RECORD

Eno.636 二三木 多々狸の記録

むかしむかし:参

むかしむかし

この地区が『北摩市』と呼ばれ始めるちょっと前、北多摩を舞台とする様なそのむかし
今や4区を繋ぐモノレールは計画すらなく、在来線が各地を繋いでいた様なそのむかし

ちかちかと規則正しく輝く明かりの中で、かんかんと打ち鳴らす音の中で
いっぴきの女が目を覚ましたのがすべての始まりであるものだったのです

「よし、これで……成功したんか?」


とはいえ一つ、語弊があるもので。それが"女"というのは体の話
体を動かす意識や魂といやぁ男。則ち"雄"であったと自認を持っていたのです
ひょんなことでそれ体を動かすに至る、違和感だらけの現状はさておいて
そんな神様気取りの罪な命、己の犯した過ちに気づいてはおりませぬ

そいつが己を顧みる前に、頭を記憶ががんっと殴りましょう
憑いた雄は齢十を踏めばいい方か、憑かれた女は十も半ばを超える程
ふたつの記憶が溶け合う中で、己の生涯を先に使い果たしたのは雄
遺された走馬灯。女の生涯と言えば、終ぞ視界を包む明かりで見失い……

しゃり、と

その身が砕けた音も感触も、女は感じることはありません。その間すらなくあっけない幕切れでした
唯一、その身のみが知った不幸を、乗っ取った雄の魂はなぞる。直視するべきでない全てを鮮明にです
体が散り散り、耐えられない程の衝撃でありましたので。走馬灯だとしても例外ではありません
女となって一分の針が回りきるかどうかの寸毫の刻。雄の魂はかくも儚く千切れてしまったのです

過去にたった一度だけ古い踏切が止まり、列車が気付かぬ内に起こした事故の記憶
夕暮れ時の帰り道、星を探した女学生の不注意。田舎を走る電車の速さ。それと重なっただけなのです
それは当時故に記録に残らぬまま、ことが起きたと知られないまま闇の中へと消えた過ち

現場に遺されたのは狂ったように鳴り響き周囲を燃やすように赤く照らす壊れた踏切のみ
誰かが曰く、アレは泣き叫んでいると。三日三晩続き、やがて完全な故障をするまで続いたそうな……

「わすれないで」


ですがこのように。起こってしまったことは語られる。世界がそれを"物語る"
それを以て、その経緯の一つを語り聞かせられたと言う事でしょう

"承"の話はこれで終い。次は"始"について語ることが出来れば、と