RECORD

Eno.340 月待 よすがの記録

無題

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「ということで」
「君のせいでしょ、autoscopyドッペルゲンガー

鏡に問うのは、一度。
名を以て、そこに存在すると願えば"居る"のが神秘だ。
もうこの怪奇に縋ることは無いと思っていたけれど。

「三度の願いを叶える器。契約を以て生を得る体。
 そういう実態を与えたのは僕の間違いだったかな?」
「"鏡の悪魔"……。散々引っ掻き回してくれたみたいだ。
 いいの? このままだと君も僕と同じく 居ない方がよかった・・・・・・・・・存在に成り下がるけど――」

はてさて、なんの因果か月待よすがはその鏡に苦情を言いにきたのである。
契約によって奇跡を齎す、影の病。二重存在を生んで取り殺す代わりに、どんな願いでも叶えてあげる、なんて謳い文句。
それは結局ままならず、文字通りに歪みを生んでしまった病魔に等しい。

その文句が全く的を射ていないといえば、嘘になる。故にautoscopyは再びその声に応えたのだ。
鏡の中の虚像が不服そうに、実像と違う動きでそれを証左する。

「……ちょっと待ってよ! 君の願いはちゃんとかなえた。
 契約に則って影の病ドッペルゲンガーとして振る舞ったはずだ。
 君の破滅願望は叶える義理なんて本当は無いんだよ。autoscopyはいつだって誠実だ」

その鏡の中にあるのは人格ではなく、集合知。
あの日月待よすがとして成り代わった自我は既に無く、心無い苦情に対しても真摯に応対する。

「あぁ、そうだろう。けれど君は僕に成り代わることはできず、"autoscopyドッペルゲンガー"として他者に情報を与えた。
 それは君の性質上致命的な欠陥じゃあない? 君という存在が出来損ないに確立されれば、またただの鏡の神秘に逆戻りだ。
 の中には、君よりも役立つ■■が居るだろう?」

「……何が言いたいの? あのはもう壊されている。
 言っておくけど、もう君になってあげるのは無理だよ。autoscopyの身体が神秘で構成されている以上、人間とは根源が違う。
 それを看破されるならautoscopyには不可能だ」

「分かってる。一度失敗したものを使う程浅はかじゃないよ。
 僕がしてほしいのは、君が再び裏世界を歩けるようになることだ。
 鏡を媒体として移動できる性質は役に立つ。限定的な影武者として使えるのもポイント高い。
 だからもっと願いを集めるんだ、autoscopyドッペルゲンガー。君はまだ認知が足りない」

「散々文句を言っといて最後には『力不足』? ……君は悪魔のような人間だね。
 autoscopyたちの神秘が恐ろしいものだと知っておきながら、まだ利用しようとするなんて!」

「そりゃあそうだろう。人間は悪魔より狡猾だから、君たちの神秘は衰退したんだよ」

「……。……それで? 願いを集めるって、どういう?」

「神秘は願われる存在だ。君はまだ、硬すぎる・・・・
 鏡に写るものしか示さないから第三者に干渉する願いは叶えられない。
 病を根源とするから契約者を取り殺すのもゆっくりだ。
 形に囚われすぎていると、僕としても利用価値が薄い」

「その在り方は君が定義したものだけどね。君の頭が固いから今のautoscopyがあるんだよ」

「そう、だから願いを集めるんだ。つまり僕以外の認知をもっと貰いなさい。
 夏休みの時の君は、大多数には月待よすが・・・・・と思われていただろう。
 ドッペルゲンガーは認知を集めにくい。だから存在価値をもっと示す必要がある」

「…………"autoscopyを見てもらえ"ってこと?」

「端的に言えばそう。契約は待ってるだけじゃもらえないよ。あまりに悪質な勧誘だとまた討伐されるだろうけど」

「鬼ごっこはもうこりごりだ。……まあ、でも分かったよ。
 要するに、居るかもしれない・・・・・・・・があればいいんでしょ。
 サンタクロースとかツチノコとかと同じだ。合わせ鏡に悪魔が写る噂は、何も由縁がないわけじゃない」

「……、うん。そう。そうだね。やっぱり君は 話の分かる良い子だ。
 よろしくね、autoscopyドッペルゲンガー。良き隣人であれるように祈っているよ」

「はいはい。良き隣人であれるように」