RECORD
Eno.46 篠目 樹の記録
salvation 4
1月2日 ヒノキ荘 204号室にて
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「……お久し振りです、キクコさん」
「そんなに畏まらなくても、お世話になってるのはウチの樹の方ですから」
「あぁ、はい、いえ……
……今回の訪問はどういったご用件でしょうか?」
「樹の様子を見に、盆も正月も帰らないと言ってきて少し心配になりましてね」
「……そうですか」
こじんまりとした部屋の中、老婦人と中年男性が相対している。険悪ではないにしろ、微妙に張り詰めた空気が会話に重苦しさを乗せていた。
「突然で御迷惑になるとは分かっていたんですけれどね、どうにも気になって」
「心配になる御気持ち、良く分かります。
樹君と一緒に過ごさせて貰うと尚更に」
「そうそう、あの子は本当にそそっかしくて鈍いところも有って」
「ですが、他人を思い遣り大切に出来る子でも在ります」
「えぇ、その通りです」
滞りなく差し障りのない会話、互いの共通点たる子供の話は盛り上がっているようで何処か薄ら冷えていた。
「此方に来ても食欲旺盛で良かったです、環境が変わると食事が喉を通らないことも有りますから」
「食事に関しては此方に来る前から都会の食事を楽しみにしてたので心配していません。
私の懸念点は勉強の方ですね」
「勉強……確かに少しテストの点は低いですけれども、学びを得ようとする姿勢は良く出来ていますよ」
「あら、暇さえ有れば友人と遊びに行っていたあの子がそんな風に……」
口元を押さえる老婦人、端から見れば感激しているようにも見える。ただ中年は何処か申し訳なさそうに目を逸らした。
「……勉強以外にも交遊関係を気にされていましたよね?」
「えぇ、何かと不器用な子ですから友達と上手く関係を築けてないんじゃないかなと」
「此方に来て最初の頃は友人が少ないようでしたが直ぐに馴染みましたよ、人見知りと女子が少し苦手なのは変わりませんが」
「小さい頃から近所のお姉さんや御老人達と仲良しで、初めて教会に来た人でも優しく対応してたあの子がですか」
「……」
中年の言葉が窮しても老婦人は話を続ける。どうあっても御構い無しに。
「勉強は最低限、真面目かと言われれば首を傾げざるを得なくてお洒落に気を遣ってたのに気に入っていた服すら持っていかない」
「………」
「更に言うなら物怖じしないあの子が人見知りを起こすようになってしまっていた。
言うならそうですね、まるで人が変わったよう」
「………」
「成梧さん、あの日……樹に何が起きたんですか?」
老婦人は中年を見据え続ける。我が子に起きた出来事を探る為に。
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「……お久し振りです、キクコさん」
「そんなに畏まらなくても、お世話になってるのはウチの樹の方ですから」
「あぁ、はい、いえ……
……今回の訪問はどういったご用件でしょうか?」
「樹の様子を見に、盆も正月も帰らないと言ってきて少し心配になりましてね」
「……そうですか」
こじんまりとした部屋の中、老婦人と中年男性が相対している。険悪ではないにしろ、微妙に張り詰めた空気が会話に重苦しさを乗せていた。
「突然で御迷惑になるとは分かっていたんですけれどね、どうにも気になって」
「心配になる御気持ち、良く分かります。
樹君と一緒に過ごさせて貰うと尚更に」
「そうそう、あの子は本当にそそっかしくて鈍いところも有って」
「ですが、他人を思い遣り大切に出来る子でも在ります」
「えぇ、その通りです」
滞りなく差し障りのない会話、互いの共通点たる子供の話は盛り上がっているようで何処か薄ら冷えていた。
「此方に来ても食欲旺盛で良かったです、環境が変わると食事が喉を通らないことも有りますから」
「食事に関しては此方に来る前から都会の食事を楽しみにしてたので心配していません。
私の懸念点は勉強の方ですね」
「勉強……確かに少しテストの点は低いですけれども、学びを得ようとする姿勢は良く出来ていますよ」
「あら、暇さえ有れば友人と遊びに行っていたあの子がそんな風に……」
口元を押さえる老婦人、端から見れば感激しているようにも見える。ただ中年は何処か申し訳なさそうに目を逸らした。
「……勉強以外にも交遊関係を気にされていましたよね?」
「えぇ、何かと不器用な子ですから友達と上手く関係を築けてないんじゃないかなと」
「此方に来て最初の頃は友人が少ないようでしたが直ぐに馴染みましたよ、人見知りと女子が少し苦手なのは変わりませんが」
「小さい頃から近所のお姉さんや御老人達と仲良しで、初めて教会に来た人でも優しく対応してたあの子がですか」
「……」
中年の言葉が窮しても老婦人は話を続ける。どうあっても御構い無しに。
「勉強は最低限、真面目かと言われれば首を傾げざるを得なくてお洒落に気を遣ってたのに気に入っていた服すら持っていかない」
「………」
「更に言うなら物怖じしないあの子が人見知りを起こすようになってしまっていた。
言うならそうですね、まるで人が変わったよう」
「………」
「成梧さん、あの日……樹に何が起きたんですか?」
老婦人は中年を見据え続ける。我が子に起きた出来事を探る為に。
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「ぶえっくしょい……あ~……風邪か?」

「二人とも仲良くしてると良いんだけどな~……
あっ早く行かねぇと」