RECORD

Eno.26 朔 初の記録

やっつめ

デコレーションされたケーキはいつも不格好だ。

指をさされて笑われる始末だろう。

クリームの飾り付けはくしゃくしゃに潰れていて。
いちごの位置は歪んでいる。
笑う奴らの性根のようだった。

ケーキを顔面に叩きつけた。

まわりから指をさされた。

「こんなにおいしそうなのに!」

「材料が勿体無いのに!」


地面に落ちたケーキから、砂糖の甘ったるさがのぼってきている。
ひしゃげたいちごには、蟻の群れがたかっていて。
白いクリームは、泥だらけとなって暗く濁っている。

スポンジが水を吸い込んだ。

フォークをそれに伸ばせば、乞食じゃ無いかと罵られる。
得体の知れないバイ菌でも食べようとしている扱いの良さ。
銀のフォークの輝きだけが確かだった。


その先端の鋭さだけが確かだった。








朔初は疑問だった。

これは夕暮れ時の帰り道であり、黄昏時であり。
現実として正しい時間の、影の伸びる頃であった。
おろしたてのローファーの底が歩くたびに音を立てる。
マントはゆるりとたなびいていた。
朔初の今現在起こる思考のように。

──勉強会というものは必要なのだろうか?

3人集まれば文殊の知恵といえど、クラスを集めて行う勉強会は人数がいささか多いのでは無いかと思った。
学校の授業や塾とは異なり、監視役が居ない。
全ているものが平等の場において、一つの目標に取り組むこと。
それによって得られる成果や過程が“楽しい”ものであるならば、求めるもののため一点に突き進むのも容易いことだろう。
が、今回は“テストで赤点を取らないため/いい点を取るため”であった。

あまりにも怠惰な目標である。

それは毎日の積み重ねがあればどうとでもしようがあり。
それは毎日の復習と予習があればどうとでもなる。
おそらく、テスト勉強を口実に、ただ話すための場がほしいだけなのだろう。遊ぶ場が欲しいだけなのだろう。
それが本当に正当な学び合いの場になるのか、朔初はいささか愚問に思えて仕方がなかった。

それは、堕落しているように感じられた。

「……」

必要がなく、必要がない。
友達はおらず、何か勘違いしているあの生徒は、阿呆なのだろう。
嫌味ったらしく、頭の悪い。
腹が立つこともなかったが、そう思った。

「…」

今日はバイトだ。忙しいのだ。
少しでもお金を積み立てておきたいところだった。
朔初は足早に帰路に着く。


夕焼けの影は伸びていた。






朔初は疑問に思わないようにしていた。

あの軽さを。

あの食事への視線を。


疑問に思わないようにしていた。

虚構が現実に侵食するみたいで、不快だったから。