唯一の眷属」

「ようやく御主を、
『“この世で最も憎い神”のおらぬ世界』へ
旅立たせてやれたこと」

「良う御座りましたね」


「……………………」