RECORD

Eno.251 鳴宮優希の記録

【3.なかなおりの保健室/“ユウキ”の欠片】


【なかなおりの保健室】

 ……その後。
 僕らは束都の保健室に連れてこられて。
 説明を受けた。
 そして、僕が傷付けた人たちと、
 僕の友人たちと、仲直り、したんだ。

「…………ありがとう」


 太陽みたいだった蒼真。
 あまりにも眩しくて涙が出たから、
 思わず顔を背けてしまった。

 涙が止まらなかったのはどうしてだろう。
 罪悪感も湧いてきたけど。
 奏翔がそっと寄り添って、背中を撫でてくれて。

 あんな優しさ、温かさ。
 お母さまからも、貰ったことがなかったのに、な。

 僕は明らかに悪いことをした。
 あれだけ“正しい”を主張しておいて、
 感情に振り回されて規則を破って。

 悪いことをした子は。
 僕は、わるいこになってしまった。
 
 怒鳴られるって思ってた。
 蒼真と奏翔。もう友達じゃなくなるかなって。
 なのに、ね。

 …………嬉しかったよ。
 大好きだ、僕の友達。

  ◇

【“ユウキ”の欠片】

 百華と喧嘩になる前の話。
 僕は訓練場で、土岐さんという人に、
 稽古を付けて貰えることになったのだ。

 僕は弱い。勉強だけは何とか出来る、
 頭でっかちなだけの人間。それだけの一般人。
 そんな自覚があった。
 だから、我武者羅に頑張って、杖で応戦して。
 そうでもしなきゃ、対抗出来ないだろ。

 相手の方が力があって、速度もあって。
 鍔迫り合いになったら負けるって、分かってた。
 だからそうならないように動いた。
 上手い動きが出来たみたいだ。
 僕のそれが、土岐さんの心に火をつけたようで。

 土岐さんが勢いよく向かってきた。
 僕はそれに対し、

「————!」


 前に進むしか、ないと思った、から。

 杖で受けたらどうせまた鍔迫り合い。
 そしたら力に劣る僕は負けてしまう。
 鍔迫り合いを避けるには?
 横に逃げても剣の軌道じゃ、
 簡単に捉えられてしまいそうで。

 怖い気持ちを押し殺して、前へ。
 僕の杖は、確かに当たったんだ。

『──勇気、だよ』


 その言葉を、忘れない。
 その日、心に確かに灯った炎を、勇気の欠片を、忘れない。

  ◇

 きっと何処かで薄々、勘付いていた。
 

『お前はそれで本当に満足出来てるのか?』


 竜胆さんに言われた言葉。
 見ないようにしてた、本心について。

 百華と戦う時、僕は“切り札”を使った。
 臆病な自分を切り捨てて、
 強い自分に全てを任せようとして。
 その時に、見たのだ、ちゃんと。

「…………ずるいよ」


 仮面を取っ払った先にある、本物の感情を。

 もう、それを見なかったことには出来ない。
 それを呑み込んだ結果、“優等生”ではなくなるとしても。
 醜い僕でも、わたしでも、丸ごと認めてあげると決めた。

 まだお母さまのことは怖い。
 逆らう勇気は、まだ持てない。
 だけど、せめて、自分のことは。
 自分の感情だけは、受け入れてあげなくちゃ。

 僕は“正義”に狂っていた。
 正しいことをしている僕が悪い子と言われ、
 怠惰に生きている皆は罰ひとつ与えられなくて。
 ずるいよね、ずるいよ。だから、“正義”を盾にした。

 子供の我儘みたいな感情を、
 “正義”という鎧で覆って振り翳して周りを傷付けていた。
 そうすれば、あの頃の自分を正当化出来る気がしていたんだ。

 僕の“正義”は、歪んでた。
 自覚したから、もう振り翳さない。

「……“優等生”なんて」


 そんなこだわりなんて、捨ててしまえよ。

 僕はまだ、自分の糸を切れない操り人形だけど。
 友人たちがいるなら、きっと、いつかは。

 信じているんだ。