RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

I'm home

北摩市の家に着いたのは、すっかり夜だった。

街灯が雪を照らす中、彰の車が懐かしい建物の前に停まる。

四階建ての古いけれど味わい深い建物──俺が地元に帰る前に北摩で暮らしていた時に使っていた喫茶店兼自宅だ。

一階は今もカウンターとテーブルが残る喫茶スペース。

二階からが居住スペースになっていた。

あの頃は店を閉めてから一人で二階の部屋に上がり、静かな夜を過ごしていたっけ。

今は、陽介が管理を引き継いでくれていたらしい。

車から荷物を降ろし終えたところで、陽介が玄関から顔を出した。

「おいおい、まだ降ろしてんのかよ!みんな、ちょっとこっち来い!」

「え? どうしたの?」

雪ちゃんが首を傾げると、陽介はスマホを構えてニヤリと笑った。

「せっかく全員揃ったんだ。店の前に並んで、記念写真撮ろうぜ!今日からここが俺たちの家なんだからよ!」

みんなが顔を見合わせ、すぐに笑顔になった。

自然と店の前に横一列に並ぶ。

左から彰、ハーちゃんのケージを抱えた雪ちゃん、クエちゃんの水槽を大事そうに持つイドロ、俺、そして陽介が一番右でスマホを高く掲げた。

雪がちらちらと降り積もる中、街灯のオレンジ色の光がみんなの顔を柔らかく照らす。

「よし、笑え笑え! はい、クエちゃんもこっち向いて!ハーちゃんもピース!」

クエちゃんが水槽の中でぷくっと泡を吐き、まるでポーズを取ってるみたいに首を傾げた。

ハーちゃんはケージの中で小さく鳴いて。スマホを見る

彰はいつものクールな顔のまま、でも口元が少し緩んでいる。

イドロが穏やかに微笑み、雪ちゃんが満面の笑みでピースサイン。

俺は……少し照れながらも、自然と笑みがこぼれた。

「せーの、おかえりー!」

陽介の声でシャッターが切られる。

連写で何枚も撮って、陽介が満足げに画面を見せる。

「ほら、見ろよ!めっちゃいい写真じゃん!これ、店のカウンターに飾ろうぜ」

みんながスマホを覗き込んで、笑い合う。

雪ちゃんが「かわいいー!」と声を上げ、彰が珍しく「悪くない」と呟いた。

イドロが静かに言った。

「この写真が、私たちの新しい始まりの証でありますね」

俺は、みんなの横顔を見ながら、胸がじんわり熱くなった。

俺はこの瞬間を、ずっと忘れない。

玄関のドアを開けると、懐かしいコーヒーの香りがかすかに残っていて、明かりがついていた。

雪ちゃんがクエちゃんの水槽を抱えて、目を輝かせる。

「わぁ、やっぱり広いよねここ」

ハーちゃんのケージを持った彰も、珍しく感心したように周りを見回していた。

「……へぇ、結構いい所じゃん」

俺は荷物を下ろしながら、みんなを見回した。

陽介が腕を組んで、得意げに言った。

「だろ?駿がいない間、俺が切り盛りしてたんだから。さあさあ、中飯冷める前に食おうぜ!」

カウンターの奥のキッチンに通されると、テーブルにはすでに料理が並んでいた。

唐揚げに味噌汁、焼き魚……昔、俺が一人で作って食べてたようなメニューも混じってる。

「俺がほとんど作ったけどな。イドロは味見専門」

陽介が照れ隠しに言うと、イドロが小さく笑った。

「私はあくまで味見役であります」

食事が終わって、みんなでお腹をさすっている頃。

陽介が立ち上がって、宣言した。

「さて、と。腹も満たされたところで──部屋割りすっか!」

みんなが顔を見合わせる。

俺は少し照れた。この家を、みんなと共有するなんて。

陽介が指で階を数えながら説明を始めた。

「まず基本方針な。二階は男部屋。三階は女子部屋。四階は……クエちゃん専用だな」

雪ちゃんが首を傾げる。

「え、いいの?」

「ああ。屋上近いからそこで運動も出来るしなんならデカめのプールも置けるしな。それに四階ならクエちゃんの水槽も置く場所に困らねえし」

クエちゃんが水槽の中で「クェ!」と鳴いた。まるで賛成しているみたいだ。

彰が静かに頷く。

「合理的だ。四階なら足音とかもそんなに響かないしね」

イドロが微笑みながら続けた。

「それで、二階は……駿様と陽介様のお部屋がそれぞれ一室ずつでありますね?」

陽介がニヤリと笑う。

「そうそう。駿が使ってた部屋はもちろん駿に返す。俺はその隣の部屋な」

雪ちゃんが手を挙げて言った。

「じゃあ、三階は私と彰とイドロって事で、三階の使ってない部屋はみんなでシェアしてもいいよね?」

イドロが頷く。

「私もそれに賛成であります」

俺は少しほっとした。

この家は、俺一人だと広すぎるくらいの場所だった。

でも今は、みんなの場所になる。

陽介が俺の肩を叩いた。

「駿、お前の部屋は二階の一番奥な。昔と同じだぞ。窓大きくて景色いいだろ。俺の部屋はその隣だから、夜中に何かあったらすぐ来いよ」

「……何かあったらって、何だよ」

俺が睨むと、陽介は大笑いした。

「冗談だよ冗談!でもよ、昔みたいに一人で悩んで閉じこもったりすんなよ?」

その言葉に、俺は少しだけ目を伏せた。

でも、すぐに顔を上げて──

「逃げねえよ。もう、どこにも。この家に、みんながいるんだから」

みんなが静かになった。

雪地方がそっと俺の手を握ってくれた。

彰が小さく笑う。

「なら、決まりだな」

イドロが立ち上がって、みんなを見回した。

「それでは、早急に荷物を運びましょう」

陽介がまた元気に声を上げた。

「よーし!じゃあ俺が先導すっぞ!四階の部屋から作ってやるか!クエちゃん豪華な部屋にしてやるからな!」

クエちゃんが「クェー!」と応えて顔を陽介の足にすりすりし始めた。

俺は立ち上がりながら、みんなの背中を見た。

二階で陽介と彰と。

三階で雪と彰とイドロと。

四階でクエちゃんとハーちゃん。

一階は、またみんなで切り盛りする喫茶店。

そして、この家全体に──俺たちの、戻ってきた居場所が。

「……ただいま」

今度は、みんなに聞こえる声で呟いた。

陽介が振り返って、にやりと笑った。

「おかえり、相棒」

これから始まる日々は、きっと騒がしくて、温かくて、コーヒーの香りがして。

もう、決して孤独じゃない。

俺たちは、ここで新しい物語を紡いでいく。

この家で、ずっと一緒に。