RECORD

Eno.232 月影誠の記録

12/25

25日。その日は熱を出した。
気温差……というよりも、少し無理をしていたのが身体に出てしまったのだろう。
1日このまま寝ていれば治るのだけど、冷蔵庫の中には案の定何もない。
治したくないわけじゃないから、素直に助力を呼ぶことにした。

報告も兼ねて、この日は心音を呼んだ。
葛山は確か25日は家族と過ごすと言っていたはずだったし。



心音
「……え、プレゼント喜んだの!?」




「うん。……ありがとうね、心音。お陰で泣いて喜んでくれた。
 きっと、これからも夢に向かって頑張ってくれると思うよ」




「……アヤメにとって、とても大事な家族だったんだ。
 大事だってことを忘れないで、祈りの先になったら……俺も、嬉しいよ」



心音
「……違う、私は」



心音
「私は、そうじゃない。
 込める想いも、贈るものも、なんだっていいって、自由でいいって思った」



心音
「でも、私は…………
 誠君に苦しんでほしくて、助力したんじゃないよ……




お見舞いに来てくれた彼女の声が小さくなっていく。
震えて、今にも泣きそうな声で「ごめんなさい」と、何度も何度も呟いた。

俺の贈りものを、心音は「良くない」と言っていた。
「こうなる」と何かを確信して、24日あのように彼女は動いて。
……思った通りには、ならなかったのだろう。

少しして、意を決したように顔を上げる。

心音
「……私は、ちゃんと聞こえてるよ」


心音
「私はちゃんと、誠君の心の音、聞こえてるから」


心音
「全部全部、ちゃんと聞こえてるから、だから……」


心音
「…………」


心音
「……来年も、必要だったら共犯になるよ。一人にはしないから。
 私といるときは、そんな心の音させないから」


心音
「……天堂さんから言うべきだよ、これだって……」



「……俺は心音が、何をそんなに気にしてるか分かんないや。
 だけど来年も共犯になってくれるなら……それは、気が楽だな」



「だけど、本当に俺は……喜んでくれて、良かったって思ってるんだよ」


心音
「…………」


心音
「……嘘吐き」





―― 本当ならアヤメは、この日だけでなく、毎日家族皆と過ごすはずだった。
けれどそれは彼女の世界の王子によって叶わなくなった。
理不尽に平穏が奪われて、トラウマを植え付けられて。
人を斬っても何とも思わなくなるほど、追い込まれて……今、彼女は復讐のために、生きている。

突き動かされるくらいに、アヤメにとって家族が大事だった。
かけがえのない人たちだった。何よりも、大切な人たちだった。
そうじゃなかったら、復讐のために人生を捧げるなんてできないだろ。

だから。

己が隣に居ることは間違いなのだと自分とは本来交わるべきでなかったのだと
彼女は俺のために生きているのではないのだと彼女はいつも自分自身のために生きているのだと
俺はあくまでも彼女を支えるだけに留まるべきなのだときっと自分よりももっと傍にいるべき人がいるのだから

己の心がどれだけ重く、狂暴かをよく知っているから。



「―― 不釣り合いの感情は、隠し続けて誤魔化した方が幸せだよ」




どうか、これからも、この後も。
どうか、どうか、俺なんかに構わずに自分のために生きて。