RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

Christmas Love

北摩市の冬は、今年も容赦なく雪を降らせていた。

12月22日の朝、喫茶店のカウンターで俺はコーヒーを淹れていた。一階の店内はまだ開店前で、静かな雪の音だけが窓を叩いている。

そこへ、陽介がドタドタと階段を降りてきた。

「おーい駿!今日、店どうする?」

「どうするって……普通に開けるだろ」

俺がカップを拭きながら答えると、陽介は腕を組んでニヤリと笑った。

「いやいや、ちょっと待てよ。明日はクリスマスだろ?俺たちで店の飾り付けやろうぜ。ツリーも出して、イルミネーションも張ってさ」

雪ちゃんが三階から降りてきて、目を輝かせた。

「いいね!私も手伝う!ハーちゃんもサンタの帽子かぶせちゃおうかな」

彰が後ろから静かに言った。

「……僕も協力するよ。クエちゃんにサンタの格好させるのもありかな?」

イドロが穏やかに微笑みながら加わった。

「それでは、私が料理の準備を担当いたします。クリスマスケーキも焼いてみせますよ」

俺はみんなの顔を見て、少し照れながら頷いた。

「……じゃあ、俺も手伝うよ」

陽介が俺の肩を叩いた。

「いや、駿と雪は別だ」

「は?」

みんなが一斉に俺と雪ちゃんを見た。

陽介が代表して言った。

「クリスマスの飾り付けは俺たちでやるからさ。お前ら二人は、デートしてこいよ」

雪ちゃんがぽかんとして、頰を赤くした。

「え、えっ?デート……?」

彰が珍しくからかうような口調で続けた。

「二人とも恋人でしょ?だったら二人きりで楽しむ時間も必要なんだから。それに僕たちがいないと、駿だって甘えられないんだから」

イドロが優しく頷いた。

「そうです。駿様も雪様も、お疲れだったと思います。私たちがここを守っていますから、どうぞ存分にイチャイチャしてきてくだい」

俺は言葉に詰まった。

確かに……最近、二人きりになる機会なんてほとんどなかった。

雪ちゃんが恥ずかしそうに俺を見上げて、小さく呟いた。

「……駿君、いい?」

俺は少し照れながらも、頷いた。

「……ああ。行こう」

陽介が満足げに笑った。

「よし決まり!じゃあ俺たちは飾り付け開始だ!」

クエちゃんが「クェー!」と鳴いて、まるで応援しているみたいだった。

俺たちはお言葉に甘えて、俺と雪ちゃんは店を出た。

雪ちゃんは赤いマフラーにコート、そして俺がプレゼントした翠色の眼鏡をしている。

俺はいつものコートに、雪ちゃんがくれたカモノハシのキーホルダーをぶら下げる。

「……どこ行こうか」

俺が聞くと、雪ちゃんは少し考えて、笑った。

「イルミネーション見に行きたいな…」

「ああ、じゃあ、行こう」

手をつないで歩き始めた。

雪が静かに降り積もる街並みは、どこか懐かしくて優しかった。

恋人になって大分経つというのに心臓が未だにバクバクする

イルミネーションをやっている通りにつくと、通り全体が無数のライトで彩られていた。

木々に巻かれたイルミネーションが、雪をキラキラと反射している。

「わあ……綺麗」

雪ちゃんが息を飲むように呟いた。

俺も、その光景に胸が熱くなった。

二人でゆっくり歩きながら、ライトアップされたツリーの前で立ち止まった。

「……雪ちゃん」

俺が名前を呼ぶと、彼女が顔を上げた。

「ありがとう…こうやって、一緒にいてくれて」

雪ちゃんが少し照れながら、俺の手をぎゅっと握り返した。

「私の方こそ…」

少しの沈黙。

雪が降る音だけが、二人を包む。

イルミネーションの柔らかな光が、雪ちゃんの横顔を優しく照らしていた。彼女の息が白く儚く溶けていく。

俺は自然と体を寄せ、そっと彼女の頰に手を添えた。冷たい雪の感触と、温かな肌のコントラストが胸を締めつける。

雪ちゃんは目を細めて、静かに目を閉じた。

次の瞬間、俺は彼女の唇に自分の唇を重ねた。

柔らかくて、ほんのり甘い。雪の匂いと、彼女の温もりが混じり合う。

短いキスだったけど、それだけで世界が二人だけになったみたいだった。

離れると、雪ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せて、でも幸せそうに微笑んだ。

「……駿君」

俺は言葉が出なくて、ただもう一度彼女の手を強く握った。

その後、二人で屋台のホットチョコレートを飲みながら、公園のベンチに座った。

雪が積もるベンチを軽く払って、並んで座る。

「……家に帰ったら、きっとすごいことになってるだろうな」

俺が言うと、雪ちゃんがくすくす笑った。

「陽介くん、張り切りすぎてツリー倒しちゃったりしてね」

「クエちゃんがイルミネーション壊してたりしてな」

二人で笑い合った。

雪ちゃんが俺の肩に頭をもたせかけて、呟いた。

「でも……みんながいるから、こんな風に二人きりになれるんだよね」

「……ああ」

俺はそっと雪ちゃんの髪に触れた。

「みんなに、感謝しないとな」

雪が静かに降り続ける中、二人の時間はゆっくりと過ぎていっ

夜遅く、店に戻ると──

玄関を開けた瞬間、温かい光と笑い声が溢れ出した。

一階の店内は、見事なクリスマス仕様になっていた。

大きなツリーに、色とりどりのオーナメント。

カウンターには手作りのケーキとクッキー。

クエちゃんは小さなサンタ帽をかぶっていた。

「おかえりー!」

陽介が大声で出迎えた。

彰がクールに、イドロが優しく微笑みながら。

「どうだった?楽しめた?」

陽介がニヤニヤ聞く。

俺と雪ちゃんは顔を見合わせて、頷いた。

「……最高だった」

雪ちゃんが照れながら答えると、みんなが「おー!」と歓声を上げた。

イドロがケーキを切り分けてくれた。

「それでは、皆さんでメリークリスマス、であります」

みんなでグラスを合わせる。

俺は、みんなの顔を見回した。

雪ちゃんの手をそっと握りながら。

この家に、みんながいて。

そして、雪ちゃんと二人で過ごせた特別な日。

これが、俺たちのクリスマス。

温かくて、賑やかで、雪のように優しい──

ずっと忘れない、かけがえのない一日になった。