RECORD

Eno.106 芟花艾の記録

𝘛𝘩𝘦 𝘎𝘦𝘯𝘵𝘭𝘦 𝘏𝘢𝘯𝘥𝘴 𝘈𝘳𝘦 𝘎𝘰𝘯𝘦

父さんが亡くなったのは萌花が小学校上がる前の頃だった。
遠方の仕事ばかりで殆ど家にいなかったけど、たまに帰れば
疲れているだろうに、目いっぱい俺達に構ってくれた、優しい父さん。

『また暫く、家に帰れないから』


撫菜なずなさんと萌花の事、よろしくね』


半泣きで健気に、お守りなんかを渡す妹に対して
俺は不愛想に「うん」と呟くのがやっとだった。

本当に運がなかったと思う。娘の入学式も迎えず逝ってしまうなんて。
遺体はひどい有様らしく、俺達は見るのを止められたけれど
青ざめた母さん一人合わせる訳にはいかなくて、萌花を預けて安置所に連れられた。

――そこで知った。
すっかり変わってしまった父さんを前に、これがただの事故でない事を。
『神秘』というものを。……母さんや父さんが、そういうのに関わる仕事をしてたってことを。

原因が、萌花の体質に寄るものだったってことを。


薬やまじないで直るもんなら『神秘氾濫』なんて起こす人間はいなくなる。
父さんと母さんは萌花の体質が分かった頃から、大分苦労をしてたみたいだ。
父さんが亡くなった後も、母さんは懸命に萌花を支えてきた。

そんな母さんももういない。残された家族は俺一人。


「……もう遅いけど、父さん。約束は必ず守るから」




ひとり呟いて、夕闇に足を踏み入れる。