RECORD

Eno.404 鋼牙 ユウの記録

実験動物

 
ゆう。それじゃあお母さん、
 研究で二週間家空けるからね。」

「台所に生活費置いておくから、
 一人で何とかしておいて」

「………」


中学2年の春。自宅。
お化粧や大人っぽいファッションに興味が出てきたその頃は、
もう既に、母親と同じ空間でご飯を食べることは稀だった。

知らない薬品と香水が混ざった匂い。
自分の家だというのに、まるで酸素が薄くなったみたいに息苦しい。
居心地が悪い。

「聞いてるの?戸締まりしっかりしてね。
 それじゃあね」


廊下の向こうから、ブランドバッグの金具がカチャカチャとぶつかり合う音と、
忙しない足音が聞こえて来て、それきり家は静かになった。



……一応、血は繋がっている。
だけれど親子らしい温度とか、よくテレビで見る円満な家族、みたいな空気は
まるで感じられない。
多分あの人は、わたしの事を実験動物か何かだと思っているんだろう。

今よりずっと幼い頃や、まだお父さんがいた頃は、
甘やかしてくれたり家族でお出掛けをした記憶があるのだけれど。




『お母さん
 学校の寮に入るのに保護者のサインが必要なの』

『帰って来て』

最後に会ったのは、
高専の入学手続きのための連絡を送った翌日だった。

その時母がつけていた高い香水の匂いをなぜかよく覚えていて、
たまに街で同じものが鼻をかすめると、気だるい気持ちになる。