RECORD

Eno.2939 尾多 久太郎の記録

【御尾神社の友人】

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『久太郎!今日も修行をよろしくお頼み申す!!』

神社の枯葉をかき集めている所へ、また出っ歯が現れる。
随分と小奇麗にになってきたそいつは俺の足元をくるくると回っては早く遊んでくれと煩い。
……掃除の成果も出てきたんだなとしみじみ思う。

あれからもう三ヶ月か、
年も明けそろそろ二月になろうとしている。
忍者を目指すと言っていたそいつはどうやら俺の父親が境内に置きっぱなしにしていた
マニア向け忍者雑誌を見て影響を受けたらしい。
親父のせいなら俺が責任を持つべき所なのだと相手をしているという訳だ。

……決して、一人でやる修行に飽きた訳では無い。

「おー……今日はあれやらせてやるよ。
 ほら、この間お前が棒を削って作ってた刀もってこい」

そう言って自作の修行場を指さした。
そこには木の間に縄を張ってたゆませたものが数本あり
大量のサイズの違う細長い板切れに的を描き吊るしてある。
あれを一気に揺らして順番に木刀で突いてゆくのだ。

板切れに当たらぬように全部叩ければクリア
叩けば叩くほど不規則な動きになってゆくので簡易的な回避と攻撃の修行に良い。
今日は風もない、縄の数を減らしてやればいい感じに遊べるだろう。

「怪我するような代物じゃないが当たれば痛いぞクソ出っ歯!
 当てる事に集中しすぎて顔面喰らわねぇように頑張って避けろよ」

『うおおお頑張るでござる!!
 あとクソ出っ歯はそろそろやめて戴きたい!』

「んじゃなんて呼べばいいんだよチビ出っ歯……」

『それもやめるでござる!!』

「はーい、んじゃ開始~~~~」

『人の話を聞くでござるよ?!久太r……ぬわぁぁぁ』

……いや、お前ずっと名乗らねぇんだもん。
流石に察する所はある。
このクソちび出っ歯が人間じゃない事も
この神社に縁ある存在なのだろうなという事も
それを多分隠して起きたいんだろうなぁって事もわかる。

分かるが下手すぎる。
何かあると狐耳と尻尾がびょこっと出てくるし稲荷か何かなのかね?
だとすると名乗れないのは仕方がないのか。
偽名でも名乗りゃそれに乗っかってやるつもりだったんだが……

『久太郎!久太郎!
 全部の的に当てたでござるよ!どうじゃ?
 合格か??』

「半分の棒に当たってたがなー?」

『厳しい……』

「凹むな凹むな。
 そうだなぁ……今日の夕暮れまでに当たる数を三分の一にできたら
 師匠としてお前に褒美をくれてやろう」

『む……頑張るにござる!!』

そう言って再び挑んでいく出っ歯を笑いながら見守る。
忍者の修行なんて何が楽しいんだか。
強くなってやりたい事があるとか言ってはいたが今の時代そんな事に意味なんかねぇ。
少なくとも俺は楽しいと思った事なんてなかった。
友達とベイアックスで遊びたかったし、カードゲームだってしたかった。
親父の趣味でやらされていた忍者修行はいつしか俺から友達を奪っていったし
その親父も腰を痛めたとか言って突然この神社の管理と共に全部放り投げやがった。

もう忍者修行になんて付き合う義理はない。
だがそれ以外して来なかったものだから他にやる事もなくて
現代の忍者になってほしいだなんて親父の無茶振りな夢にまだ縋っている。

…………とりあえず芋でも焼くか。
掃除で積み上げられていた落ち葉に火をつけた。
焼きあがったら出っ歯と一緒におやつにしよう。


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──────……

『ウマイにござるな!芋!』

「よかったな~火傷すんなよ?」

『気を付けるにござる…ハフハフ。
 して、久太郎!拙者ちゃんと三分の一避けれるようになりましたぞ?
 褒美とはこの芋でござるか?』

キラキラした目で聞いてきやがる。
芋で不満かなんて言って虐めてやろうかと思ったが
そもそもこれは俺の都合。

「皆伝として師匠からお前に名を授けてやるよ。
 今日からお前の名前は【蒼炎】だ!」

『おおおお!格好いいでござるな!
 拙者の名は蒼炎!!蒼炎にござる!!ありがとう久太郎!』

友達に呼べる名前がない……っていうのはこっちが面倒くさいんだよな。
ほんと、それだけの話だよ。