RECORD

Eno.1807 七條 くもりの記録

蕾①



北摩の外、都内某所のオフィス街、
終業時間になると男は仕事を締めた。

艶がありつつも、決して嫌味にならない深みのある光沢を湛えているスーツを身に纏い、軽い足取りでビルを出る。
通りに植えられた若い桜の木が満開になるのはまだ先かと考えていれば、視界に入った女に目を見開いた。

あまりにもオフィス街には似合わぬその出で立ち。
建物の壁に寄りかかりながら腕を組んでこちらを真っ直ぐに見ている。

目が合ったのを確認したのか、目配せで合図を送ってきた女が歩き出す。
なるほど、と思い少しの距離を取って女の後を追った。


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「ちゃんと着いてきてくれて良かったわ」

ファミリーレストランの向かいの席、
軽口を叩くように女が言った。
夕食の時間帯で、ほぼ満席といった店内。家族連れの声がよく響いている。

2人きり、閉鎖的な環境を避けたのは誰かの助言を受けたからか。
とはいえオフィス街から距離のある店には知り合いの目もなく、席に座らない理由はなかった。

「着いて行かずに騒がれたら困るからね」

何せ180cmもある背丈に紫色の髪、正確には染めた後に放置したのか所謂プリン頭になっている女。オフィス街で目立たない訳がなく、あの場で騒ぎを起こされたら何の噂を流されたことか。それを分かった上でこんな店まで誘導したのだろう。
どうやらこれが彼女、七條くもりの本性らしい。
ニコリと微笑んだ後、彼女が店員にオムライスセットを注文するのを見て同じ物を頼んだ。

長居するつもりならば付き合おう。
僕はキミと婚約しなければならないのだから。