RECORD

Eno.896 百堂 巡の記録

d06.井戸端プチ職員会議

「ねえこれ何だと思います?」
「何?」
「僕も分かりません」
「何???」

 ころん、と言うにはなんだかべっちりもったりした動きでビニール袋の中を転がる緑色の魚卵的サムシング。
 こんなよく分からんスライムもどき一体何処から持ってきたのかと首を傾げる天狗の講師に、塾長は至極呑気に「螺千城まで行ってきたんですけど」と言い放った。

「何もあんな混み行ったとこ突っ込まなくてもその辺の雑貨屋があるだろうによ、なんだってまた」
「なんか怪奇に人気だって聞いたんですよ」
ソイツの話じゃあ無くてな?」

 たまには冒険してみたいじゃないですか。
 ぼにぼにと卵をつつきながら言う横顔からはその心中を読み取ることは中々どうして難しい。読み取れたところで大したこと考えてないよ、と本人を前に言い放ったサトリの教え子は今日は来るだろうか。
 見せびらかして満足したのか、ビニール袋を鞄の中へ戻した塾長は代わりに新品の朱墨を引っ張り出す。

「ちょっと前にウチで貼り始めたじゃないですか、表シール」
「あァ、やっとるな」
「確か螺千城でも見たな〜と思ってね、買い物ついでに何処にあったか見に行くだけしようと。最近人間増えてるからどうせ出入りも増えるでしょう?」

 大したことは考えていないとは言われるものの、実際大半その通りではあろうけども、まあ何だかんだものは考えているのがこの塾長だ。そもそもある程度ちゃんと表と裏のことを考えていなければ表に渡るための勉学なんて広めはすまいが。
 てぽぽ、と急須の茶を淹れる。
 ちらほら「ゆらぎ」の話は聞いてはいるが、その辺はアザーサイドコロニストが上手くやってくれるんだろうと丸投げしてしまっている節もある。とは言え、この塾にももう少し人の出入りが増えるとなれば他人事ではいられなくなるだろう。

「ウチも玄関口と物置は分かりやすくしとかないかんか。向こうサンはなんて言っとった?」
「様子見に行っただけですよ。あの螺千城の人なんだから、いきなり怪奇からそんな話振られたら警戒するでしょ」
「アンタァ割と人畜無害が顔に出てっから大丈夫だとは思うがね」
「どうかなあ……」

 まあとりあえず廊下はちゃんと繋げときますよ。無害なので。
 すっかり馴染んで久しい人間の顔でお茶を飲むその目元では、くるくると標識が廻っていた。