Eno.161 リゼルヴァ・スプラウト

~休題~ 壱

親父義父は、所謂聖書や教会関連で描かれる天使って奴の一人だ。
普段は人間として潜伏していて、其の潜伏先が、俺の出生国――ヴァーチャシティだ。

俺達の“世界”における天使とか悪魔とか、そういう連中にも人間社会みたいな派閥が在って、親父は元々穏健派だった。
そして同時に、(聖書とかに書かれるグリゴリとは別で、特に堕天とかはしていないまま)人間と心を通わせ、結ばれ、子を成す道を選んだ一人だった。

だった、って、過去形なのは……



殺されたからだ。義母さんも、義姉さんも。



親父の親友だった人間が、親父の能力による出世に溺れて、堕落して。
義母さんと義姉さんを人質に、此れでもかと甚振って、翼を、眼を……
結局、人質にされていた二人も、殺されて。

当時の上司は、国の司法に金を握らせ(ヴァーチャシティでは良くある事だが)有耶無耶にし、無辜の別人に濡衣を被せ。
親父の存在すら、無かった事にした。

命からがら、路地裏に逃げ込んで。
親父自身も(其の時は)もう、幾許も無くて。

許せなかった。こんな現実、どうして受け入れられようか。

だから、俺は親父の“選択”を、受け入れた。
――親父の、天使としての“核”の欠片を、俺に埋め込んで。
呪術師としての才能を開花してもらって。

俺自身が“器”と成り、昇華し――彼の者共、彼の国に粛清報讐を齎す。

受け入れたのは、他ならぬ俺の意志だ。
親父が受けた痛みは、俺の痛みも同然なのだから。



そして。
そんな時だ。


「いやぁ見事見事。
 “世界”が違うとは言え、此処まで実力が有って、やる気も充分な人材は貴重だと僕は思うんだー」


――推定、『手帳』によって来訪した異邦異世界人。
やけに明るく、軽率にグイグイ来る感じの術師と遭遇したのは。