RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

Farewell

学童の教室は、いつもより少しだけ騒がしかった。

十二月の半ば。窓の外はもう薄暗くて、ストーブの周りに子供たちが集まっている。

壁に貼られた手作りの横断幕。

『駿兄さん ありがとう!! また帰ってきてね!』

色とりどりの折り紙とクレヨンで、ぎっしり埋まっている。

俺はいつものようにドアを開けた瞬間、紙テープがばさっと降ってきた。

「うわっ」

「駿兄さーん!!」

広斗が先頭に立って、みんなが一斉に駆け寄ってくる。

武が眼鏡を光らせながら、ちょっと照れくさそうに横に立っている。

透が両手で何か隠してる。

「……どうしたんだよ、これ」

俺は紙テープを払いながら聞いた。

広斗が胸を張った。

「駿兄さんが来週から地元離れるって聞いたから! お別れ会!」

ああ、そうか。こっちには一時的に帰ってきていて、そろそろ北摩市に戻ると決めたんだ。

学童にはちゃんと話してあったけど、まさかこんなことになるとは。

「お別れって言っても、そんなに長くないよすぐ戻る」

そう言っても、子供たちは真剣な顔だ。

武が一歩前に出て、小さな箱を差し出した。

「……これ」

蓋を開けると、中には折り紙で作られた小さな星が、たくさん入っていた。

「みんなで作ったんだ。駿兄さんが寂しくなったら、これ見て思い出してって」

透が続けて言う。

「僕が数えたら、二十七個あったよ!」

二十七……学童の全児童分か。

俺は一つ取り上げて、そっと握った。

「……ありがとう」

広斗が急に真顔になった。

「駿兄さん、いなくなったら……僕ら、どうすればいい?」

その言葉に、教室が一瞬静かになった。

武が俯いて、透が唇を噛んでる。

俺はゆっくりと膝をついて、みんなの目線に合わせた。

「俺がいなくても、お前らはもう大丈夫だよ」

武が顔を上げた。

「でも……あの夜、駿兄さんがいなかったら、俺……」

「あれは、武…自分で帰るって決めたからだろ」

俺は武の頭を軽く撫でた。

「俺はただ、背中押しただけ。お前が歩き出したんだ」

透が小声で言った。

「でも……寂しいよ」

「ああ、俺もだ」

正直に答えた。

「でもな、結構、あっという間だ。それに」

俺は立ち上がって、みんなを見回した。

「お前らが頑張ってる姿、遠くからでもちゃんと見てるからな」

広斗が急に笑った。

「じゃあ、帰ってきたら、また公園でサッカーしよう! 俺、絶対シュート上手くなってるから!」

武が眼鏡を直しながら、珍しく強気に言った。

「俺も……今度は、ちゃんと家に帰れるようになってる」

透が最後に、そっと俺の袖を引いた。

「……駿兄さん、約束だよ。また、帰ってきてね」

俺は頷いた。

「約束だ」

そのあと、子供たちが作ったクッキーを食べたり、みんなで写真撮ったり。

最後は、全員で輪になって、歌を歌った。

ちょっと音痴だったけど、それがまた良かった。

学童を出るとき、振り返ったら、みんなが窓から手を振ってた。

武が一番大きく手を振ってる。

広斗が何か叫んでるけど、遠くて聞こえない。

透が、涙目で笑ってる。

俺は手を高く上げて、振り返した。

夜道を歩きながら、ポケットの星を一つ取り出した。

折り紙の星は、街灯の下で小さく光った。

(優……俺、ちゃんとやってるよな)

長いような、短いような。

でも、きっとこの星たちが、俺を待っててくれる。

俺は星を握りしめた。

寒い夜だったけど、胸の奥は、熱かった。