RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

二泊三日の旅〈二日目の夜〉『someone you can rely on』

──どれくらい経っただろう。

ふと目が覚めた。

時計は午前2時半を指している。

部屋は暗く、みんなの穏やかな寝息だけが聞こえる。

そっと布団を抜け出して見回すと、窓際の小さなテーブルに、ノートパソコンの淡い光が灯っていた。

そこに雪ちゃんがいた。

白いパジャマに宿の作務衣を羽織り、髪を無造作に後ろに流して、画面をじっと見つめている。

青白い光が、雪ちゃんの横顔を優しく照らしていた。

眠そうな目なのに、指だけはキーボードを軽やかに踊らせている。

きっと、今日の写真を整理したり、ブログを書いたりしてるんだろう。

みんなが寝静まった後に、こっそり自分の世界に浸る時間。

……可愛いな、と思うと同時に、ちょっと寂しくなった。

俺はそっと近づいて、後ろから雪ちゃんの肩に顎を乗せた。

「……ん?」

雪ちゃんが小さく身じろぎするけど、目は画面から離れない。

「駿君?どうしたの、起きてた?」

「いや、雪ちゃんがいなくて寂しくてさ」

小声で囁くと、雪ちゃんはくすっと笑った。

「ごめんね、もうちょっとで終わるから……今日の写真、ほんとに綺麗に撮れてて、みんなの笑顔が宝物みたいで……」

画面には、公園で撮った雪だるまの写真や、カラオケで歌うみんなの姿が映っている。

雪ちゃんの指が止まらず、キャプションを打ち込んでいる。

『今日も、みんなと一緒にいられて幸せでした』

……そんな一文を見て、胸がきゅっと熱くなった。

でも、俺はもっと雪ちゃんを感じたくて、意地悪く両腕で後ろから抱きしめた。

「もういいじゃん。寝ようよ」

「えー、もうちょっとだけ……」

雪ちゃんが少し身をよじるけど、抵抗は弱い。

俺はさらに甘えて、首筋に顔を埋めた。

雪ちゃんの髪から、ほのかにシャンプーと今日の雪の匂いがする。

「……駿君、くすぐったいよ」

「かまってほしい」

素直に言ったら、雪ちゃんの指がぴたりと止まった。

画面の光に照らされた横顔が、ゆっくりと振り向く。

「……もう、しょうがないなあ」

雪ちゃんはため息まじりに笑って、ノートパソコンを閉じた。

そして、俺の腕の中で体を反転させて、正面からぎゅっと抱きついてきた。

「駿君がそんな可愛いこと言うから、集中できないじゃない」

「……俺が可愛い?」

「うん、一番」

雪ちゃんはそう言って、俺の頬にちゅっと軽くキスをした。

暗い部屋の中、窓から差し込む雪の反射光だけが、二人の輪郭をぼんやり浮かび上がらせる。

俺は雪ちゃんを引き寄せて、額をくっつけた。

「今日、ほんとに楽しかったね」

「……うん。みんなの笑顔見てたら、胸がいっぱいになって」

雪ちゃんの声が、少し震えている。

「私……昔は、こんな日が来るなんて思ってなかった」

「俺もだよ」

俺は雪ちゃんの髪を優しく撫でながら、囁いた。

「でも今、ここに雪ちゃんがいる」

雪ちゃんは俺の胸に顔を押し当てて、小さく頷いた。

「……あったかい」

「雪ちゃんの体温、俺の全部もらってる感じ」

「えへへ……駿君の心臓の音、聞こえる」

雪ちゃんは俺の胸に耳を当てて、目を閉じた。

静かな部屋に、二人の呼吸と心音だけが響く。

俺は雪ちゃんの背中をゆっくり撫で続けた。

「……ねえ、駿君」

「ん?」

「明日も、こうやってみんなで笑ってたい」

「ああ、もちろん」

「ずっと、こうやって……駿君の隣にいさせて」

雪ちゃんの声が、甘く溶けていく。

俺は雪ちゃんの唇に、そっと自分の唇を重ねた。

短い、でも深いキス。

離れると、雪ちゃんの瞳が潤んでいた。

「……もう、作業なんてどうでもいいや」

雪ちゃんはそう言って、俺の手を引いて布団の方へ歩き始めた。

二人の布団に戻って、俺は雪ちゃんを後ろから抱きしめる形ですっぽり包み込んだ。

雪ちゃんは俺の腕の中で小さくなって、指を絡めてきた。

「……おやすみ、駿君」

「おやすみ、雪ちゃん」

外はまだ雪が降っている。

でも、この布団の中は、春みたいに温かかった。

雪ちゃんの吐息が、少しずつ深くなっていく。

俺は雪ちゃんの髪に顔を埋めて、静かに目を閉じた。

──明日も、きっと。

こんな風に、みんなで笑って。

雪ちゃんと、こうやって。

ずっと、こうやって。