RECORD

Eno.32 不藤識の記録

monologue. 『明』

 その生活に、疑問を抱いたのはいつだったか。
 小学校に入って、周りとの比較を認知するようになり、自分は他の人と違う生活を送っていることには気づいたけれど。
 それを疑問には思わなかったはず。
 そのスタンスが明確に変わったのは……確か、そう。中学校の進路相談以降か。
 『不藤識』の将来が、何処にもないと知った時だ。


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 将来は、ものづくりに携わっていくものだと思っていた。理工学系の大学に通って、良い会社に就職して、社会に役立つ何かを作る。
 例えば、今より性能のいい翻訳機だったり。
 進路相談の日程を目前に、そんな事を両親に話したんだけど、彼等はそれを聞いてとても悲しそうな顔をした。
 理由を聞いても、中々話してくれない。
 おかしな話だ。だから、白亜にも聞いた。彼女も同様、何も話してくれなかったんだけど。

 その時点で、自分には知らないことが多すぎた。
 白亜の事情とか、両親が何をしているのかとか、自分の立場だとか……いや、違うか。
 知ろうとしていなかったんだ。


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「よく来たね。今日もお疲れ様」
「じゃあ早速、今日は歴史の続きから――」


 いいよ。
 続きは要らない。それよりも聞きたいことがある。

「お、珍しいね」
「どうしたのかな?言ってごらん」


 君、しろひめ様だよね。

「……ふむ」
「今更その話を」


 問題はそこじゃなくて
 不藤識の名付け、君が行ったんでしょ。

「……それで?」


 言っちゃ悪いけど、しろひめ様ってそんなに強い神秘じゃないよね。その土地限定でちょっと凄いことができるくらいの。それだけの怪奇。
 俺の名前を不藤識にした理由も大体わかった。けど、名前を識にしたのは不味かったかもね。

「……吾の決定に泥を塗るとは」
「其方らしくない言動じゃな?」


 泥を塗るつもりはないんだけどね。
 13年前、ここの神社に捨てられていた俺を拾って、物理的にも神秘的にも不安定だった俺を定義したのは君だ。
 この名付けで、俺の神秘に干渉したかったんでしょ。
 神秘を2つに分けて、扱いやすくした。
 形がよく見えるようになったから、分けられた大元の制御も効きやすくなった。
 ここまで合ってる?

「……」


 黙秘か。
 やっぱりこれは暴かれたら不味い事なんだね。でも、俺は続けるよ。この先をりたいから。
 裏の神秘、と呼んでる方。こっちが俺の本体なんでしょ?不等式は表、後付けのガワ。この2つは別物で、人格も……一応同じだけど、外からの見え方が全く違うよね。

「そこで止めよ」
「其方は自滅しようとしておる」
「まだその時には早い。今は――」


 何言ってんの。もう遅いでしょ。
 落陽明松は熱を奪う。対象は炎だけど、近ければ近いほどその神秘は拡張される。今回の対象は自分自身だ。
 落陽明松は、不藤識から熱を奪っている。
 同一存在だから、心意までが対象に拡張されてるんだ。
 だから、『不藤識』のガワ、人格、精神はいずれ消える。

「止めよ」
「それ以上をこの場で宣言するな」


 あってるでしょ?だから早く知りたいんだよ。



――俺の。『不藤識』としての寿命は、いつなんだ?



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 残火は、今も心の内に燻っている。
 それを絶やさないようにするのが、今の習慣。
 きっちり白い制服に身を包んで、毎朝早くに起きて、仲の良い人には適度にノリ良く、そうでない人や先輩には丁寧に。
 不平等を嘆きながらも、誰かのためになることをする。
 平等を願いながら、日々を全力で生きる。

 どうか。他の人は、こうなりませんように。
 そんな思いを抱きながら、消えゆく熱を大事に抱えている。
 今はまだ、このままで居たいから。