RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

無題

「よすがは、母さんのようにはならないでくれ」

それは父の口癖だった。
子供に言い聞かせるには抽象的で、それはどちらかといえば願いのようだった。
その言葉の意味をしっかりと理解したのは多分、ちょうど幼馴染が引っ越したくらいだったと思う。
月待よすがは父の言いつけに従い、その願い通りに振る舞うことにした。

父が街を歩く女子高生を見て『色気づいて』と悪態を零せば地味な見た目を心掛け、
父がテレビを見ながら『料理なんて男に媚びるためのものだ』と言えば食への頓着を失い、
父が店先で『あんなもの必要ない』と顔を顰めれば■■を知らないまま登校し続けた。

子に健やかに育って欲しいという思いと女にならないで欲しいという感情は存外両立するものだと思った。

「大丈夫、よすがは自慢の娘だ」
「母さんがいなくても幸せだろう」
「寧ろ、あんな女をお前の傍に置いておくことにならなくてよかった」
「男を誑かして生きるような人間にはならないでくれ」
「人を不幸にするのは悪い人間だ」
「一人でも生きていけるようになるんだよ」



ざらついた

  大きなて
    のひ
 
     ら が





「――、ッ……!!!」


「…………、……夢か」


あまり寝覚めの良くない夢だった。夢の中でも親の顔は思い出せない。
昨日母の話なんてしたせいだろうか。ただ、ならないで欲しいと願われたそれ・・に近づいていく感覚はあったのだ。

罪悪感? 後ろめたさ? ……それをただ、重ねただけ。
正しくないことに実利があればそれを許せるのだろうか。……ずっとずっと考えても、よくわからない。
めんどうで、気だるくて、あたまがいたい。
いつかの幸せは鎮痛剤には少し足りなくなってきているようだった。

「……水飲んで寝直そう」



今日はもう、サボってしまおう。