RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
Sun shining on the shadows
世界は今日も、どこかで誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが息をひそめて生きている。
街の喧騒も、ざわめきも、すべてが遠い。
俺の心だけが、少しずつ欠けていった。
まるで古びた写真の端が剥がれていくように、静かに、確実に。
最初は小さな違和感だった。
鏡を見るたび、自分の笑顔が「作っている」ように見えた。
口角は上がっているのに、目が笑っていない。
仲間と笑い合っていても、心のどこかで冷たい声が問いかける。
──俺はここにいていいのか?
誰からも望まれなかった。
生まれてこなければよかった。
夜が深まるたび、その声は大きくなった。
布団の中で膝を抱え、震えながら耳を塞いでも、頭の中で響き続ける。
お前の居場所なんて、どこにもない。
そして、ある日──
裏の世界が、俺を呼んだ。
雪の降らない、灰色の空。
風は冷たく、崩れた赤い鳥居が傾き、錆びた鎖がカラン、と寂しく鳴る。
その向こうに、それは立っていた。
俺の影。
陽介の影の腕は、雷を孕んだ黒い筋肉が蠢き、
雪の影のような羽は、凍てついた硝子の欠片を散らしながら震え、
彰の影の頭部は、天秤の角を歪にねじ曲げて、嘲るように揺れる。
キメラのような、醜く美しい怪物。
三人の影の要素を貪り食い、歪に融合させた、俺自身が吐き出した悪意の結晶。
「よく来たな……」
影は俺の声で、俺の顔で、ゆっくりと唇を歪めた。
その笑みは、俺が鏡の前で何度も練習した、完璧な「偽りの笑顔」だった。
「ようやく、この時が来た」
俺は反射的にハイペリオンを呼び出そうとした。
だが、掌に灯る炎は、まるで水をかぶったように小さく、頼りなく揺れるだけだった。
熱も、力も、何も感じない。
「無駄だ」
影が一歩、踏み出すたび、地面の瓦礫がざわめいた。
「お前は所詮は何も持たない“虚無”自分自身の存在すら肯定できない」
影の腕が、陽介の風のように吹き荒れた。
轟音と共に、俺の体は吹き飛ばされ、冷たいコンクリートに叩きつけられる。
息が詰まり、視界が歪む。
影は彰の天秤を模した角を鳴らし、冷たく、どこか哀れむように笑った。
「我々は人間の悪意から生まれ落ちた。憎悪、嫌悪、傲慢……ありとあらゆる毒を頂戴して、ここまで育った」
這い上がろうと手を伸ばす。
だが、次の瞬間、影の足が俺の背中を踏みつけた。
骨が軋み、息が止まる。
「認めるがいい、お前は我々がいなければ何も出来ぬ、ただの抜け殻。所詮、お前には虚無しかない」
その言葉が、胸の奥に、氷の刃のように突き刺さった。
そうだ。
俺はいつも、必死だった。
置いてかれないように。
嫌われないように。
優しくして、笑顔を作って、必要とされるように。
でも、本当は──
本当は、みんなが俺のそばから離れていくのが、怖かった。
影が、耳元で囁く。
息が熱く、腐った蜜のような甘さで絡みつく。
「もうよかろう。この世界に生きていても、お前には幸せなことなど一つも起きない。我々と一つになれ。お前の友達と、永遠に一緒にいられる世界を、今ここで作ってやろう」
俺の指先が、震えた。
拒絶の言葉を探すが、喉が凍りついて声が出ない。
そのときだった。
「──駿!」
風を切る鋭い音。
灰色の空が、風の刃に裂かれた。
陽介が立っていた。
アルターのクレイオスを全身に纏い、瞳を血走らせ、怒りで肩を震わせている。
「てめぇ…駿に何してんだよ!」
続いて、傷ついたはずの皮膚が段々と消えていった。
雪がモシュネを呼び、祈るように両手を合わせ、涙を浮かべながら叫んだ。
「駿君……!良かった!無事でいてくれて…本当に……!」
彰が歩み寄り、テミスの天秤を背後に浮かべ、静かに俺を見下ろす。
そして、最後に、静かな足音。
イドロが深くお辞儀をした。
「申し訳ありません。遅れてしまいました」
「どうして…」
俺は掠れた声で呟いた。
彰は小さく、でも確かに笑った。
その笑顔に、初めて胸が熱くなった。
「当たり前じゃん、仲間でしょ?僕たち」
影が舌打ちする。
「来たな……邪魔共」
影の腕が雷を放つ。
凄まじい電流が走るが、陽介のクレイオスが真正面からそれを掴み取った。
火花が散り、地面が焦げる。
「ざっけんな!」
陽介が叫び、声が震えているのは怒りだけじゃない。
「駿は俺の親友だ!お前みたいな偽物に、絶対渡さねぇ!」
雪の光が三人に柔らかな光を注ぐ。
雪は涙を零しながら、でも力強く言った。
「駿君は、私たちの大事な人だから……!あなたなんかに、絶対に渡さない!」
彰が一歩前に出る。
静かな声なのに、なぜか世界が震えた。
「駿。お前、覚えてるか?僕が影に飲まれそうになったとき、お前が言ったこと」
少しだけ間を置いて、はっきりと告げる。
「『彰は誰より強くて、誰より優しい』って言ってくれた。だから今度は、僕たちが君を助ける番だ」
イドロはアルターを発動しながら指先の機関砲を構え、冷たく告げた。
「あなたが私たちに危害を加えるというのであれば、容赦はしません」
俺の胸が、熱くなった。
凍りついていた血が、再び流れ始める。
影が苛立って叫ぶ。
「黙れ!貴様は我々の──」
「違う」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
足が震える。
でも、もう逃げない。
「俺は…お前なんかじゃない」
影の目が、初めて揺れた。
ほんの一瞬、怯えが過ぎった。
「お前は、俺が目を背けてた“虚無”だ」
俺は自分の胸に手を当てた。心臓が、確かに鼓動している。
「俺は、誰からも望まれなかったかもしれない。生まれた意味なんて、なかったかもしれない。でも、それを決めるのは、俺だ」
小さな火が、灯った。
頼りなかった炎が、音を立てて膨れ上がり、轟々と燃え上がる。
「俺は…ここにいるんだ!!」
影が後退る。
「馬鹿な……! 所詮は虚無! 何も無いはずだ!!」
「違う」
俺は、はっきりと告げた。
「俺には仲間がいる。支え合って、傷つけ合って、それでも一緒に生きてきた仲間が!!」
その言葉に反応してハイペリオンを俺の目の前に現れる。
二年ぶりの自身の戦う為の力との再会だった。
「久しいな。我が半身よ」
ハイペリオンが俺を見て話す。そういえばこいつと話したのは初めて召喚した時以来か。
「汝が覚悟しかと見届けたぞ。今の汝ならば本来の我の力も使いこなせるはずだ」
ハイペリオンは俺に手を差し伸べ言った。
「今こそ、我が真名を言い。我の真なる姿でもう一度汝に力を貸そうぞ」
ハイペリオンがそう言うと彼の炎が、太陽のように輝いた。
紅だった炎が、金色へと変貌していく。
そして、俺はハイペリオンの真なる名を呼んだ。
「──来い、ヘリオス!!」
俺のアルターが、真の姿を現した。
ヘリオス──ハイペリオンの本当の姿であり、俺の一つの真実。
太陽そのもののような、眩い存在。
ヘリオスが手をかざすと、金色の大太刀、『天之太刀』が現れ、俺の手の中に収まる。
影が光に怯え、叫ぶ。
「馬鹿な! 貴様らはこんな理不尽な世界を守るというのか!? ゴミクズのような世界で、永劫の苦しみを味わえとでも言うのか!?」
陽介が笑った。
怒りと、どこか優しさを含めた笑顔。
「たしかにこの世界はクソくらえかもしれない。
生きててもいいことなんて、ほとんどねぇかもしれない。けど、それを決めるのは俺たちだ!」
雪が涙を拭い、微笑んだ。
「私も、ずっと絶望しかなかった。でも、みんなと会えて……こんなに素晴らしい世界があるって気づけた。だからこの先も、信じて歩き続けるの!!」
彰が静かに、でも力強く言った。
「みんな、この理不尽な世界を、瞬間瞬間、必死に生きている。それが人間だ」
イドロが最後に、冷たく、しかし確かに告げた。
「私たちは“希望”のために生きる。希望を諦めて絶望にしがみつく者を、私たちは絶対に許さない」
影が、最後に絶叫した。
「希望だと……!? そんなもの……要らない……!!」
「苦しみから目を背けて何が悪い!苦しみに満ちた今より、安息に満ちた明日が欲しいんだ!」
「何が希望だ!!希望なんてただ人を期待させるだけさせて何にもしないただの病原菌じゃないか!!」
影の指先が砂のように崩れ、姿が音を立てて崩れていく。
「なぜ分からない……!希望なんて、何の役にも立たないじゃないか!」
「違う」
俺は、太刀を掲げた。
「俺は希望を持てたから、みんなと出会えた。だから、この世界を守りたい」
「例え理不尽だらけでも、俺たちはその先の希望という名の光を信じる!!」
ヘリオスが技を発動する。
眩い光が世界を満たし、影を聖なる炎で包み込む。
影は、苦しげに、でもどこか救われたように崩れ落ちていき、本来の俺の影が膝をついている。
俺は、影の方へとゆっくりと歩み出した。
影が、最後に小さく震えた。
「……ほんとに……俺はこの世に居てもいいのか…?」
俺は立ち止まり、影の前に膝をついた。
「……怖かったんだろ?一人になるのが」
影の目から、黒い涙がこぼれた。
「俺は……ただ…この世界に居てもいいと思いたかった…存在してもいいって……」
俺はそっと、影を抱きしめた。
冷たくて、震えていた。
「もう、大丈夫だよ」
「俺も、お前も、この世界に生まれた、篠崎 駿って人間なんだ」
影が、俺の胸で泣いた。
子供のようにはらはらと涙を零す。
「ごめん……ごめん……俺、怖かったんだ…みんながいなくなっちゃうのが……」
俺は優しく背中を撫でた。
「もう、離さない」
「俺はもう、逃げない」
影が、光になった。
金色の粒子となって、俺の胸に吸い込まれていく。
「ありがとう……俺……もう、寂しくない……」
光が収まったとき、俺は立ち上がった。
もう一人の俺が過ごしてきた記憶が、優しく胸に流れ込む。
北摩での出会い、笑い、涙、全部。
ヘリオスが背後に控え、穏やかな光を放っている。
みんなが駆け寄ってきて、笑った。
陽介が頭をくしゃくしゃに撫で、雪が抱きついてきて、彰が静かに肩を叩き、イドロが飛び込みみんな下敷きになるとみんなで笑いあった。
俺は、みんなを見回した。
そして、初めて──
心の底から、自然に、笑った。
「……みんな、ありがとう…」
俺はもう空っぽなんかじゃない。
ただの、篠崎駿でいい。
それだけで、十分だった。
街の喧騒も、ざわめきも、すべてが遠い。
俺の心だけが、少しずつ欠けていった。
まるで古びた写真の端が剥がれていくように、静かに、確実に。
最初は小さな違和感だった。
鏡を見るたび、自分の笑顔が「作っている」ように見えた。
口角は上がっているのに、目が笑っていない。
仲間と笑い合っていても、心のどこかで冷たい声が問いかける。
──俺はここにいていいのか?
誰からも望まれなかった。
生まれてこなければよかった。
夜が深まるたび、その声は大きくなった。
布団の中で膝を抱え、震えながら耳を塞いでも、頭の中で響き続ける。
お前の居場所なんて、どこにもない。
そして、ある日──
裏の世界が、俺を呼んだ。
雪の降らない、灰色の空。
風は冷たく、崩れた赤い鳥居が傾き、錆びた鎖がカラン、と寂しく鳴る。
その向こうに、それは立っていた。
俺の影。
陽介の影の腕は、雷を孕んだ黒い筋肉が蠢き、
雪の影のような羽は、凍てついた硝子の欠片を散らしながら震え、
彰の影の頭部は、天秤の角を歪にねじ曲げて、嘲るように揺れる。
キメラのような、醜く美しい怪物。
三人の影の要素を貪り食い、歪に融合させた、俺自身が吐き出した悪意の結晶。
「よく来たな……」
影は俺の声で、俺の顔で、ゆっくりと唇を歪めた。
その笑みは、俺が鏡の前で何度も練習した、完璧な「偽りの笑顔」だった。
「ようやく、この時が来た」
俺は反射的にハイペリオンを呼び出そうとした。
だが、掌に灯る炎は、まるで水をかぶったように小さく、頼りなく揺れるだけだった。
熱も、力も、何も感じない。
「無駄だ」
影が一歩、踏み出すたび、地面の瓦礫がざわめいた。
「お前は所詮は何も持たない“虚無”自分自身の存在すら肯定できない」
影の腕が、陽介の風のように吹き荒れた。
轟音と共に、俺の体は吹き飛ばされ、冷たいコンクリートに叩きつけられる。
息が詰まり、視界が歪む。
影は彰の天秤を模した角を鳴らし、冷たく、どこか哀れむように笑った。
「我々は人間の悪意から生まれ落ちた。憎悪、嫌悪、傲慢……ありとあらゆる毒を頂戴して、ここまで育った」
這い上がろうと手を伸ばす。
だが、次の瞬間、影の足が俺の背中を踏みつけた。
骨が軋み、息が止まる。
「認めるがいい、お前は我々がいなければ何も出来ぬ、ただの抜け殻。所詮、お前には虚無しかない」
その言葉が、胸の奥に、氷の刃のように突き刺さった。
そうだ。
俺はいつも、必死だった。
置いてかれないように。
嫌われないように。
優しくして、笑顔を作って、必要とされるように。
でも、本当は──
本当は、みんなが俺のそばから離れていくのが、怖かった。
影が、耳元で囁く。
息が熱く、腐った蜜のような甘さで絡みつく。
「もうよかろう。この世界に生きていても、お前には幸せなことなど一つも起きない。我々と一つになれ。お前の友達と、永遠に一緒にいられる世界を、今ここで作ってやろう」
俺の指先が、震えた。
拒絶の言葉を探すが、喉が凍りついて声が出ない。
そのときだった。
「──駿!」
風を切る鋭い音。
灰色の空が、風の刃に裂かれた。
陽介が立っていた。
アルターのクレイオスを全身に纏い、瞳を血走らせ、怒りで肩を震わせている。
「てめぇ…駿に何してんだよ!」
続いて、傷ついたはずの皮膚が段々と消えていった。
雪がモシュネを呼び、祈るように両手を合わせ、涙を浮かべながら叫んだ。
「駿君……!良かった!無事でいてくれて…本当に……!」
彰が歩み寄り、テミスの天秤を背後に浮かべ、静かに俺を見下ろす。
そして、最後に、静かな足音。
イドロが深くお辞儀をした。
「申し訳ありません。遅れてしまいました」
「どうして…」
俺は掠れた声で呟いた。
彰は小さく、でも確かに笑った。
その笑顔に、初めて胸が熱くなった。
「当たり前じゃん、仲間でしょ?僕たち」
影が舌打ちする。
「来たな……邪魔共」
影の腕が雷を放つ。
凄まじい電流が走るが、陽介のクレイオスが真正面からそれを掴み取った。
火花が散り、地面が焦げる。
「ざっけんな!」
陽介が叫び、声が震えているのは怒りだけじゃない。
「駿は俺の親友だ!お前みたいな偽物に、絶対渡さねぇ!」
雪の光が三人に柔らかな光を注ぐ。
雪は涙を零しながら、でも力強く言った。
「駿君は、私たちの大事な人だから……!あなたなんかに、絶対に渡さない!」
彰が一歩前に出る。
静かな声なのに、なぜか世界が震えた。
「駿。お前、覚えてるか?僕が影に飲まれそうになったとき、お前が言ったこと」
少しだけ間を置いて、はっきりと告げる。
「『彰は誰より強くて、誰より優しい』って言ってくれた。だから今度は、僕たちが君を助ける番だ」
イドロはアルターを発動しながら指先の機関砲を構え、冷たく告げた。
「あなたが私たちに危害を加えるというのであれば、容赦はしません」
俺の胸が、熱くなった。
凍りついていた血が、再び流れ始める。
影が苛立って叫ぶ。
「黙れ!貴様は我々の──」
「違う」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
足が震える。
でも、もう逃げない。
「俺は…お前なんかじゃない」
影の目が、初めて揺れた。
ほんの一瞬、怯えが過ぎった。
「お前は、俺が目を背けてた“虚無”だ」
俺は自分の胸に手を当てた。心臓が、確かに鼓動している。
「俺は、誰からも望まれなかったかもしれない。生まれた意味なんて、なかったかもしれない。でも、それを決めるのは、俺だ」
小さな火が、灯った。
頼りなかった炎が、音を立てて膨れ上がり、轟々と燃え上がる。
「俺は…ここにいるんだ!!」
影が後退る。
「馬鹿な……! 所詮は虚無! 何も無いはずだ!!」
「違う」
俺は、はっきりと告げた。
「俺には仲間がいる。支え合って、傷つけ合って、それでも一緒に生きてきた仲間が!!」
その言葉に反応してハイペリオンを俺の目の前に現れる。
二年ぶりの自身の戦う為の力との再会だった。
「久しいな。我が半身よ」
ハイペリオンが俺を見て話す。そういえばこいつと話したのは初めて召喚した時以来か。
「汝が覚悟しかと見届けたぞ。今の汝ならば本来の我の力も使いこなせるはずだ」
ハイペリオンは俺に手を差し伸べ言った。
「今こそ、我が真名を言い。我の真なる姿でもう一度汝に力を貸そうぞ」
ハイペリオンがそう言うと彼の炎が、太陽のように輝いた。
紅だった炎が、金色へと変貌していく。
そして、俺はハイペリオンの真なる名を呼んだ。
「──来い、ヘリオス!!」
俺のアルターが、真の姿を現した。
ヘリオス──ハイペリオンの本当の姿であり、俺の一つの真実。
太陽そのもののような、眩い存在。
ヘリオスが手をかざすと、金色の大太刀、『天之太刀』が現れ、俺の手の中に収まる。
影が光に怯え、叫ぶ。
「馬鹿な! 貴様らはこんな理不尽な世界を守るというのか!? ゴミクズのような世界で、永劫の苦しみを味わえとでも言うのか!?」
陽介が笑った。
怒りと、どこか優しさを含めた笑顔。
「たしかにこの世界はクソくらえかもしれない。
生きててもいいことなんて、ほとんどねぇかもしれない。けど、それを決めるのは俺たちだ!」
雪が涙を拭い、微笑んだ。
「私も、ずっと絶望しかなかった。でも、みんなと会えて……こんなに素晴らしい世界があるって気づけた。だからこの先も、信じて歩き続けるの!!」
彰が静かに、でも力強く言った。
「みんな、この理不尽な世界を、瞬間瞬間、必死に生きている。それが人間だ」
イドロが最後に、冷たく、しかし確かに告げた。
「私たちは“希望”のために生きる。希望を諦めて絶望にしがみつく者を、私たちは絶対に許さない」
影が、最後に絶叫した。
「希望だと……!? そんなもの……要らない……!!」
「苦しみから目を背けて何が悪い!苦しみに満ちた今より、安息に満ちた明日が欲しいんだ!」
「何が希望だ!!希望なんてただ人を期待させるだけさせて何にもしないただの病原菌じゃないか!!」
影の指先が砂のように崩れ、姿が音を立てて崩れていく。
「なぜ分からない……!希望なんて、何の役にも立たないじゃないか!」
「違う」
俺は、太刀を掲げた。
「俺は希望を持てたから、みんなと出会えた。だから、この世界を守りたい」
「例え理不尽だらけでも、俺たちはその先の希望という名の光を信じる!!」
ヘリオスが技を発動する。
眩い光が世界を満たし、影を聖なる炎で包み込む。
影は、苦しげに、でもどこか救われたように崩れ落ちていき、本来の俺の影が膝をついている。
俺は、影の方へとゆっくりと歩み出した。
影が、最後に小さく震えた。
「……ほんとに……俺はこの世に居てもいいのか…?」
俺は立ち止まり、影の前に膝をついた。
「……怖かったんだろ?一人になるのが」
影の目から、黒い涙がこぼれた。
「俺は……ただ…この世界に居てもいいと思いたかった…存在してもいいって……」
俺はそっと、影を抱きしめた。
冷たくて、震えていた。
「もう、大丈夫だよ」
「俺も、お前も、この世界に生まれた、篠崎 駿って人間なんだ」
影が、俺の胸で泣いた。
子供のようにはらはらと涙を零す。
「ごめん……ごめん……俺、怖かったんだ…みんながいなくなっちゃうのが……」
俺は優しく背中を撫でた。
「もう、離さない」
「俺はもう、逃げない」
影が、光になった。
金色の粒子となって、俺の胸に吸い込まれていく。
「ありがとう……俺……もう、寂しくない……」
光が収まったとき、俺は立ち上がった。
もう一人の俺が過ごしてきた記憶が、優しく胸に流れ込む。
北摩での出会い、笑い、涙、全部。
ヘリオスが背後に控え、穏やかな光を放っている。
みんなが駆け寄ってきて、笑った。
陽介が頭をくしゃくしゃに撫で、雪が抱きついてきて、彰が静かに肩を叩き、イドロが飛び込みみんな下敷きになるとみんなで笑いあった。
俺は、みんなを見回した。
そして、初めて──
心の底から、自然に、笑った。
「……みんな、ありがとう…」
俺はもう空っぽなんかじゃない。
ただの、篠崎駿でいい。
それだけで、十分だった。