RECORD
Eno.182 ■■ ■一の記録
-47 我が逃走
「あの失敗作のようになるな」と圧を受け、私に対する要求は次第にエスカレートしていった。
当然そのために犠牲なく走り続けられるほど私も器用ではない。常にトップであり続けるため、私は多くを犠牲にしていった。
実利なしと見做された娯楽は全て排され、私はより一層機械へと近付いてゆく。
人脈など不要、利用できる関係性のみを信じろ。お前は完全無欠であれ。今の投資が未来全てに幸福を齎すのだ。そのような言葉を何度聞いて来ただろう。
今にして思えばこの段階でかなり病んでいたのかもしれないが、無垢な子供は当然正常な基準も理解できていないまま育ってしまった。
壊れた私に残された唯一の実利なき娯楽は、見捨てられた失敗作との交友だった。
私自身は彼を対等に扱いたかったが、自尊心を砕かれ続けた彼は終始怯えていた。なにせ彼からすれば上位存在との接触だ。恐怖を感じないわけがないだろう。
それでも私にとっては唯一と言っていい拠り所。およそ10年ほど、私は彼と信頼を築こうと心を砕き続けた……もちろん両親の目を盗んでだ。
さて、そのようないびつな青少年期を過ごし続けた私は努力の甲斐もあり地元の医学科への合格をあっさり勝ち取った。拍子抜けともいえる勢いに一瞬気が抜けてしまったほどだ。
しかし、当の私自身はそこへの進学を全く考慮に入れていなかった。
このままレールに乗り続ければ彼らの言う「成功者」に近付けるかもしれないが、ずっとあれらの言いなりになり続けることだけはしたくなかったのだ。
有り体に言えば反抗期かもしれないが、どちらかといえば弟を解放したかった一心だった。
私さえいなくなれば、彼にはまだ未来の可能性があるかもしれないから。
そのために当時の担任へ頼った。
彼自身三者面談で我々の抱える異質さにはなんとなく気付いていたようで、事情を話すとあっさり協力を取り付けてくれた。これで本当に両親にすら密告しなかったのだから大人というのは恐ろしいものである。
入学辞退に、代わりとなる働き口の確保まで。彼は不審なほど協力的だった。
届け出を学校から申請し終えた頃に気になって理由を問いただしたところ――
「教え子の幸せと……俺の息子のためさ。
お前が辞退すれば繰り上がりで合格する可能性が高まるからな」
――そういう裏はあったらしい。
どうあれ、これで準備は整った。
存在しない入学式の朝、私はこの呪われた家から逃げ出す。
当然そのために犠牲なく走り続けられるほど私も器用ではない。常にトップであり続けるため、私は多くを犠牲にしていった。
実利なしと見做された娯楽は全て排され、私はより一層機械へと近付いてゆく。
人脈など不要、利用できる関係性のみを信じろ。お前は完全無欠であれ。今の投資が未来全てに幸福を齎すのだ。そのような言葉を何度聞いて来ただろう。
今にして思えばこの段階でかなり病んでいたのかもしれないが、無垢な子供は当然正常な基準も理解できていないまま育ってしまった。
壊れた私に残された唯一の実利なき娯楽は、見捨てられた失敗作との交友だった。
私自身は彼を対等に扱いたかったが、自尊心を砕かれ続けた彼は終始怯えていた。なにせ彼からすれば上位存在との接触だ。恐怖を感じないわけがないだろう。
それでも私にとっては唯一と言っていい拠り所。およそ10年ほど、私は彼と信頼を築こうと心を砕き続けた……もちろん両親の目を盗んでだ。
さて、そのようないびつな青少年期を過ごし続けた私は努力の甲斐もあり地元の医学科への合格をあっさり勝ち取った。拍子抜けともいえる勢いに一瞬気が抜けてしまったほどだ。
しかし、当の私自身はそこへの進学を全く考慮に入れていなかった。
このままレールに乗り続ければ彼らの言う「成功者」に近付けるかもしれないが、ずっとあれらの言いなりになり続けることだけはしたくなかったのだ。
有り体に言えば反抗期かもしれないが、どちらかといえば弟を解放したかった一心だった。
私さえいなくなれば、彼にはまだ未来の可能性があるかもしれないから。
そのために当時の担任へ頼った。
彼自身三者面談で我々の抱える異質さにはなんとなく気付いていたようで、事情を話すとあっさり協力を取り付けてくれた。これで本当に両親にすら密告しなかったのだから大人というのは恐ろしいものである。
入学辞退に、代わりとなる働き口の確保まで。彼は不審なほど協力的だった。
届け出を学校から申請し終えた頃に気になって理由を問いただしたところ――
「教え子の幸せと……俺の息子のためさ。
お前が辞退すれば繰り上がりで合格する可能性が高まるからな」
――そういう裏はあったらしい。
どうあれ、これで準備は整った。
存在しない入学式の朝、私はこの呪われた家から逃げ出す。