RECORD

Eno.530 莱 三十三の記録

#3 考えすぎだよ

その日の私は、黄色いネコの代わりに
朧ながらも深刻な不安を抱きながら眠ることになった。

経験したことの無い状況に置かれて不安を感じるのは当たり前、
……失敗しても許されるような頃というのもほんのひとときだ。

お母さんや友達、学校の先生……運よく出逢えた優しい人達は
私の一挙手一投足を褒めて、促して、褒めてくれる。
その中にあるはずの否認は全て、
慎ましい代替案の提案という無縫の天の衣を着せられ、
美麗で賢明な尊顔のみをこちらに窺わせる。
貴女を傷つけさせまいと、全ての言葉に包みを施す。
それは真意が分からないほどの巨大な善意を纏っている。
私の言葉は陳腐なこと、ただ「ありがとう。」に収束する。

でも、それはもう昔の話。 今の私は間違いなく
「ありがとう!」を言われるべき側に足を進めつつある。
進めなくちゃならない。もう踏み越えた土壌に花は増えない。
……これから向かう先をあれちにしてはならない。

「……そうだ、何もせずに眠ってなんていられない。」

「こんな時間になっても帰ってこないだなんて、絶対におかしいもん。」



静かなひと部屋に 布のこすれる音だけが響く。
車の行き交う喧騒も この夜更けには存在しない。
そんな時間帯であるのにもかかわらず、
自室と外とを隔てるきょうかいからは
不気味な茜がうっすら伸びてきているように感じた。
……誘っているのだ。

でも、なんの為にアレを助けに行く?


……

契約は破綻しているようなもの。このままアレを捨て置いておけば
無意味なしがらみから解放される。
人に威力的に立ち向かう予定なんて無くなる。
何度も何度もあっちに関わる必要が消え失せる。

賢くなりたかったんだろう?



凝り固まった考えだ。



「……当然この先には居ない可能性もある。
そりゃあ危ないけれど、ひたすら逃げる。諦めはしない。」



「どうしようもなく、どうにかしたい……
拾って帰る事くらいなら……私にもできる!」


冷たいノブに 無謀にも汗に濡れた手を掛け
非力ながらに、裏世界への門扉を開いた―――!!



「ふあ〜ぁ……ただいまぁ。」



ところがどっこい 壮大な覚悟を決めたその先の暁には
見慣れた黄色い毛並みを携えた浮遊物体……
件のパステルが、ただただ眠そうな面持ちをして居た。



今世紀最大の覚悟は、馬鹿馬鹿しい最期を遂げました……


……行こうと思えば、簡単に行くことができてしまう裏世界。
身を晒せないパステルにとってはそちらの方が好都合なのだ。

危険なことばかりでも……ないのだろうか?