RECORD

Eno.574 深垣 明久の記録

チハルの記録1


──北摩某所、とある日の**時頃、『外』と繋がるトンネル付近にて。

「──ああ、はじめまして!
お初にお目にかかります、深垣さん!」


近所の山にある長いトンネルを抜けた先──北摩の地に降り立った俺を迎えたのは人の良さそうな男だった。
男は八船ヤフネ…俺に代わって娘のアキヒサを見守ってくれるアザーナントカコロニストに所属する人物だ。

「はじめまして。
娘がいつもお世話になっています」


「いえいえ、娘さんにはこちらもお世話になっています。
機関の任務を頑張って手伝ってくれているんですよ!」


嘘を言っていなさそうな男の言葉に安心した。ああ、アキヒサは上手くやっているのだと。
同時に『当然だ、どこに出しても恥ずかしくないように育てたからな』という親馬鹿めいた感情も湧いたが。

──で、だ。
先日、俺はアキヒサにインスタント食品や野菜やらの荷物を送った。
それの礼にアキヒサから手紙があり…それにこの男からの「会って話がしたい」というメモが同封されていて…今に至る訳だ。

「それで…お話と言うのは…」


「はい!まずはこちらをご覧いただければ…」


「『北摩合同文化祭』…?束都ドームシティ、学生出展…」


手渡されたのは一つのパンフレット。これは…アキヒサが言っていた文化祭のことか?

「ブース出展一覧のところに『てづくり日和』とあるでしょう?
そちらはね、ご友人と一緒に娘さんがハンドメイド雑貨や軽食を販売するんです!」
「所属しているクラスの方はタコスをやるんですって!タコス!」
「折角の文化祭です。
よければ、お父様にも来て欲しいな…と思い!」


「………」


娘とは…会わないスタンスを取っている。
ハッキリ言って、アキヒサはファザコンだ。俺の事が好き過ぎる。
そんなのが一人頑張ってる中、父親の顔を見たらどうなると思う?
…覚悟が揺らぎ、家に帰りたがるのでは…と。

「お気持ちはありがたいのですが、俺は…」


「…娘さんはっ、元の世界の知り合いもいない中で…学校生活も、機関での任務もよく頑張っています。
是非とも…その頑張っている姿を…遠くからでも!お父様にも見て頂きたく…」


「………」


男の言わんとしていることは分かるが…俺は頷くことが出来なかった。
「考えておきます」とだけ伝え、俺はトンネルをくぐって家に帰った。

■■■


──異世界アサスズ町、とある日の**時頃、深垣家にて。

家に帰り、パンフレットをめくる。
ライブやステージ…喫茶店、謎解き…色んなブースの紹介ある。これを全部、学生がやっていると思うと…いやあ、すごいな。

「──行くのか?その文化祭とやらに」


部屋の上──神棚があるあたりから男の声が降り注ぐ。

「さて、どうでしょう」

「我であればゆくぞ。面白いものが沢山あるのだろう?お前は仕事以外はぱちんこや、家でドラマをみて煙草を吸うばかりではないか。
たまには遊びに行ってはどうかね」


「………」


「カカ~ッ、我は行きたくても自由に動かせる脚も羽も身体も無いと言うのになァ」


「………」


「お前だって寂しいのではないかね。
先日、いつものクセで雛鳥の分の晩飯を作っては嘆いていたではないか」


「……う」


「それに様子見も必要だろう。
例えば…なんだ、雛鳥を狙う男はいないか…とか。
不埒な視線を向ける者はいないか…とか」


「……!!」



「オオ。立ち上がったと思えばタンスを漁り始めた。
外出する際の服でも漁っているのだろうな」

「カカカ、親とは単純な生き物であるな」


声は愉快そうに笑い声を響かせた。

──数日後、グラサンをかけて北摩の地に訪れた濡羽色の男の姿があったとさ。