RECORD

Eno.368 煤掛ヶ原 黎瑛の記録

雑音

今日はどうも周りの気配がそわそわしていた。
なんだろう、と思って聞き耳を立ててみたけれど、どうやらノーブル会主催のお茶会なるものが開催されてたとか。
まあ、普通は学連が違う学校に出入りすることなんてないしね。ノーブル会のエリアになんか尚更だ。工業系男子には縁がなさすぎる。
単純に交流目的……と受け取るのは果たしてどうなんだろう。と思いはしたけど、よく知りもしないことを勝手に邪推するのはよくないことか。
というわけだから、つまりうちのキャンパスでもなんかそういう感じだったよってことで、それはそれでいいんだけど。

おれは生憎、出さないといけないレポートを抱えてたから、今日は日が暮れるまでずっとキーボードと格闘してた。
おかげでレポートはなんとか間に合ったよ。これ一つ落としたからって、そうそうまずいことにはならないけど。積み重ねが大事だからね。
伝え聞いた話によると、お茶会はなかなかに盛況で……本当に人が多かったらしい。
全く興味がないわけじゃないけど(卯ノ花ちゃんの学校でもあるしね)、その話を聞いたら、やっぱり行かなくて正解だったなと思う。

昔からどうもおれは、人の多すぎるところが得意じゃない。
理由は明白だけど、だからこそ、対処がしにくくて本当に厄介だ。
小さい頃には自分でどうにも出来なかったから、家族で出かけるのは静かなところばかりだった。
子供の行きたがるような、遊園地だとか、そういうところに行った記憶はない。
まあ、おれが小さい頃には兄ちゃんはもう大人だったから、そういう点では年が離れててよかった。近い兄弟だったら、おれのせいで兄ちゃんに我慢させてたかもしれないし。

おれの力は、人の感情や思考を読めるほど、強いものじゃない。
ただ周囲に人が増えると、話し声が増えるのと同じようにして、頭の中にもざわざわとした何かが増えていく感覚があった。
音ではないけれど、例えるなら、限りなく雑音に近いもの。
少人数なら、もしくは一定の距離を保てていれば、自分の思考で遮断することは出来る。
だけど接触が避けられないほどたくさんの人が近くにいると、遮断するのはかなり難しくなった。
頭の中に一気に雑音が溢れてしまう。その状態から抜け出す為には、自分の思念を強める必要があった。
入り込んでくるものを、内側から弾き返すイメージ。言葉にするのは簡単だけど、加減がなかなか難しい。
もしも加減を間違えてしまったら。その場に、おれと同じくらいの力を持った人がいたなら。その人にも影響を与えてしまいかねないくらいだから。
もちろん、そうならないように訓練はしているし、神秘管理局にはその都度報告はしている。ほとんど無意識に起こることだから、おれにとっては力を使ったというほどの感覚はないけど、外部から見ればそうではないようだから。

思念を受け取ること、思念を発すること、それから神秘を感じ取ること。
思念と言ったって、先に言った通り、単なる雑音だ。そこからは何も読み取れない。
おれの思念だって、受け取る相手がいないなら、発したところで何の意味もない。
もしいたなら? それならそれで、その人だって、何にも言わずに秘密にしてくれるだろうからね。
何かある度に、ESPを行使したと毎回ちゃんと報告はしている。しないと面倒なことになるし。
おれは別に構わないけど、家族に迷惑をかけるのは避けたい。今までだって、十分に面倒に巻き込んでしまっているんだから。
みんなのなんでもない、平穏な生活を守らなきゃいけない。それくらいしか、おれに出来ることは、今はないんだから。

……そういえば、おれのこの力をESPと呼んだのは所長だったんだよなあ。
その分類が本当に正しいのかどうかは、おれには何とも言えないけど。通じているなら、きっとあながち間違いじゃないんだろう。
教えてあげたなら、たぶんとても喜んだんだろうな。こういうことに関しては、本当に子供みたいに好奇心旺盛な人だったから。