RECORD
シェルショック
([英]Shell-Shock [独]Kriegszitterer [日]砲弾ショック)
心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の一種である症状を表現するために作られた造語。
大戦争(Great War)時代の言葉であり、年代的には1910年代に生まれたものである。
戦場での爆撃や戦闘の激しさに対するストレス反応が引き金となり、
パニックや恐怖反応、逃避行動、理性の欠如、睡眠や歩行障害、会話不能など
様々な形となって現れ、無力感を引き起こすのが主な症状。
その特徴から『大戦争』の時代のみのものと長らくみられてきたが、
ごく最近では亜米利加軍の海兵隊が中東の戦場などでテロリストと遭遇した際、
IED(即席爆弾)による爆発で被害を受けた兵士が同様の症状に陥る事が報告されている。
―留学2日前 アメリカ合衆国 某国立公園自然保護区―
少年の孫と出会って8年が経ったある日、孫とその妻は私にある提案をしてきた。
それは、日本の『北摩テクノポリス』と呼ばれる地域への留学である。
あまりにも突拍子な提案だったが故に、私はその理由を訊いた。
孫の妻曰く、日本には数多くの面白い話が眠っているらしく、私を娘の様に接するが故に
『留学』させて思い出話を聴きたいと言った。
少年の孫は、北摩テクノポリスにも実は自然保護区があり、いつか仕事で向かうかもしれないから
『留学』させて現場の雰囲気を調べて欲しいというものであった。
どうやらこの二人は私を『都合よく』解釈してくれているらしい。確かに娘を演じ続ければ留学など容易い事だ。
言語に関しては我々「守護天使」にとっては壁となりにくい。長く生きたが故の知識量から勉学を行えばすぐに吸収もできた。
そうして『留学』の話題が出たのは半年ほど前の事。
その日から今日にいたるまで、その国の言語や作法を勉強しつつ――時にスラングなども学ぶ為にメディアにも触れ――
孫の仕事の手伝いをしながら過ごしてきた。
そんな留学も迫るある日の夜、孫は私を狩猟小屋……ならびにキャビンへと呼び出した。
「パパ~。眠れないの? ……なんてな。呼び出したのはどうせ……
留学するのは寂しいからやっぱ残ってほしい、とかだろう?パ~パ」

「はは、違うぞ!娘よ。でも半分くらいは合ってる。パパ呼びが定着して
私は嬉しいよ。本当の娘の様に見てきたからね」

「少なくとも、パパがそう私に願ったから――それをよしとしたから――そうなっているの。
で?なんで呼んだの」

「実は……ママからお前にプレゼントがあるというんで、荷物を送って来たんだ。
留学時に着る衣服と、あとパパの実家の……おじいちゃんの荷物から見つかったアクセサリ類だね」

「……。」
「ママからの衣服はいいとして、アクセサリ類は何さ。どういう意図?」

「どうにも、向こうの国の子供達は結構自由なコーディネートを楽しんでいるようでね。
お堅い貴族の服なんて着ていけば、浮くのは間違いない。だからママなりに
カジュアルな衣服を選んでくれたようだよ。下着まである」
「下着まであるとか言うな!パパ、もしかして中身見たの!?!?!?」

「勿論!」

「勿論!じゃない!!仮にも『娘』に届いている荷物!デリカシー!!」

「……あ!確かにそうだね。はは、これは失礼……。
ともあれ、一度着てみたらどうかな?」
少年の孫は変な所でデリカシーがない。
私を娘扱いするなら、実の娘の反応を想定すべきだと言うのに。下着まで視るとは……。
流石の私と言えど、孫の『仕事』以外への適当さには呆れながら孫の妻が届けた衣服に袖を通した。

「……どう、似合ってる?」

「おお!ドライゼ……いつもフード姿だったからね。とっても可愛いよ。自慢の娘だ」
「照れるね。……でもパパと私は似ていないから、これだと……」

「そういうのはよしてくれ、やめなさい、本当に、本当にね」

「ふふふ……さっきのデリカシーの無さへのお返しで~す。パ~パ♡私とイイコトしよ♡」

「やめて!!」
たまにはこうやって孫をからかわないといけない。
まあ、そういう気は一切ないからこそやれる冗談なのだが。
きっと若い頃の少年にやっていたら大変だったのかもしれない。

「さて、それでね、ドライゼ……。
ママから届いたアクセサリに、これが入っていたんだけど――何か分かるかい?」

「ママからのアクセサリねえ、パパのおじいちゃんの品も入ってるとは言ってただろう、から、」

「……、」

「え、なん、」
目を引く沢山の宝石のアクセサリ。どれもこれも、妻が用意したのだろう。
貴族の血を引く二人の娘として、慎ましやかに華やかさを持たせるために。
……だがしかしその煌めきと華やかさの中に、1つだけ異質なものが混じっていた。
真鍮でできた、十字架

忘れたかった思い出

忘れられなかった出来事

やめろ。

やめてくれ。



「ドライゼ!?」
私は気付けば、十字架を握りしめたままキャビンを飛び出し――
夜の自然公園の奥へと走っていた。
なんで、なんで、これがここに。孫の妻が見つけた?ありえない。だってこれは―――――

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