RECORD
Eno.26 朔 初の記録
わたしがあしたをゆめみます
わたしがあしたをわらいます
わたしがあしたをあるきます
わたしがあしおとかなでます
わたしは、
◇
──時は4月。
春の陽気が漂い始めているのは遅れているらしい。
桜並木には蕾すらついておらず、道端のたんぽぽは色鮮やかな黄色を咲かせてはいなかった。
まだ冬かと思うような寒気が町中には溜まっていて、行く人々はコートを着る物も多い。
社会人であれ。
老人であれ。
学生も。
「……」
──緋色の裏地がひらりと、映えた。
彼女がきているのは、コートではなかったが。
風に待ってたなびく、立襟のそれはマント候なりて。
目を引くのは時代錯誤な格好だ。
下駄の音なんて鳴りはしないがね。
バンカラさんは人の隙間を歩く。
恥もせず、興味がない。
周りの奇異な視線は興味がない。
実際、そんな視線もあまり向いていなかった。
この街では、この街の外に比べて派手な制服の多いこと、多いこと。
変わり種の一つとして見られておしまいだろう。
ミニスカートの縁が揺れる。
しっかりアイロン付されたプリーツの裾。
膝より上に折り曲げる。
だって動きづらいし。
動かなければ、足元はマントが覆ってくれるし。
今は、足が堂々前へと出ているのだが。
帽子を直す。
ボリュームのある二つ結びが引っかかりがちだった。
紫のリボンで結ぶように。
縮毛矯正の一つでもかければいいが。
あいにく、そんなお金もない。切ってシャンプーの美容院。
新しいとこ探さなきゃな。どうでもいい話。
詰襟を治す。
珍しい制服。女の子であっても学ランが制服として指定されている。
中学の間は眺めるばかりだった服装が、今自分が着るべき服となっている。
なんだか、息苦しいような。
別にそんなこともないような。
不思議な心地だった。
ボタンは上まで閉じられているから。
うねった二つ結びはマントと一緒にたなびいた。
行き先はわかっている。ちゃんと覚えている。
地図なんてなくても。
小柄は人の間を縫うように。
入学式も終えた登校日。
スマートデバイスの引っかかる手首。
束都グループ、西武地区。
春風と共にやってきたわけではない。
どちらかといえば、冬の冷たさと一緒に。
ローファーで地面を叩いた先。
見上げて見せれば、学舎だ。
陽出高等学校校門前。
──朔初はテクノポリスに移住する。
「……はあ、」
重いため息と共に。
ひとつめ
わたしがあしたをゆめみます
わたしがあしたをわらいます
わたしがあしたをあるきます
わたしがあしおとかなでます
わたしは、
◇
──時は4月。
春の陽気が漂い始めているのは遅れているらしい。
桜並木には蕾すらついておらず、道端のたんぽぽは色鮮やかな黄色を咲かせてはいなかった。
まだ冬かと思うような寒気が町中には溜まっていて、行く人々はコートを着る物も多い。
社会人であれ。
老人であれ。
学生も。
「……」
──緋色の裏地がひらりと、映えた。
彼女がきているのは、コートではなかったが。
風に待ってたなびく、立襟のそれはマント候なりて。
目を引くのは時代錯誤な格好だ。
下駄の音なんて鳴りはしないがね。
バンカラさんは人の隙間を歩く。
恥もせず、興味がない。
周りの奇異な視線は興味がない。
実際、そんな視線もあまり向いていなかった。
この街では、この街の外に比べて派手な制服の多いこと、多いこと。
変わり種の一つとして見られておしまいだろう。
ミニスカートの縁が揺れる。
しっかりアイロン付されたプリーツの裾。
膝より上に折り曲げる。
だって動きづらいし。
動かなければ、足元はマントが覆ってくれるし。
今は、足が堂々前へと出ているのだが。
帽子を直す。
ボリュームのある二つ結びが引っかかりがちだった。
紫のリボンで結ぶように。
縮毛矯正の一つでもかければいいが。
あいにく、そんなお金もない。切ってシャンプーの美容院。
新しいとこ探さなきゃな。どうでもいい話。
詰襟を治す。
珍しい制服。女の子であっても学ランが制服として指定されている。
中学の間は眺めるばかりだった服装が、今自分が着るべき服となっている。
なんだか、息苦しいような。
別にそんなこともないような。
不思議な心地だった。
ボタンは上まで閉じられているから。
うねった二つ結びはマントと一緒にたなびいた。
行き先はわかっている。ちゃんと覚えている。
地図なんてなくても。
小柄は人の間を縫うように。
入学式も終えた登校日。
スマートデバイスの引っかかる手首。
束都グループ、西武地区。
春風と共にやってきたわけではない。
どちらかといえば、冬の冷たさと一緒に。
ローファーで地面を叩いた先。
見上げて見せれば、学舎だ。
陽出高等学校校門前。
──朔初はテクノポリスに移住する。
「……はあ、」
重いため息と共に。