RECORD

Eno.14 卯日 蜜奈の記録

ベツレヘムの星を探して





紅茶と、ささやかなシナモンの香りを思い返しながら、
話したこと、学んだことをまた振り返る。

あたしのすることで、喜んでくれる人がいること。
ただ居るだけで、喜ばせることもできるんだってこと。

仕事としてでも、メディアに乗っては誰かに気持ちを伝え、
友達と真摯に接して、胸にある暖かさを分ける、そんな日々がずっと続いている。

……続いている。今は。

「俺の力が、喰らい、それを分け与えるものなら。
 あんたのそれは、自分の持つものを調理し、ただ分ける力だ」


「体力気力を全部使い果たすぐらいならいい。だが」
「手前が身を削ろうとおもえば削れてしまう。消えてなくなるまで」



あたしは、あたしだけのものじゃない。だから気ぃつけなって。険しい顔であの人は言う。
でも、「反抗期なら少しぐらいはいんじゃないかな」とも、少しいたずらな声色で。

あんな人がついてくれていた桜空先輩が羨ましいな、なんて思って。

浮かんだ夢に向かって歩いて、
積み重なる世界への接し方を学んでいって、ふと気づく。



(あたしの居場所は、どこにあるんだろう。)



あたしは。
束都とノーブル会の、どちらでもあるところに立つ。
天から授かった言葉と、地に足付く皆とやりとりした言葉を聞いて立つ。

都合のいい誰かのいる夢と、それに追いつかんとする現実の、境界に立っている。

居場所自体はある。そこにいたくて、そこにいてほしいと思われているのを知っている。
でも具体的に───どこに立っているかと言われれば、少し不安になるのだ。

クラスメイトの子が、『どっちも想い出を作っていけるのはラッキーだ』と言ってくれて、
ほんの少しだけ救われた気分にもなった。

選んでもいいと。どっちつかずこそが、あたしだけのものであると。



(虚飾を纏っている?)


主は見ておられる。どんなに着飾っていても、本質を見通す。

天からの言葉を手繰る自分が。メディアのために形作る明るい自分が。
夢の世界で、都合のいい"誰か"と恋に落ちる夢のあたしが。
そんなあたしをひた隠しにして不器用にも頑張る現実のあたしが。

纏わりついている。首に、足に、
それを引き摺って、まだ遠くへ歩いている。

誰かに見せるために繕った、自分のことは、好きだ。
でもそのための努力を楽しいとは───正直、思えていないかもしれない。

やりすごせて、よかったと安堵する。
どれだけ綺麗なことを聞かせて、見せられていても、
臆病なあたしが、本当の自分を見せることを拒む。



現実は。真実の愛が、白馬の王子様が、
ただ横たわるだけのあたしを美しいと囁くなんてことは、ありえないから。

歩く。
歩くのだ。
───歩かなくちゃ、いけないの。

皆から認められるように。





確かな、眩い現実を掴めば掴むほど、とあるもしも話が頭をよぎっている。

もし、

もしも。

あたしによく似た誰かが、
あたしのふりをして暮らしていたら。暮らしたいというのなら。


あたしの代わりに演じて、援けて、
あたしに「あなたは甘い蜜のような、夢の日々に浸っていていい」と言ってくれるのなら。



「───お母さん、」

「それでも、本当はいいのかもしれない」




 ひみつね。