RECORD
Eno.475 至藤留樹の記録
『潤色』
幼少期のことは、正直よく覚えていない。
せいぜい幼稚園の送り迎えの時に母親が車の中で好きな曲をかけてくれたとか、幼稚園の劇で桃太郎のおじいさんの役をやったとか、クリスマスに変身ベルトのおもちゃが欲しいとサンタさんにお願いしたら欲しかった主人公のベルトじゃなくてその相棒のベルトをもらってちょっと複雑な気持ちになったとか、思い出せることといえばそのくらいだ。
だから父親のことだって、よく覚えていない。
母の話によれば、そんなに悪い人ではなかったという。ただちょっと折り合いが悪くなったから、一緒に暮らしていくのが難しいと思ったから、別れただけ。
僕のこともちゃんと可愛がってくれていて、特段嫌っていたわけではないらしい。
そのわりには、養育費は途中から届かなくなって、誕生日プレゼントも小学校の2年生か3年生か、そのくらいにはぱったりと止んだけど。
まあ、無闇に責めることもできない。あの人もあの人でまた別に家庭を持って、そちらが忙しくなったのかもしれないから。
僕を養うために、母さんが夜の仕事を始めたのもそれと同じ。仕方のないことなのだ、きっと。
実際、母さんは女手一つでよくやっていたと思う。
昼夜逆転の生活をしながらも授業参観には出てくれたし、夕食だって作り置きしてくれていた。
誕生日だってクリスマスだって忘れたことはなかったし、「一人にしてごめんね」っていつも口癖のように言っていた。
立派な母親だった、と思う。
当時の僕は幼すぎて、それがまだ理解できなかったけれど。
ただほぼ毎日別人のように着飾って、学校から帰ってきた僕と入れ違いに家を出ていく母さんのことをうっすらと不気味に思っていた。
いつもの母さんは好きだけど、普段ならつけない真っ赤な口紅を塗って、少し派手なドレスを隠すようにコートを着て家を出ていく母さんはなんとなく怖かった。まるで、知ってる人がいきなりモンスターになってしまったような、そんな気持ち悪さを感じていた。
母さんの方も、僕が内心自分の仕事をよく思っていないことと、年端もいかない僕を一人にすることに後ろめたさを感じていたのだろう。
小学4年生の頃に、僕は叔父さんの家に預けられることになった。
叔父さんとは年に一、二回会うか会わないかの仲だったけど、いとこの凛生とはそこそこ仲も良かったし、きょうだいができたみたいで嬉しいと言われて、僕もそんなに悪い気はしなかった。
叔母さんも優しいし、凛生とはゲームで盛り上がれたりして、叔父さんの家には早々に馴染めたけど、叔父さんにはなんとなく苦手意識があった。
僕を預ける相談をした時、叔父さんが異常な剣幕で母さんを責め立てていた姿がずっと頭の隅に張り付いて離れなかったから。
せいぜい幼稚園の送り迎えの時に母親が車の中で好きな曲をかけてくれたとか、幼稚園の劇で桃太郎のおじいさんの役をやったとか、クリスマスに変身ベルトのおもちゃが欲しいとサンタさんにお願いしたら欲しかった主人公のベルトじゃなくてその相棒のベルトをもらってちょっと複雑な気持ちになったとか、思い出せることといえばそのくらいだ。
だから父親のことだって、よく覚えていない。
母の話によれば、そんなに悪い人ではなかったという。ただちょっと折り合いが悪くなったから、一緒に暮らしていくのが難しいと思ったから、別れただけ。
僕のこともちゃんと可愛がってくれていて、特段嫌っていたわけではないらしい。
そのわりには、養育費は途中から届かなくなって、誕生日プレゼントも小学校の2年生か3年生か、そのくらいにはぱったりと止んだけど。
まあ、無闇に責めることもできない。あの人もあの人でまた別に家庭を持って、そちらが忙しくなったのかもしれないから。
僕を養うために、母さんが夜の仕事を始めたのもそれと同じ。仕方のないことなのだ、きっと。
実際、母さんは女手一つでよくやっていたと思う。
昼夜逆転の生活をしながらも授業参観には出てくれたし、夕食だって作り置きしてくれていた。
誕生日だってクリスマスだって忘れたことはなかったし、「一人にしてごめんね」っていつも口癖のように言っていた。
立派な母親だった、と思う。
当時の僕は幼すぎて、それがまだ理解できなかったけれど。
ただほぼ毎日別人のように着飾って、学校から帰ってきた僕と入れ違いに家を出ていく母さんのことをうっすらと不気味に思っていた。
いつもの母さんは好きだけど、普段ならつけない真っ赤な口紅を塗って、少し派手なドレスを隠すようにコートを着て家を出ていく母さんはなんとなく怖かった。まるで、知ってる人がいきなりモンスターになってしまったような、そんな気持ち悪さを感じていた。
母さんの方も、僕が内心自分の仕事をよく思っていないことと、年端もいかない僕を一人にすることに後ろめたさを感じていたのだろう。
小学4年生の頃に、僕は叔父さんの家に預けられることになった。
叔父さんとは年に一、二回会うか会わないかの仲だったけど、いとこの凛生とはそこそこ仲も良かったし、きょうだいができたみたいで嬉しいと言われて、僕もそんなに悪い気はしなかった。
叔母さんも優しいし、凛生とはゲームで盛り上がれたりして、叔父さんの家には早々に馴染めたけど、叔父さんにはなんとなく苦手意識があった。
僕を預ける相談をした時、叔父さんが異常な剣幕で母さんを責め立てていた姿がずっと頭の隅に張り付いて離れなかったから。