RECORD
Eno.896 百堂 巡の記録
それは、部活動を終えて塾へと向かう途中のこと。
少しだけ長引いてしまった分の時間を取り戻そうと、近道になりそうな横道に入ったことは覚えている。横道を抜ければそこにはちょっと古臭い服の並んでいるリサイクルショップがある、はず、で。
けれど、そこにあったのは横断歩道だった。
道を間違えたんだ、と思って、振り向いた。
コンクリートの壁があった。
一瞬何が起きたのか分からなくて、いや、多分それからもずっとよく分かっていなかった。
とりあえず知っている道に出ようと思って、横断歩道を渡って歩き出す。さっきまでより夕焼けがやけに真っ赤に見えるのが本当に不気味で、とにかく自分の見知った場所まで戻りたい気持ちでいっぱいだった。
方角だけは合っているはず。
祈るような気持ちで歩いていた時に、変なものが見えた。
!
黄色い、ひし形の標識。
ごく普通の標識だった。
見たことも無いような黒黒としたエクスクラメーションマークと、それが道路のど真ん中にたったひとつだけ忽然と立っていることを除けば。
通りたくない。
咄嗟にすぐ近くの角を曲がる。
ふっと空が明るくなったような気がして顔を上げると、そこには見慣れたリサイクルショップがあった。
▽
「ーーってコトがあったんだけど」
「寝惚けるにはまだ早いですよ、まだ21時じゃないですか」
「ね〜、嘘だと思ってんだジュンちゃん先生」
「嘘だなんてそんな。夢だと思ってるだけです」
「ね〜〜〜!」
ホントなんだって!と上がった声を緩やかに持ち上げられた片手が無言で窘める。むすっとした顔のまま少し勢いよく机に突っ伏したセーラー服の背中を、ほとんど伏せられている眼差しが見下ろした。
西部地区の片隅、百堂塾。
今日最後の授業の片付けをさくさく進めながら、塾長でもある講師はおもむろに口を開いた。
「まあ、何です。寝る前に白湯とか飲むといいですよ。寝つきが良くなるので」
「マジでやばかったんだって〜……」
「そんなに怖いなら大通りまでは送ってあげますから。はい、支度して」
どう見積っても言い分を信用していない講師の口振りに、教え子はふくれっ面のままで教科書を鞄に突っ込んでいく。まあ信じられたらそれはそれでやばいよ。しょうがない。
文句も一緒に閉じ込めたショルダーバッグを背負って、歩き慣れた板張りの廊下を辿って玄関へ歩いていく。
まったく信じていないなりに不安は察してくれたのか、いつもの派手な羽織が少し後ろから宣言通りに着いてきてくれているのが見えた。
「てか先生ホラーとか平気なの?」
「心霊写真とかは割と疑っちゃいますね、シュミラクラ現象って知ってます?」
「何その口に出したい感じのやつ」
「じゃあ帰り道はその話をしましょうか」
それなら怖くないでしょう。
ぽん、とそんなに大きくもない手が背中を軽く叩く。からからと引き戸を開けて夜の街を目にしたところで、教え子は第二の恩師の方へ振り向いた。
「今のセクハラだかんね」
「えっ」
s01.ある学生の怪談
それは、部活動を終えて塾へと向かう途中のこと。
少しだけ長引いてしまった分の時間を取り戻そうと、近道になりそうな横道に入ったことは覚えている。横道を抜ければそこにはちょっと古臭い服の並んでいるリサイクルショップがある、はず、で。
けれど、そこにあったのは横断歩道だった。
道を間違えたんだ、と思って、振り向いた。
コンクリートの壁があった。
一瞬何が起きたのか分からなくて、いや、多分それからもずっとよく分かっていなかった。
とりあえず知っている道に出ようと思って、横断歩道を渡って歩き出す。さっきまでより夕焼けがやけに真っ赤に見えるのが本当に不気味で、とにかく自分の見知った場所まで戻りたい気持ちでいっぱいだった。
方角だけは合っているはず。
祈るような気持ちで歩いていた時に、変なものが見えた。
!
黄色い、ひし形の標識。
ごく普通の標識だった。
見たことも無いような黒黒としたエクスクラメーションマークと、それが道路のど真ん中にたったひとつだけ忽然と立っていることを除けば。
通りたくない。
咄嗟にすぐ近くの角を曲がる。
ふっと空が明るくなったような気がして顔を上げると、そこには見慣れたリサイクルショップがあった。
▽
「ーーってコトがあったんだけど」
「寝惚けるにはまだ早いですよ、まだ21時じゃないですか」
「ね〜、嘘だと思ってんだジュンちゃん先生」
「嘘だなんてそんな。夢だと思ってるだけです」
「ね〜〜〜!」
ホントなんだって!と上がった声を緩やかに持ち上げられた片手が無言で窘める。むすっとした顔のまま少し勢いよく机に突っ伏したセーラー服の背中を、ほとんど伏せられている眼差しが見下ろした。
西部地区の片隅、百堂塾。
今日最後の授業の片付けをさくさく進めながら、塾長でもある講師はおもむろに口を開いた。
「まあ、何です。寝る前に白湯とか飲むといいですよ。寝つきが良くなるので」
「マジでやばかったんだって〜……」
「そんなに怖いなら大通りまでは送ってあげますから。はい、支度して」
どう見積っても言い分を信用していない講師の口振りに、教え子はふくれっ面のままで教科書を鞄に突っ込んでいく。まあ信じられたらそれはそれでやばいよ。しょうがない。
文句も一緒に閉じ込めたショルダーバッグを背負って、歩き慣れた板張りの廊下を辿って玄関へ歩いていく。
まったく信じていないなりに不安は察してくれたのか、いつもの派手な羽織が少し後ろから宣言通りに着いてきてくれているのが見えた。
「てか先生ホラーとか平気なの?」
「心霊写真とかは割と疑っちゃいますね、シュミラクラ現象って知ってます?」
「何その口に出したい感じのやつ」
「じゃあ帰り道はその話をしましょうか」
それなら怖くないでしょう。
ぽん、とそんなに大きくもない手が背中を軽く叩く。からからと引き戸を開けて夜の街を目にしたところで、教え子は第二の恩師の方へ振り向いた。
「今のセクハラだかんね」
「えっ」