RECORD

Eno.59 墓畑次郎の記録

悪の組織

FICSA(Fictional Science Ascension/虚構科学の昇華)

FICSAは、科学に偽装された神秘を信仰する集団であり、ポストヒューマン思想を掲げる過激派組織だった。
すでにアザーサイドコロニストを筆頭とした各機関の連携により壊滅しているが、その危険な思想性ゆえ、現在も広域指定神秘犯罪団体として資料に記録され続けている。

彼らの教義は、かつて作家アーサー・C・クラークが述べた第三法則───

十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないny sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic

───を逆手に取った思想に基づいている。

FICSAは、神秘と科学の境界線は極めて薄いものであると定義した。
彼らにとって、科学とは不完全な神秘の一形態にすぎない。
人類の認識は時代や文化によって変化し、「神秘」と「科学」の境界もまた曖昧だ。
たとえば、現代人にとっては日常的なスマートフォンやGPS衛星も、100年前の人間には“空と会話する魔法の板”に見えるだろう。
これは、観測者の知識や時代背景によって「神秘」と「科学」が入れ替わることを意味している。
FICSAは、この「認識の相対性」こそが、現代科学に内在する悪質な神秘性であると考えている。
全人類が持ちうる認識に基づき、「すべての神秘は科学で説明できる」とする全称命題が支配的になっていく現代において、FICSAはそれを“認識による解釈の暴走”とみなす。

彼らは言う───科学は神秘の剥製である。
雷や疫病、地震といった自然現象も、かつては神や悪霊の仕業とされたが、いまでは科学的に説明されるようになった。
FICSAはこのプロセスを、「神秘の力を科学の枠に押し込め、無力化する行為」と捉える。
すなわち科学とは、「世界に存在する本来の神秘を、“わかったこと”に変えてしまう神秘の屍」であり、
科学的・・・」とされるものは、実際には低俗な理論によって貶められた神秘にすぎない――それは、
真の理解や融合を拒絶された末の“神秘の死骸”なのだ、というのが彼らの見解である。

FICSAは言う。
科学とは、低次な神秘の模倣でしかないと。
観測者の理解が追いつかない場所には、いまもなお“真の神秘”が脈動している。
だからこそ人間は、科学による解明ではなく、神秘そのものへと還ることで、“進化”すべきなのだ。

このようにFICSAは、表世界の科学を「神秘を殺す文明」と見なし、
代わりに“神秘のままの存在”を受け入れ、それと融合することを人類の進化と主張した。
彼らはこの思想を反動進化論レトログノーシスと呼んでいた。