RECORD

Eno.32 不藤識の記録

record. 『日常の裏側、底なしの空』

 久しぶりに普通の日だった。
 学校で駄弁って、適当に弁当を食べて、塾に行って、帰る。
 あぁ、なんて普遍的な日。これこそが日常。
 誰かの誕生日を祝うプレゼントを考える。誰かが空きっ腹だったから欲しがっていたものを与える。明日のカラオケに向けて曲を聞き直したり、なんでもレンチンしようとする店員という恐怖体験もした。
 最後のはちょっと違うな、非日常だこれ。
 何はともあれ、裏にいくこともなく、息を抜けた日だった。


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 そう思っていたこともあった。
 ここは何処だと辺りを見渡せば、一面に潮が満ちている。足元に空が広がっている。
 いつの間に迷いこんだ?そう思っても原因は不明。
 確かに月見台を散歩してから帰ろうとは思ったけれど、近頃は裏世界の動きが変だ。
 或いは、絶望的に運が悪いのか。

 ああ神様、どうして。
 何故私は、神秘蠢く世界に生まれたのでしょうか。
 何故、どうして。

 考えても考えても、己の境遇には疑問が残る。
 捨て子。孤児。内に神秘がふたつ。
 均衡は取れておらず、いつもアンバランス。
 定期的に裏に潜らないと、身体も休まらない。

 こんな体質要らなかった。
 こんな日常欲しくなかった。
 悪運の強さだって、嫌になる。

 あぁ、不平等。そう、実に不平等だ。
 最初から、そもそも無かったんだから。


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 そうして暫し、観察と思考を繰り返した後。
 己を呼ぶ声がしたので振り返る。

 そこに居たのは、人魚だった。
 探していた人、美しいヒレを持った麗しの少女。
 本当に人魚そのものだとは、思っていなかったけれども。

 ただ。……儚いな、と。
 初対面の元気さとは裏腹に、その印象だけが強く残った。