RECORD

Eno.225 葛山の記録

犯人捜しは敢えてしません




 紫紺の空。燃ゆる夕陽。伸びる人影。
 見たこともない標識。不自然に滲んだ看板。
 家の成り損ないばかりが並ぶ、ニセモノの住宅街が広がっている。

 見覚えのある街並みも、なんでもない日常も、そこにはただのひとつもない。
 あったのは、出来の悪い街のハリボテたちだけだった。


 ――北摩アザーサイド怪奇譚 導入より



 昔は、謎と見るや何でも解き明かそうとする質だった。

 小学生の時の話だ。
 当時、僕は友人たちと“ひみつ調査隊”を組んでいた。要は探偵ごっこのグループである。
 校内で起きた、事件とも呼べないような瑣末な事件を追いかけて遊んでいた。

 例えば……そう、学校の花壇が荒らされていたとか?
 誰かのペンがなくなったとか、壁に落書きがされていたとか。

 そういう、全校集会での「犯人捜しは敢えてしません、先生は皆の事を信じています」で終わるような話を、せっせと蒸し返していた訳である。
 教師にとっては厄介なガキ共だっただろう。今は申し訳ないと思っている。

「なあ、さっきの話どう思う?」
「絶対事件だよな」
「おれたちで解決しようぜ」

 大体、これがお決まりの流れだった。

 あの頃は、気になった事を只管追いかけるのが楽しかった。
 散らばった断片を拾い集めて、解答を組み立てて、好奇心を満たすのが心地良かった。
 このグループが自分の居場所で、アイデンティティだった。
 そして、この有意義な楽しい日々がいつまでも続くと信じて疑わなかった。
 これまでで最も生き生きしていた時期は、この時だろうな。

 けれど、勿論今はそうではない。
 このグループは色々あって既に消滅している。
 それを切っ掛けに、僕はそういう、物事を無闇に追求するような行為をやめた。
 出来るだけ無難に、出来るだけ目立たず、死ぬまで無意味な事だけをして時間を浪費しようと決意した。
 何があったんだ、という感じではあるけれど。
 まあ……何というか。
 その時僕は、持っていた存在意義を全て失ってしまったんだよな。

 好奇心を無関心で塗り潰す。
 特に何の影響力も持たない、無意味な存在でありたい。
 日々を無為に過ごす――それが今の僕のモットーです。

 ……ところが、ここへ来て困った事になってしまった。

 裏世界アザーサイド
 助けてくれた見知らぬ女性はそう言った。
 僕は知らず知らずのうちにそういう場所へ迷い込んでしまったらしい。
 この世界には、表と裏がある。人智を超えた神秘がある。
 その存在に触れてしまったからには、神秘を守る手伝いをしなくてはならない……。

 ええ……。いや……。

 限りなく一般人モブでいたい僕としては、神秘だの怪奇だの、そんな由々しき事態に巻き込まれるのはなるべく避けたい訳だが。僕には有意義過ぎる。
 そういうヒロイックなのはさ、もっと主役っぽい人がやるべきだと思わないか? クラスに居るあの人なんかどう?
 駄目かそうか。

 とはいえ、我々学生が学生らしく暮らせるように尽力しているとも言ってたし、日常が脅かされる事はないのかもしれない。
 取り敢えず、言われた仕事だけ最低限こなしておけば良いだろ。

 裏世界は一体どういう存在なのか?
 何の為にあり、どこに繋がっているのか?
 なぜ北摩市に神秘が集まっている?
 神秘とは何か?

 僕は、追求をしない。

 暇だな。
 じゃあ何をする?


「弁当に入ってるあのギザギザの草を沢山集めて、草原作るか」