RECORD
Eno.1461 篠崎 駿の記録
頑張ったご褒美
北摩市の冬の夕方は、16時を過ぎるともう薄暗い。
病院からの帰り道、コロちゃんは俺の腕の中でぐったりしていた。
今日は血液検査にレントゲン、心臓エコー、そして狂犬病ワクチンのフルコース。
幸いどこにも異常は無くほっとしたが注射が怖かったのか悲しそうな鳴き声をあげる。
そこで、よく頑張ったご褒美をあげることにした。
「よしよし、偉かったなコロちゃん。今日は特別だぞ」
家に着くなり、俺はエプロンを引っ張り出してキッチンに立つ。
冷蔵庫から取り出したのは、鶏むね肉とささみ、にんじん、かぼちゃ、少しのブロッコリー。
まずは野菜を細かくみじん切りにしてレンジで柔らかく蒸す。
鶏肉はしっかりと茹でて、臭みを取ってからフードプロセッサーでペースト状に。
そこに蒸し野菜と少量の片栗粉、卵黄を混ぜ込んで丁寧にこねる。
「塩は入れない。出汁と野菜の甘みだけで勝負だな……」
丸めてフライパンに並べ、弱火でじっくり両面を焼く。
表面がこんがりしてきたところで蓋をして蒸し焼きに。
最後に溶き卵を回し入れてふわっと閉じ込め、仕上げにすりおろした長いもをたっぷり乗せる。
キッチン中に優しい香りが広がっていく。
「出来たぞ〜コロちゃん〜」
出来立てを少し冷ましてから、スプーンで小さく切ってコロの器に乗せる。
コロちゃんはもう尻尾を高速でブンブン振って、目がキラッキラ。
一瞬で飛びついてきて、パクパクパクパク。
「……そんな顔すんなよ……こっちも食べたくなってくるだろ」
最後の一口を食べ終わった瞬間、コロちゃんは満足げに「ふぅ〜ん」と鼻息を漏らして、器の周りをぺろぺろ舐め始めた。
家の中は静かだ。
陽介は喫茶店で使う卵などを仕入れに、雪ちゃんはクエちゃんの健康診察と観察レポートの提出で研究所に戻り、彰は依頼が来たのでしばらくは帰ってこないらしい。
イドロは…多分寝てるだろう。
つまり、今は完全に二人きり。
「……なあコロちゃん。ちょっとだけ、いいよな?」
俺はソファに深く座り直し、コロちゃんを膝の上に引き寄せる。
両手でふわふわの頬を包み、耳の裏をくすぐるようにモフモフ。
コロちゃんは気持ちよさそうに目を細めて、喉をゴロゴロ鳴らし始めた。
夢中になってモフっていると、ふと……背筋に冷たい視線。
「……ん?」
ゆっくり顔を上げると。
リビングと廊下の境目、薄暗い影の部分に、イドロが立っていた。
完全にジト目。
無表情を通り越して、むしろ静かな怒りすら感じるような。
重たい・冷たい・若干恨みがましい視線。
「あっ……」
コロはまだ気持ちよさそうに目を閉じているが、俺はもう冷や汗ダラダラだ。
「い、イドロ……お、おかえり……? いつの間に……」
イドロは一言も発さず、ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近づいてくる。
足音がやけに重い。
駿は慌ててコロちゃんを抱き上げ後ずさりながら必死に弁解を始める。
「ち、違うんだよ!これはご褒美!病院頑張ったご褒美だから!独り占めとかそういうんじゃなくて!」
イドロがピタッと停止して。
そして、ぽつり。
「……私も……」
「……え?」
「……コロさんが今日頑張ったのは私も承知しています。だから……私にも、撫でさせてください」
その目は依然としてジト目だが、どこか少しだけ、拗ねた子犬みたいな色が混じっていた。
「ったく……しょうがないな」
そっとコロちゃんをイドロの方に差し出す。
「ほら。今日は特別だ。五分間な」
イドロ、こくん、と頷いて、大事そうにコロちゃんを受け取る。
そして、
本当に大事そうに、
そっと、そっと、頬を寄せてモフり始めた。
夢中になってモフっているイドロに対してコロちゃんはもう完全に寝落ち寸前。
俺はその光景を見ながら、
小さくため息をついて呟いた。
「……結局みんなコロちゃんの事好きなんだな」
北摩市の冬の夜は、まだまだ静かに雪を降らせていた。
病院からの帰り道、コロちゃんは俺の腕の中でぐったりしていた。
今日は血液検査にレントゲン、心臓エコー、そして狂犬病ワクチンのフルコース。
幸いどこにも異常は無くほっとしたが注射が怖かったのか悲しそうな鳴き声をあげる。
そこで、よく頑張ったご褒美をあげることにした。
「よしよし、偉かったなコロちゃん。今日は特別だぞ」
家に着くなり、俺はエプロンを引っ張り出してキッチンに立つ。
冷蔵庫から取り出したのは、鶏むね肉とささみ、にんじん、かぼちゃ、少しのブロッコリー。
まずは野菜を細かくみじん切りにしてレンジで柔らかく蒸す。
鶏肉はしっかりと茹でて、臭みを取ってからフードプロセッサーでペースト状に。
そこに蒸し野菜と少量の片栗粉、卵黄を混ぜ込んで丁寧にこねる。
「塩は入れない。出汁と野菜の甘みだけで勝負だな……」
丸めてフライパンに並べ、弱火でじっくり両面を焼く。
表面がこんがりしてきたところで蓋をして蒸し焼きに。
最後に溶き卵を回し入れてふわっと閉じ込め、仕上げにすりおろした長いもをたっぷり乗せる。
キッチン中に優しい香りが広がっていく。
「出来たぞ〜コロちゃん〜」
出来立てを少し冷ましてから、スプーンで小さく切ってコロの器に乗せる。
コロちゃんはもう尻尾を高速でブンブン振って、目がキラッキラ。
一瞬で飛びついてきて、パクパクパクパク。
「……そんな顔すんなよ……こっちも食べたくなってくるだろ」
最後の一口を食べ終わった瞬間、コロちゃんは満足げに「ふぅ〜ん」と鼻息を漏らして、器の周りをぺろぺろ舐め始めた。
家の中は静かだ。
陽介は喫茶店で使う卵などを仕入れに、雪ちゃんはクエちゃんの健康診察と観察レポートの提出で研究所に戻り、彰は依頼が来たのでしばらくは帰ってこないらしい。
イドロは…多分寝てるだろう。
つまり、今は完全に二人きり。
「……なあコロちゃん。ちょっとだけ、いいよな?」
俺はソファに深く座り直し、コロちゃんを膝の上に引き寄せる。
両手でふわふわの頬を包み、耳の裏をくすぐるようにモフモフ。
コロちゃんは気持ちよさそうに目を細めて、喉をゴロゴロ鳴らし始めた。
夢中になってモフっていると、ふと……背筋に冷たい視線。
「……ん?」
ゆっくり顔を上げると。
リビングと廊下の境目、薄暗い影の部分に、イドロが立っていた。
完全にジト目。
無表情を通り越して、むしろ静かな怒りすら感じるような。
重たい・冷たい・若干恨みがましい視線。
「あっ……」
コロはまだ気持ちよさそうに目を閉じているが、俺はもう冷や汗ダラダラだ。
「い、イドロ……お、おかえり……? いつの間に……」
イドロは一言も発さず、ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近づいてくる。
足音がやけに重い。
駿は慌ててコロちゃんを抱き上げ後ずさりながら必死に弁解を始める。
「ち、違うんだよ!これはご褒美!病院頑張ったご褒美だから!独り占めとかそういうんじゃなくて!」
イドロがピタッと停止して。
そして、ぽつり。
「……私も……」
「……え?」
「……コロさんが今日頑張ったのは私も承知しています。だから……私にも、撫でさせてください」
その目は依然としてジト目だが、どこか少しだけ、拗ねた子犬みたいな色が混じっていた。
「ったく……しょうがないな」
そっとコロちゃんをイドロの方に差し出す。
「ほら。今日は特別だ。五分間な」
イドロ、こくん、と頷いて、大事そうにコロちゃんを受け取る。
そして、
本当に大事そうに、
そっと、そっと、頬を寄せてモフり始めた。
夢中になってモフっているイドロに対してコロちゃんはもう完全に寝落ち寸前。
俺はその光景を見ながら、
小さくため息をついて呟いた。
「……結局みんなコロちゃんの事好きなんだな」
北摩市の冬の夜は、まだまだ静かに雪を降らせていた。